第189話 魔弾の射手

 レレの生中継はその全てを観衆に伝えていた。


 あの蘭円すら欺いた蓬莱流の隠匿術もさることながら、罠の仕掛けも待ち伏せも、何もかもが理想的……いや、計画通りだったというべきだろう。

 現に、アキの待ち伏せに他の武人達も直ぐには気が付かなかった。現場に居合わせていない以上の感覚的な部分は考慮にいれないとしても、ぱっと見ではとても待ち伏せをされているとは思えない見事なカモフラージュだったのだ。


 そしてその場の全員がまるで円と意識をリンクさせたかのように息を飲んだ次の瞬間。


 ズタァァァン!!


 耳をつんざく銃声!

 アキが雷火を発射したのだ。


 黒い闇がマズルフラッシュのように煌めき、破裂するような衝撃波がスクリーン越しに伝わってくるようだった。


 澄が、リューが、常世が、虎子が……その場の全員が、決着の瞬間に言葉すら失う。



 しかし。



 ドシュッッッ!!


 鈍い音と共に円の手前で雪が爆ぜた。

 雷火の弾丸は円を捉える事無く、地面の雪を穿ったのだ。


 しかしアキは狼狽えない。


 ズタァァァン!!!

 矢継ぎ早の2射目!



 バキッッッ!!


 2発目の雷火は円を捕縛していた樹木を爆砕した。


 そして3射目!!


 ズタァァァン!!!


 ……3射目は何も捉えず、円の側を素通りして林の奥へと飛んで行ってしまった。



 3連続のミスショット!?

 ざわつく観衆の中、不死美だけが何かを知っている様に、意味深に呟いた。

「やはり、わたくしを拒絶しますか……」

「……何? どういうことだ平山?」

 虎子はそんな不死美を訝しむが、その呟きをかき消す様に円が叫んだ。

「なめんなよ国友オオオ!!」

 瞬時に展開した武符は間髪入れずにアキに向かって飛んで行き、その最中に発火するように輝いた。

「げ!? ……くっそ〜! もうちょいだったのに!」

 アキは脱兎の如くその場を離脱!

 直後……


 ドドドドドッッッ!!!


 円の放った武符が一斉に爆発し、あたり一面を容赦なく焼き払ってしまったのだ!


 その様子を見て常世は絶叫した。

「ぐあああッ! やめろこのクソキノコ野郎!! 私の山になんてことしやがるのよ!! ぶち殺すわよ!!」

「ちょ、待て蓬莱! 落ち着け!」

 オーガ全開モードで愛用の変態銃を担ぎ、迷うこと無く山へ向かおうとする常世を必死に止める虎子。

「離して虎子! あのマッシュルームは私が直々に料理してあげるわ!」

「落ち着いてくれ蓬莱! お前が出たら蓬莱山が地図から消えてしまう! ……おい平山! なんとか言ってやってくれ!」

「わかりました。わたくしとしても蓬莱山が焼失するのは御免被りたいので……」


 そして不死美は荒ぶる常世を落ち着けるように言った。

「ご心配なさらず常世さん。全てが終わればわたくしが魔法で山を元通りにして差し上げます」

「ほ、本当ですか不死美さん……」

「魔女は嘘を吐きません。だからどうか落ち着いてくださいまし」

 そして不死美は視線を鋭く、スクリーンを見詰めた。

「現状、さしずめ第二ラウンド終了といったところでしょうか。おそらく、次のラウンドが最終ラウンドになることでしょう」


 確証はない。

 しかし、虎子もそれを肌で感じていた。

 アキは罠や狙撃という手の内を明かしてしまっている。

 円は今後、尚更それらを警戒してくるだろう。

「確かにその通りだな。暗くなっては土地勘のあるアキには有利だろうが、円にとってはそうなる前に終わらせる理由になる」

「左様です。つまり、決着は間もなく……ということです」


 澄はちらりと時計を見やった。

 時計は午後4時を回っている。

「5時にはもう暗くなっちゃうよ……」

 リューはそれを引き継ぐように呟いた。

「あと一時間以内……ですね」


 リューは身が引き締まる思いだった。

 それは澄も、虎子達もそう。

(アキくん……頑張って下さい!)


 彼女達は夕暮れにその色を濃くしていく蓬莱山の大きな影を見つめる事しか出来なかった。

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