★特別編★ クリスマス会の裏側で
第201話 【有栖羅市の場合】
あたしの名前は有栖羅市。
三度の飯より酒と喧嘩が大好きなごく一般的な女の子だが、強いて違うところをあげるとすれば、人間じゃないところかナー……なんてこたァどうでもいいぜ。
今日、なんであたしが武人会本部へやって来たかっつーと、武人会主催のクリスマスパーティーにお呼ばれしたからなんだよ。
もちろん、魔琴も一緒だ。
「姉さん聞いた? あきくん『あららぎまどか』との決闘に勝ったんだって! ……ボク、『まどか』のこと知らんけど」
「らしいな。まァ、
……とはいえ、蘭の武符術は言うほど甘くねぇ。
あたしは割りとマジでワンチャンあるとは思ってたが、あくまでもワンチャン。それをモノにするには相応の実力が必要だ。
(アキはあたしが思ってる以上に
「ああ〜、ボクも観たかったなあ! パパが急用だからついて来いって言うから仕方なかったけど……姉さんも観れなかったんでしょ? あきくんの決闘」
魔琴が唇を尖らせている。
何でも親父さんの用事に付き合わされたそうだが、珍しいこともあるもんだ。
「あァ。あたしも急な仕事が入っちまってね。だがまぁ、こうして祝勝会を兼ねたクリスマスパーティーにお呼ばれしたんだからよ、プラマイゼロのトントンってことにしとこうぜ」
「そうだね! いっぱいお祝いしてあげよ〜っと!」
なんてダベりながら武人会のでっかい門の前へと到着すると、武人会の下っ端がやたら丁寧に出迎えてくれるから毎度の事とは言えこそばゆいぜ。
「オイオイ、楽にしてくれよ。今日はパーティーだろ? 無礼講だぜ無礼講」
なんて言っても下っ端クンは「いえいえそんな」とか言って最後までその態度を変えなかった。
まぁ、マヤがふたりも同時に来れば無理もねェかもだが、刃鬼のおっさんの仕込みがそうさせるんだろうな。
つーわけで会場へ通されたんだがなんてこった、もう始まってんじゃねーか。
「ありゃ、出遅れちまったなァ」
でもまぁ堅苦しい挨拶的なモンをスルーできたのはラッキーかも。
なんてことを考えてると、魔琴が「あっきく〜ん!!」とか言っていつもの調子でアキ目掛けで突っ込んでいった。
「オメデトウあきくん! お祝いのプレゼントはボクだよぉ〜! とりまハグして! つーかもう好きにしてイイよ! ぎゅ~っ!!」
「ま、魔琴、苦し……」
「こら! 魔琴! 離れなさいぃ〜!」
とまぁ、いつものやり取りがはじまった。
「ははっ、あいつら仲良いなァ」
あたしは取りあえずその辺にあった酒を拝借して一杯引っ掛け、虎子と巫女ちゃんを探した。
「……お、いたいた。虎子、巫女ちゃん!」
「おう、有栖。来てくれたか」
「こんにちは羅市さん」
ふたりともサンタの格好なんかしちゃってゴキゲンじゃねぇか。
まぁ無理も無ぇか。アキ側にしてみりゃ大金星だもんな。
「アキの野郎、やるじゃねぇか。あの蘭を負かしちまうなんてよ。あたしもナマで観たかったぜぇ」
「ああ。だが、かなり際どい勝利ではあるがな」
虎子は厳しい評価だが、顔は厳しくねぇ。
素直に喜べばいいのになァ。
あたしは隣りにいた巫女ちゃんのグラスに自分のグラスを軽く当てた。
「巫女ちゃんもお疲れさん。アキはよくやったよ。お前さんの訓練の賜物だよなァ」
「そうね。でも私も正直驚いてるのよ。アキくんみたいなもやしっ子が私の特訓についてきた事も、円くんに勝ったことも。何もかもが予想外づくしだったわ」
「ま、勝負は水物だからな。だが実力はそうも行かねぇ。アキが見違えるほど強くなったのは違いねえんだ。それは巫女ちゃんの功績って胸張ってもバチは当たらねェよ」
「ふふ、ありがとう、羅市さん」
ふたりとも嬉しそうだがちょっとだけ影がある。嬉しくないわけじゃないが、腑に落ちねぇ部分もあるんだろうな。
それ、すげー分かるぜ。
あたしもそれは感じてる。
(やっぱりアキは藍之助と何か関係があるのか……?)
藍之助は宝才を失った代わりになんもかんもを相殺する
相手が武道の達人なら同レベルの達人に。
相手が学者なら同程度の知識人に。
そんな感じでまるで自分のレベルを強制的に引っ張り上げる事で相手の能力を打ち消している事にしちまう妙な能力だった。
(巫女ちゃんの
……っつーのは流石に考え過ぎか。
そっくりさんってだけで能力までそうだとは無理があらァな。
でも、そんなふうに考えたくもなるぜ。
あそこまで瓜二つと来れば……。
(虎子が変な気を起こさなきゃいいがね。いや、もしかしてもう済ませちゃってたりして……うひひひっ)
なんてちょっとおふざが顔を出す程度には酒が回ってきたぜ。
あたしもとびきりエロいドスケベサンタコスでもぶちかまして
やたらと白くて綺麗な長髪に、白い肌。
後ろ姿だけでも美人オーラが凄えぜ。
あんなヤツ、武人会っつーか仁恵之里に居たっけか?
「おーいそこのネーチャン! 飲んでるぅ?」
新入りか? そうであってもなくても酒を酌み交わせばソッコーで仲良しだ。
先ずは乾杯!
「お前さん、見ない顔だねェ? あたしは有栖羅市ってんだけど、初対面だよな……って、怖がってんの? 取って喰やしねェから大丈夫だよォ。だから俯向いてないでこっち見てくれよ〜! で、一緒にどエロいサンタコスしよーぜ!」
いきなり肩組んで馴れ馴れしくしたのがいけなかったのか、そいつは全力で俯向いてるからよ、あたしはぐぐっと顔を寄せてそのお顔を拝見したわけよ。
「……お、こりゃあ
あたしの記憶が確かならば……。
「ありま……す、よ、ねェ……?」
じわじわと、固く閉じられた記憶の扉の隙間から染み出してくるようなこの感覚は、あれだ。
あかんヤツや。
「……も、も、もしかして、しゅ、須弥山様……ですかいィ?」
一応確認してみた。
そっくりさんかもしれねェし。
だけど、そいつ……じゃなくて、そのお方は無言でこう、
「……(こくり)」
と、微かに頷いたんだ。
「っ!?」
瞬間、あたしの膝から力が抜けた。
もう既に本能に刷り込まれた行動が、習慣が、何百年かぶりでも正常に働いたんだ。
どすん! とあたしの膝が会場の床を打ち付けて地響きの様な音を立て、皆の視線が集中するのを肌で感じた。
でもでもでもでもそんなの関係ねぇ!
あたしはそのお方の目の前で
「大変失ッツ礼いたしましたァ! 須弥山芙蓉宝望天狐様ァァァッ!!」
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