第2話 もの
それから数日後、しんどーさんと会う日になった。
彼はボソッと放った「宝物」の件はすっかり忘れているようだったので
宝物って意外と持ってない物だねー、とゆるい会話をしていた。
「そういえば、もう亡くなってしまったけど、そういうおじいちゃんとかおばあちゃんからもらったものは大切だなぁ。」
宝物、と類義語で出てくる大切という言葉が出てきた。
私には残念ながら大切にしているものはない。世間体的に、人間付き合いだって飲食店で配膳されたお皿を綺麗に使うことだって、大切だとは思っているが、誰かから見て「大切そうに扱ってる」ことが伝わればいいと思った。
こういうことを考え始めると良くないのかもしれない。自分の本性がどんどん汚く、大雑把であるのを隠そうとしているのを実感してきてしまうからである。
「咲ちゃんは、きっとこれからできるよ。宝物」
一回りくらい歳が離れたしんどーさんは。私があと十二年ほどあれば何かあるよ、きっと。と笑いながら言ってくれる。
それと同時に頭の上に置かれた手のひらは暖かく、今不安に思うことはないんだと安心して目を閉じる。
しんどーさんはその後ぎゅっと身体を引き寄せ、変なことを考えていた私を安心させてくれた。
深夜三時半ごろ、しんどーさんは帰っていった。私はもうほとんど寝ている状態だったが、彼が玄関から手を降ってくれているのに気づいてなんとか振り返すことができた。
少し目が覚めてしまったから、携帯でも開こうと、Twitterを開くと、私が大好きなネット番組の配信者や、しんどーさんが教えてくれた面白い語り手さんをフォローしている。私から呟くことは何もないのでいつも見ているだけだったが、今日はしんどーさんに会っていた余韻もあったのでなんとなくアカウントを見てみようという気になった。
彼がTwitterをやっているのは知っている。私も彼も偽名でやっているので、お互いがどのアカウントなのかは知らない。
私は勝手に彼のSNSの世界に入っていくのが怖かったのだ。知らないところで何をしているかなんて知る必要がない、知っていたらもっと深く色んなことを聞きたくなってしまう。「あの人は誰?」
ここまでを一気に考えて怒りに似た感情が出てきてしまうのも分かっている。もうどうしようもないのだ。
だから、しんどーさんとは現実世界以外では繋がらず、ただ目の前にいるしんどーさんだけを信頼することで、その数時間はとても幸せに満ちたものだった。週に一度、そういう日があれば心は保たれる。半年かけて気付き、我慢して、見ないようにしていたところだったのだ。
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