第183話 国友秋VS蘭円
アキは来た!
間に合ったのだ!!
澄の瞳が驚きと感激に輝き、リューの瞳から零れ落ちる涙が太陽の光を眩く乱反射した。
「国友ォ……逃げずに来たのは褒めてやるよ……」
円のマッシュヘアがふわりと揺れ、社殿から華麗に飛び降り、音もなく着地したアキを睨みつけた。
アキはその壮絶な修行を物語るようなボロボロの迷彩服で。
円は神職の様な所謂『
ふたりの対峙は陰陽の対峙を思わせる対象的な光景だった。
円の殺気は離れていても肌で感じるほどに研がれている。しかし、アキはその真正面に立っているというのに余裕綽々と言った表情でもう一度宣言した。
「蘭円……敗れたりッッッ!!」
それを見て虎子の脳裏に浮かんだのは『宮本武蔵VS佐々木小次郎』の情景だ。
アキのセリフもさることながら、勝負の場にわざと遅刻し相手の平常心を削いだという逸話もそのままに、まさしく伝説的名場面の再現ではないか!
そして不死美も同じ思いに至ったようだ。
「成程、巌流島の決戦を参考にされたのですね。ですが、国友さんは遅刻したわけではありませんし、円さんも特に動揺している様子は見受けられませんわね」
不死美の言う通り円は特に平常心を乱すこともなく、アキの登場をむしろ冷ややかな視線で迎えていた。
「うるせぇぞ……2回も言わなくても聞こえてんだよ!」
むしろ円はその殺気の密度を増している!
その様子にアキは少し戸惑っていた。
そして「不死美さん! あんまり効果無いっぽいんですけど?」的なアイコンタクトを不死美に送ると、不死美は「不発のようですね」と受け流すように応え、微笑んだ。
「
虎子は不死美を小声で叱るが、不死美はいつものようにニッコリ笑ってそれすらも受け流す姿勢だ。その様子に虎子は思い出したように眉をひそめた。
「つーか平山、なんでお前がここに? ……蓬莱、平山に今日の事を話したのか?」
「いいえ、不死美さんには何も……」
ふたりの視線を受け、不死美はやはりいつものように微笑んでいた。
「実は昨晩、蓬莱山で偶然国友さんにお会いしたのです。その際、今日の件を伺いました。そして、少しだけアドバイスをさせていただいたのです」
「アドバイス? さっきの挑発か? それならお前、わざとだろ……」
「わたくしは内容までご助言して差し上げたわけではありません。戦いは往々として心理戦がその勝敗を分けると申し上げただけで、まさか宮本さんの逸話を引き合いに出されるとは……そうならそうと仰って頂ければもっと的確なアドバイスをして差し上げられたのですが。なにせわたくし、
「限りなく嘘くさいがお前ならあり得ると思ってしまう……」
虎子の訝しげな視線を気にも留めず、不死美はついに対峙したアキと円をじっと見詰め、ふたりからふつふつと湧き立つ戦いの気配に目を細めた。
(流石は蘭家武符術の使い手。凄まじい気配です。しかし、国友さんも中々……)
不死美はアキの思い掛けない成長に胸騒ぎを覚えていた。
(
同時に、それらとは別の可能性を確信していた不死美。それは彼女がそうさせたからにほかならない。
(そちらも間に合いましたね、国友さん……)
怪しく微笑む不死美の美貌に虎子は微かな怖気を覚えるも、それは刃鬼の発した大きな声に刈り取られた。
「静粛に!!」
張り詰めた空気がはち切れ、全員の視線が刃鬼に集中した。
「これより武人会会則第47条に基く決闘を執り行う! 以下省略!!」
端折ったよな……。
ざわつく境内だったが、今まで何度も聞いてきたしもういいかなという空気も確かにあった。だから誰もそれに異を唱える者はいなかった。
武人会の最重鎮・護法巌も『別にいいんじゃないの?』みたいな顔をしているし、刃鬼は次回からもこれでイケると確信。堂々と右手を高らかに掲げ、掌を手刀に象った。
それは
その刀が振り上げられ……そして!
「始めッッッ!!」
振り下ろされた手刀が決戦の火蓋を切る!
遂に始まってしまったのだ!!
そしてそれと同時に円が吠えた!!
「一瞬で終わらせてやらぁぁ!!」
武符を抜き、識を一気に高める円。
「うおおおおおッッッ!」
その気配の膨張はその場の武人達の神経を嫌というほど逆撫でした。
「ま、円!?」
澄は焦った。そして巌の視線も鋭さを増す。
そのあまりにも強過ぎるエネルギーの奔流は手加減を一切考慮しない凄まじさだったのだ。
その緊迫した空気をつぶさに感じ取った虎子も同じ思いだった。
「
しかし円にはもう届かない。
鬼神の如き形相の円にはもう……!
しかし、アキは平然としていた。
むしろ止めに入ろうと立ち上がった虎子をその視線で制していたのだ。
「!?」
虎子の足がピタリと止まった。そして、彼女の肌がゾッと泡立つ。
(この私が気圧された!?)
とは言え、ほんの一瞬だ。
だが、その一瞬を奪い合うのが一流の闘い。
「アキ……お前は一体……」
それほどの修行だったのか。
アキをここまで引き上げるほどの修行だったというのか?
「蓬莱、お前はどんな鍛錬をアキに……」
それを敢行した張本人の常世を横目で見やると、その常世も目を見張っていた。
「アキくん、あなた……」
他の武人達も同じだった。
アキの異様なまでの落ち着き様と、底知れない威圧感。歴戦の武人が困惑するその光景に、ただ不死美だけが満足げな表情で頷いていた。
「……さぁ、見せて下さいまし。
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