第33話 双子のメイド
今も昔も有馬家の門を守るのは、有馬流の門弟の中でも屈指の実力者であるのが常である。
今日の門番も有馬流では名の知れた男が担当していたのだが、結論を言えば彼は門番としては不適格だった。単純に、実力不足なのだ。
もし、突然現れたこの少女二人がその気になれば、門番の彼は瞬く間に肉塊と化し、少女達の胃袋に収まってしまうだろう。
それ程の……誇張ではなく、天と地ほどの実力差が、彼と少女達とを隔てていた。
その事に、門番の彼は全く気が付かなかった。それが、彼が門番不適格たる単純な理由だった。
「え、ええと……お嬢ちゃんたちは、なに?」
門番の彼は突然の訪問者に泡を食う。
少女二人は彼の質問に一寸顔を見合わせて思案顔をし、すぐに答えた。
「私はマリー・マリオンです!」
赤いメイド服の少女がそう言うと、緑のメイド服の少女が続いて答えた。
「私はマリー・ルイ!」
そして一拍、呼吸を合わせ……
『二人合わせて、マリー
完璧にハモってみせた二人だったが、門番の彼は更に泡を食っていた。
「え、いや、名前じゃなくて……」
「では、なんですか?」
マリオンが言うと、ルイが続けた。
「なに? と問われたのでお答えしたのですが」
「ええと、その、目的っていうか、何で会長に会いたいのかな、っていうか」
するとマリオンはうーんと唸り、面倒くさそうな顔で言った。
「……いちいち説明しないとだめですか?」
「あたりまえでしょ? だいたい、君たちそんな格好で何しに来たの?来る場所まちがえてないかい?」
「間違えてません! 失礼な人ですね!」
ルイはそう言い、頬を膨らませる。
「……ねぇねぇマリオン。もう別に良くない?
「そうだねルイ。一応礼儀は守ったんだし、すんなり通してくれないこの人が悪いんだもんね」
マリオンは門番の彼を見て、再度微笑んだ。
「そういうわけなんで、通りまーす」
そして二人が何事も無いようにすたすたと前進して有馬邸内へと入ろうとするので、門番の彼は慌ててその行く手を遮った。
「ちょ、ちょっと待って……待て!」
彼は目の前を素通りしようとするマリオンの肩を鷲掴みにして静止しようとしたが、その小さな肩に触れた瞬間、突然襲いかかった激痛に耐えきれず膝をついた。
何事かと激痛の元を見やると、それはマリオンを静止しようとした自分の右手だった。
彼の無骨な掌に対抗するように、マリオンは彼の右手首を鷲掴みにしていたのだ。
瞬間、門番の彼の汗が一気に冷えてゆく。
(いつの間に……それに、外せない!)
手首を掴まれている。ただそれだけなのに、大の男が痛みに耐えかね膝をついて悶絶した。
物凄い握力なのだ。骨が砕けそうだ。声も出せない。
大の大人の、哀れで滑稽な姿に、ルイは見た目とは裏腹な嘲笑を浮かべた。
「だっさぁ。自分が弱っちいの、わかってないの?」
マリオンは屈服するように
「
そしてマリオンは枯れ木でもへし折る様に門番の手首を捻り上げ、そのまま軽々と……
門番の彼の意識は、次に来る絶望的な痛みを覚悟するよりも、様々な疑問や悔しさの濁流に支配されていた。
この子供たちはなんなんだ?
腕力だけでもレベルが違いすぎる。
これまで自分が積んできた鍛錬を嘲笑うかのような絶対的戦力差。
自分が無価値であると言わんばかりの少女達の態度。
悔し涙すら待たずに、その激痛は右腕も、剣術家としてのキャリアも、夢も希望も奪い去ることだろう。
そんなことをするのは鬼だ。
鬼の所業だ。
(……鬼)
門番の彼は、ようやく少女達の正体に気が付いた。
しかし、少女達はその「鬼の所業」を実行することはなかった。
その寸前で、ぴたりと静止するようにして、その顔はふたりとも自分ではない別の方を向いている。
門番の彼はその方向に居る、「見慣れた」二人の少女達を見てはっと息を漏らした。
それは安堵のため息にほかならない。
「……リューさん、澄さん………」
そこには自分が無条件で信頼を置くことができる、自分とは異次元の強さを持つ二人の少女が立っていたのだ。
メイド姿の二人の少女は、相対するような少女達に対し、不気味な笑みを向けた。
「……武人会の武人? 子供じゃん」
すると、澄はふん、と鼻を鳴らして薄笑いで言った。
「あんたらに言われたくないわぁ」
リューは澄とは違う、あくまでも友好的な笑顔のままで言った。
「その手を離してください。かわいい鬼さんたち……」
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