第3話 中身

 私の指は止まらなかった。彼が好きだと言っていた人の名前をすぐに検索し、三千人近くいるフォロワーからそれらしきアカウントを見つけて一つずづタップしていく。

 きっとさっきまでいた彼の前の顔とは全然違うだろう。私の顔は今、何に対してなのかわからない憎しみ、憎悪、不安、そういったネガティブな感情で埋め尽くされている。

 いつものメールの文体、よく使う絵文字、猫を買っているかどうか、どんなアニメが好きだと言っていたか。私が彼から聞いて特徴を捉えるものを本当に一つずつ片っ端から見ていく。


 最後のスクロールをしたところで、心当たるワードが幾つか入っているアカウントを見つけた。「これは、しんどーさん、かもしれない...」断定はできないが、私が探していたアカウントの中で一番彼らしさが出ていたのだ。

 独特な言い回し、決まった絵文字、身元をバレないように隠しているその文章まで、一度そうだと思い込んでしまうとやはり彼にしかならなかった。


 恐る恐るツイートを遡ると、私に関するツイートらしいものは特になかった。

 隠しているのだから、それがないのは当たり前だが、そこに「私」が本当に存在していたのか不安になる気持ちも抑えきれなくなった。

 Twitterの中での彼は幾分か活発で、人懐っこく会話している様子が見受けられる。

 私はこういう場面を絶対に見ないようにとしていたのに、どうして見てしまったのか。隠されているということが只々哀れになるのが分かっているではないか

 目の前にあるものを知ってしまって恐怖を感じた。明日からの私はきちんと生身のしんどーさんを見て話すことができるのだろうか。

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