五年後

早朝。小高い丘の上で二人の男が激しく刀を打ち合う。辺りは既に綺麗さっぱり吹き飛ばされており打ち合いの激しさを物語っていた。

神がかった技術をお互いが用いて何度も何度も切り結んでいたが、突然鬼人が大きく退き上段に刀を構え直す。

鬼人は刀に纏わせる魔力を瞬時に風から雷に切り替え、芸術的なまでに均等に張り巡らされた雷は激しく怒る龍のような咆哮を上げた。


「終わらせに行きますよ師匠!」


そのまま神速で踏み込み上段から刀を振り下ろす。

相対する男は嬉しそうに笑い


「やっぱお前は天才だ!!だがまだ甘ぇよ!」


そう言うと刀に纏わせる風をより一層強くし振り下ろされた刀を迎え撃つ。


刀が合わさった瞬間鼓膜が破れるほどの轟音を撒き散らし閃光が迸るほとばしる


しばらくして光が止むとそこには刀を持つ手が大きく弾かれ首に刀を当てられた鬼人と余裕そうな笑みを浮かべる男の姿が見えた。


「おかしいだろ流石に!なんで基本の守の型であれが受け流せるんですか!」


「基本の型も極めればここまで行き着くんだよ。

ほら!飯にするぞ!」


そう言うと男は刀を仕舞い丘を下りていった。






___________________________


あれから5年が経った。

この5年は本当に楽しかった。勿論修行は死ぬほど厳しくて数えきれない程死にかけたが自分のしたい事が出来てる満足感で不思議と辛くはなかった。

俺はこの5年間で天神流の免許皆伝に至り全ての技を習得し終わった。師匠曰く既に俺はこの世界でも屈指の強者になっており才能だけなら師匠をも軽く超えているらしい。

それだけべた褒めされているにも関わらず俺はその実感があまり感じられずに五年間が経ってしまった。何故って?

そりゃそんだけ褒めてもらった人に五年間毎日毎日ボコボコにされてるからだよ!

俺だってこの五年間で体操で培った天才的な身体操作能力と鬼人のポテンシャルをフルに活かして相当強くなっている。現にこの空島じゃあ島内の最上位の魔物以外には苦戦しないレベルになった。

それでも未だに師匠の力の底が全く見えないでいる。

この前だって島内最上位クラスの王級の魔物を相手によそ見しながら俺に戦い方を教えていた。

俺が相手したら本気出してようやく引き分けレベルの魔物を。大陸で出現したら大国が全勢力使ってやっと倒せるかどうかのやつをだよ?

そりゃ師匠の言うことだって信じれなくなる。

そんな愚痴っぽいことを考えていると外から師匠が俺を呼ぶ声が聞こえる。


「リオ!出てこい!そろそろこの島出るんだからリンのやつの所に挨拶に行くぞ!」


「わかりました!今行きます!」


リンさんとは師匠と仲の良いとんでもなく強いドラゴンのことだ。

リンさんはこの島内で一番強い魔物であり種族も”光天始元龍王”という神級に片足突っ込んでるどころか王級に片足しか残ってないレベルの王級最上位の魔物である。当然知能も高く流暢に人語を喋るので俺からしたら気の良いおじさんみたいな人だ。


詳しくは知らんが昔はラトレイア神聖国家という魔物・亜人は絶対悪!!という思想を持った大国で”神の使い”として崇められてたらしい。

超強力な光属性を持っているので勝手に勘違いしてそんなこと言われてたらしくかなり鬱陶しかったが気に入った人間がいたからしょうがなく付き合っていたと言っていた。


外に出て師匠と他愛もない会話をしながらしばらく歩いていると純白に光る鱗で覆われた神秘的な龍が見えてきた。あんなカッコイイ龍はリンさんしか居ないだろう。

四足で立つとおそらく15mくらいの大きさで見た目だけでいうと”神の使い”とそう思わせるほどの風格が確かにある。まあ喋るとただの人の良いおっさんなんだけどね。


「こんちは!リンさん!」


「なんだ?今日は俺との修行の日じゃないだろう。」


「そうなんですけど今日はちょっと話があって。

実は俺外の世界に出て、一人で修行することになりました!」


「ほう!確かにそれは大事だな。腕っ節だけじゃない強さが分かるだろう。」


「らしいですね!師匠もそれが目的って言ってました。」


すると師匠が


「だろ?ここでひとつ提案があるんだが…お前の息子も一緒に旅させねぇか?」


ふぁ?聞いてねぇぞ?


「え!急に何言ってんですか!聞いてないですよ!」


「あ?だって今思いついたかんな。」


あーだこーだ言ってると急にリンさんが笑いだし


「それは良いなルドラよ!お主やはり頭が良いな!

そろそろあいつにも外の世界を経験させたいと思ってたんだ!」


「そうだろうと思ってたよ!我が友よ!」


そう言うとこっちの意見なんて聞かずに二人でガハガハ笑いだした。あのアホ師匠2人組め…

いやまあいんだけどさ、ゼインと仲良いし。

ゼインとはリンさんの息子で同じように光属性の龍である。ただリンさんとは違って人語を喋れず人化も出来ない。しかしその分知能と才能は他の龍よりも高くその内リンさんを抜く実力をつけるだろうと言われている。

龍という種族ではたまに他の龍が出来ることが出来ないが何かしらの才能が飛び抜けて優れるイレギュラーな存在が生まれるらしい。

まあ人間でいうところの障害を持った人がそれとは対照的に何かしらの優れた能力を持つような感じだと思う。例えば盲目のピアニストなんてわかりやすいだろう。

実際ゼインと一緒に森で修行してた時にその才能に何度も驚かされたことがある。

まあゼインとだったら絶対楽しいだろうななんて考えてると師匠が


「ていうことで話がまとまったからゼイン呼んで今から準備するぞ。」


「え、今日出なきゃなんですか?!」


「そうだ!今日出発だ!」


「え、聞いてないですよ!」


「だから言ってねぇって」


「いや言え!絶対言え!心の準備とかあるだろ!このアホ師匠!」


「おい!弟子はそんな口聞くな!ちょっとボコボコにしてやるからこっち来い!」


「行くか!ゼインこっちに来い!背中に乗らせてくれ!逃げるぞ!!」




___________________________


まあなんやかんやあってその日のうちに準備を終わらせて日が落ちる前に出ることになった。


「まあ気が向いたら帰ってこいよ。あと今日からお前はリオ・アマテラスと名乗れ。天神流は免許皆伝した弟子に世襲させる伝統があるからお前も弟子を見つけたらそうしろ。」


「おお!リオ・アマテラス…!わかりました!」


「それとお前だからないとは思うが毎日の修行を忘れるなよ?お前は確かに強いがまだまだ伸びる。」


「当たり前です!俺は世界最強になる男なんで。」


「それでこそ天神流の継承者だ。ほらよ。」


そう言うと師匠は一振の刀を渡してきた。


「こいつは昔、俺の師匠が高位土人ハイ・ドワーフの名匠に打たせた”鳴神”という名刀だ。こいつを継承者の証としてお前にやる。振り回されんなよ。」


「はい!ありがとうございます!」


「あとこの魔法袋も持っていけ。容量はまだまだなんでも入るから安心しろ。あと中には必要だと思うものと天神流の服が入ってるぞ。超かっこいいから着替えていけ。」


なに?!超かっこいい服だと?!

ドキドキしながら中を開けるとそこには超絶かっこいい服があった。

ベースは黒の漢服であり所々に和のテイストが上手く融合されてる。


「超イケてるじゃないですか!一生大切にします!」


そう言うと師匠は嬉しそうに笑った。


「おう!それ着て世界に天神流の凄さ再確認させて来い!!」


「はい!!ちょっと今着ます!」


着てみると、気温調整、自動修復、清潔、消臭などたくさんの便利な付与が着いていた。

天神流の和服を着てゼインに乗り込みそろそろ本当に出発する。


「今まで本当にお世話になりました!俺は師匠に出会えて幸せです!!」


堪えていた涙が溢れる。恥ずかしくなって急いで涙を手で拭う。


「それじゃあ行ってきます!本当に…本当にありがとうございました!!!」


最後の方は声が震えてしまい上手く発音できなかった。そんな俺を見て師匠が呆れたように笑い

アホ。早く行け。と言う。

ゼインが大声で吠え俺は手を振りながら空へ飛び立つ。

次帰ってくる時はもっともっと強くなって師匠の驚く顔を見てやろうと心に誓った。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「いいのか?本当の事を言わなくて」


「ああ。言ったらあいつ島から出ないだろ?」


「たしかにな…だが大陸に着いたら真実を知ることになるかもだぞ?」


「そんな事起きると思えねぇけどな。まあ起きたら起きただ。今考えんのはめんどくせぇ。」


「ふん、まったく。お前らしいな」


そう言うと龍と男は歩き出した。

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