鬼王の産声

旅立ち

師匠とリンさんが見えなくなるまで手を振る。

この5年間なんだかんだ師匠に頼って生きてきたけどこれからは全部自分でしなきゃな。

かなり寂しいが俺にはゼインがいるから大丈夫。

そう自分に言い聞かせて孤独感を払う。


「ゼイン。ここからは俺とお前の二人きりだな。

どんな敵が出てきても蹴散らしてやろう。」


そう言いながら跨っている背中を撫でてやる。

すると当たり前だろと言いたげに尻尾で背中を軽く叩いてきた。

こいつ親父さんと違ってめちゃめちゃクールなんだよなぁ。

俺はこいつと五年間毎日のように会ってたから背中に乗せてくれるけどもし俺と師匠以外の誰かが背中に乗ろうとしたらおそらく一瞬で殺しにかかると思う。それくらい龍として自分が認めた奴以外は背中に乗せないというプライドが高い。まあ俺に対しては結構ツンデレだし高いプライドも龍らしくてかっこいいからオールオッケーだよな。


そんなツンデレ龍と俺が向かう先は最初に転生しようとしたシセルギア帝国である。他の地点も色々と考えてみたのだが大陸の西側半分はラトレイア神聖国家の影響下にあって全体的に亜人を差別する傾向にあるらしい。

それとは対照的に大陸の東半分はシセルギア帝国の影響でそういった差別がほとんどないらしい。

そうなると必然的に候補は大陸の東半分に絞られる訳だが、なんとシセルギア帝国は東大陸の中で最も亜人差別が少なくかつ最も大きい国という超優良国家なのだという。しかも俺がしたい冒険者の総本部があるのもシセルギア帝国の首都らしい。

ここまでの条件でもう既にシセルギア帝国推しの自分が激しくペンライトを振っていたが調べてみるとさらに魅力的なことがあった。

なんとシセルギア帝国の隣にはあの間違いなく世界一危険な場所と言われる”原初の森”があるらしい。

原初の森とは、その危険度は空島を軽く抜くと言われており太古の時代から生き抜いてきたと言われる超強力な種族がわんさか住んでいるらしい。

もう聞いただけでワクワクしてくる!

なので計画としてはシセルギア帝国で冒険者をしながら原初の森に入って修行兼冒険者業に勤しむ予定だ。正直超楽しみである。めちゃくちゃ有名になってやるとか可愛い女の子とデートしたいなんてThe雄な事を考えていると不思議とさっきまで胸の中にあった孤独感が消え、未来への希望でいっぱいになっていた。

よし、やってやるぞ。必ず世界に俺の名と天神流の再来を轟かせてやる!!


「見てろよ世界!!吠えろ!ゼイン!!…ほら!早く!」


急かすと鬱陶しそうにこっちを見ながら


「GHAAAAAAAAAAAAAAA!!」


と吠えてくれた。やっぱこいつツンデレ可愛い。なんて思ってると今度は頭を叩かれた。いや結構痛い






___________________________

出来れば目立ちたくないので朝日が昇る前に大陸に着きたかったのだがゼインが予想以上の速度を維持してくれたおかげで余裕を持って着けそうだ。

こいつ成長速度が速すぎて俺がこいつの背中に跨る度に速度も持久力も上がってるからほんと末恐ろしい子である。


まだ時間があるのでいつもしていた修行でもしておこう。

体の奥から風の魔力と雷の魔力を起こして体全体に薄く均等に、かつ力強く張り巡らす。

よくラノベである属性の身体強化がこれに当たる。この技を天神流は”天衣てんい”と言い数ある属性の身体強化の中でも飛び抜けて難しいと言われている。まあその分強化もされるのだが。

この作業を一瞬で行いすぐ消してを何回も繰り返す。これによって急遽戦闘になる際にすぐ対応できるようにしておく。


俺は簡単にやってるけどこれマジで難しいからね?

天神流はほんと鬼畜な技しかない。

というか天神流は全ての技が難しすぎて雷神と風神の加護を持っている人じゃないと到底修めきれない。多分普通の適正持ちが習得しようとしたら一生かけて技の一つ二つを修得するのが精々だと思う。

そんな難しい作業と同時進行で常々師匠に言われ続けてきた流派の構成について考え成り立ちを理解するという作業もする。

構成を理解することで技の習得速度やどの場面でどれが役立つかなどの判断力が上がるらしい。

まあ言うなれば物理の公式の成り立ちを理解するみたいなものである。

まず天神流は”攻の型”と”守の型”があり、攻の型は主に雷を使い守の型は主に風を使う。勿論例外もあり攻の型に風を使う事もあるが基本的にはこうだ。

属性で分けて考えると風が移動や守備などその他諸々のサポートや攻撃で使う万能的なイメージなのに対して、雷は攻撃などの戦闘用のみで使うという特化型なイメージである。こうやって頭の中で整理していくと徐々に徐々に天神流の深淵に近づいて行けるらしい。


三時間くらい経過したところで最近見てなかったステータスを確認のために見てみようと思い立つ。


「ステータス」


名前:リオ カミサカ

種族:天嵐雷鬼

加護:雷神の加護 風神の加護

称号:

能力:異世界言語 鑑定 天神流極至てんじんりゅうきょくち 天如魔法てんじょまほう

   龍騎乗 威圧


久しぶりに見たけど俺も強くなったなぁ。

種族は天嵐雷鬼となり鬼人から三段階進化した種族だ。王級半歩手前のような強力な種族であり次進化したら王級になれるだろうと師匠が言っていた。

鑑定は修行中に相手の弱点を必死に探していたらいつの間にか習得していた。

師匠に言ったら俺が習得するまでどんだけかかったと思ってんだ…って呆れてた。褒めてくれよ。

天神流極至は天神流の全ての技を使えるようになった時にスキルが進化した結果習得できた。このスキルに進化した時はやっと師匠に近づけた気がしてほんとに嬉しかった。

天如魔法は簡単に言うと天神流バージョンの雷魔法と風魔法である。相当難しいが使い勝手や威力やその他諸々の性能が風魔法と雷魔法の最終進化スキルより優れていると言っていた。

実際このスキルも修得するのはまじで大変だった。

だが攻撃魔法はその分めちゃめちゃにかっこいいし威力が高いので気に入っている。

龍騎乗は普通にゼインに乗ってたらいつの間にか能力欄にあった。威圧も空島の魔物と戦う前に気合を入れて相手を睨んでいたらいつの間にか習得してた。まあそんな感じである。

ふと目を前に向けてみると雲を抜けシセルギア帝国が見えてきていた。この世界に来て初めて見る都会は中世ヨーロッパのような夢に見たファンタジーの世界が広がっていた。テンション上がる!

街の中央を見てみると綺麗でどデカい王城が立っていてそこを中心に円を書くように都市が広がっている。

夢が広がるな…シセルギア帝国でしたい事は沢山ある。天神流の再来を世界中に広めたり、Sランク冒険者になってかっこいい二つ名もつけられたい。タイプの女の子とデートもしたい。言い出したらキリがないが他にもまだまだある。

だが一番の目的は何かと言えば強い奴と戦って自分をより強く大きな男にしたい。この気持ちがいちばん強い。


「ワクワクしてきたなぁ〜!ゼイン、俺らの力この世界に思い知らせてやるぞ!」


そう言うとゼインはどこか機嫌の良さそうな様子で空を飛んでいた。

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