鬼が出る故郷で新生活とか言われても

第12話 問答無用で引っ越し

 一緒に暮らす?


 突然の展開にアキは慌てたが、虎子とリューの姉妹連携プレーで有無を言う暇もなく準備を整えられ、計った様にタイミング良く迎えに現れた大斗の車に押し込められるとそのまま一之瀬家に直行の運びとなった。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ、大体、俺は引っ越しなんて考えてもいなかったんだぞ? 荷物とか……」

 押し込められたままの格好のアキを可笑しそうに眺めながら、虎子が笑った。

「大丈夫大丈夫、お前の荷物は武人会の連中に任せてある。何も心配いらないよ。あっはっは!」



 ……武人会とは一体どんな組織なのだろうか。



 虎子の言う通り、アキの荷物は全て武人会の手配でキッチリと仁恵乃里へ運ばれており、アキ達が一之瀬家に到着する頃には既に荷下ろしは済んでいた。


 転校、転居の手続きも全て済ませ、郵便物の転送届まで提出済みだとの事だ。


 リューは鬼と戦う組織だ何だと訳の分からないことを言っていたが、アキは武人会がますますわからなくなってきた。


 唯一ここまでで分かった事は、虎子は美人だが決しておしとやかではなく、むしろ豪放磊落ごうほうらいらくで男勝りな性格だと言う事だった。

 リューとは正反対だ。



「さあ、アキ。着いたぞ。今日からここがお前の家だ!」

 車が止まり、虎子が外を指差した。アキは促されるまま外を見て、絶句した。

「うっわ……」

 視線の先にあったのは、威風堂々とした大きな日本家屋おやしきだったのだ。


「でかい……」

「ん? そうか?」

 虎子はなんて言う事もなさげだが、アキは衝撃を受けていた。東京では余程の金持ちでもない限り、こんなでかい家には住めない。


「田舎の家はどこでもそうだが、だいたいこんな感じだぞ? 土地だけは余りまくってるからな」

「いや、それでもこれは……」


(武人会もそうだけど、ここの家もわけわかんねぇ……)


 アキは一之瀬家の日本家屋然とした立派な門の前で唖然とした。まるで映画のセットだ。

「さあ、行きましょう! ……秋くん? どうかしましたか?」

「え? な、なんでもない……」

 リューに促されるまま門を潜ると、これまた立派な庭が現れた。そして何より目を引いたのは『道場』の存在だった。


「い、家の敷地に道場があんのか……?」

「はい。いつもここで九門九龍の稽古をしています。一応ここは自宅兼九門九龍の本部道場なんですからね」

 リューが誇らしげに言うと、虎子が胸を張った。


「とは言っても、門人は師範の私と、弟子のリューの2人きりだがな」

「え、2人だけ?」アキは思わず素っ頓狂な声を出してしまった。


「そうだよ。私がみだりに弟子を取らない主義なのもあるが、それ以前に何故か誰も九門九龍をやりたがらんのだ。昔からそうだ。みんな有馬流をやりたがるんだよ」

「有馬……武人会の会長の?」

「ああ。有馬流は剣術だから幅広い年代にウケが良くてな。仁恵乃里以外にもいくつか支部がある。最近は漫画やアニメの影響もあって子供達の入門も多いそうだ。何だかんだで剣は格好が良いからな」


 虎子は「尤も、仁恵乃里の有馬流と他の有馬流は別物だがな」と、つぶやく様に付け加えた。


「さあ、秋くん」

 不意にリューがアキを呼んだ。アキが顔を上げると、そこは母家の玄関だった。昔ながらの引き戸に、アキは何故だが懐かしさを感じた。


「ただいま、だぞ。アキ」

 虎子が促す。だが、アキにはまだ実感がなかった。

 戸惑いもある。或いは、抵抗感もある。


 しかし、にこにこと何も疑わずに笑みを浮かべる一之瀬家の人々に背中を押される様に、アキは引き戸に手をかけて言った。


「……ただいま」

 すると、リューが本当に嬉しそうに応えた。

「おかえりなさい! 秋くん!」

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