第41話 有馬麗鬼の挑戦
唐突に虎子に襲いかかる麗鬼!!
わけもわからないままに始まったバトルにアキができる事は、巻き添えを喰らわないように身を隠す事だけだった。
「やあああっ!」
気合一閃、麗鬼がオーバーアクションなほどに身をひねり、虎子に向かって何かを振りかぶる。
じゃらららっ!
同時に、金属同士が激しくぶつかる「
(鎖っ?!)
アキは目を見張った。
麗鬼の手には3本の棒を鎖で繋いだ武器「三節棍」が握られていたのだ。
「おいおい麗鬼……」
しかし、虎子は呆れた様に肩をすくめた。
「たああっ!!」
麗鬼は手慣れた動きで三節棍を操り、虎子に向けて遠慮なくその先端をぶん投げた。
ビュッ! という風切り音が虎子の眼前を翔ける。残像を微かに残して閃く棍を、虎子は僅かな動きで躱したのだ。
「麗鬼、お前は自分の家を壊す気か?」
虎子はほぼ不可視の速度で舞う三節棍をその目で捉えているのか、続く2撃目も難なく躱した。
「ふんんんッ!」
麗鬼が呻く。余程全力なのか、声から力が漲る。
「落ち着け麗鬼。『また家の修理かよ……』って、刃鬼が悲しむぞ」
「事あるごとに
「うーむ、耳が痛い。でも、わざとじゃないし」
「うるさい! もう二度と
何のことかは分からないが、二人の間にはただならない因縁があるようだ。
「やあああッ!!」
麗鬼が吠え、三節棍がビュンビュンと風を切る。虎子を捕らえきれない三節棍が派手に暴れまくっている。このままでは廊下の板張りや柱、建具なども粉砕は免れない。
「仕方ないな……っ!」
一瞬、虎子の動きが止まった、と思った矢先。
「九門九龍 『
虎子は飛び交う三節棍の嵐をものともせず、あっという間に、まるで棍の雨あられを素通りするように麗鬼の眼前に立った。
「?!っ」
まるで瞬間移動と言えるほどの速度だった。当の麗鬼も理解不能なその速さに動きが鈍ったーーその瞬間を虎子は逃さない。
「麗鬼よ、とりあえず寝とけ!」
虎子は麗鬼を三節棍ごと抱きしめる様に、その胸と腕で正面から「鯖折り」の恰好で締めに行ったのだ。
その速度も凄まじい。あっという間に虎子は麗鬼を捕縛してしまったのだ。
「こ、こら! 離せ! 離せ虎子!!」
抵抗する麗鬼だが、全くの無駄。虎子はますます力を込めて麗鬼を締め上げてゆく。
「ふふ、やめろと言われると余計にヤりたくなるのが人の
「や、やめ……あっ」
麗鬼の声に艶が入った。虎子は鯖折りをしつつ麗鬼の耳に甘く息を吹きかけていたのだ。
「ふふっ、いつの間にかお前も立派な女になったなぁ。いや、『
「ば、馬鹿じゃないの?!こんな時に……んあ!」
「ふふふ、ひひこえほはふひゃないは」
虎子は麗鬼の首筋に顔を埋めてふがふがしながら、別の意味でも麗鬼を攻め立てている。
もはや、この時点で勝負ありだ。そして、実力の差は火を見るより明らかだった。
「くううう……とらこぉ……!」
「また今度ゆっくり相手をしてやろう。精進しろよ、麗鬼」
「……っ」
麗鬼はゆっくりと脱力し、やがて気を失うように『落ち』た。
「これぞ九門九龍『天宮』。まさに天にも昇る心地で相手を無力化する慈悲の技よ」
虎子は余裕綽々と言った風に胸を張り、失神した麗鬼を抱き上げると彼女の手から三節棍が滑り落ち、床に着地する前にそれは霧散した。
「え、は?」
アキの眼前で、手品の様に消え去った麗鬼の
「有馬の血筋はこういう『識』を使うんだよ。刃鬼も春鬼も得物は違うが、同じ事ができるぞ。識の武器化なんてチートだよなぁ」
虎子は騒ぎを聞きつけて飛んできた有馬家の使用人に事の経緯を伝え、麗鬼を使用人に託した。
その間、アキは虎子の言葉を反芻していた。
(識ってなんなんだ? 俺の体の中にも、あんなのがあるのか?)
そんなアキの様子から察したのか、虎子はアキの背中をポンポンと叩いて言った。
「戸惑うのも当然だ。特にお前はそうだろう。しかし、これは運命だと思う」
「運命だなんて、軽く言うなよ……」
「いや、割と真剣だぞ。だってそうだろう?もし、お前とリューが再会しなければ……或いは、お前の所在が判明しなければ、お前は
そして虎子は一寸、真剣な眼をした。
「……そう、まさに運命だ。まるで誰かが裏で糸を引いているのかと思いたくなるほどの、な」
しかし、それも一瞬。虎子はいつもの頼もしい笑顔でアキの目を見た。
「さあ、行こう。そして、刃鬼に訊くといい。お前の知らない仁恵之里の事を」
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