第6話  デート初日は灯李先輩。思い出の展望台。

 チュンッ チュン


 朝の八時。最寄りの駅を出てすぐの所にある待ち合わせに指定された時計台の下で俺は設置されたベンチに座って灯李あかり先輩を待っていた。

 周りは土曜日ということもあって高校生やサラリーマンが多く往来していた。

 今日はデートということもあって少しいつもよりも派手な服を選んだのだが少し不安。年齢=彼女なしの俺にはデートという経験がないので正直自信がない。

 待ち合わせした八時十五分が近づいてきたところで、こちらに向かって歩いてくる超絶美少女を俺は発見した。


「おはようございます先輩」

「快斗くん、おはよう。結構待った?」

「いいえ。今着いたばかりです」

「快斗くんはいい子ね。私は快斗くんが来る十五分も前からここを見張ってたから待ってくれてたのは知ってるの」

「それ完全にストーカー行為じゃないですか。早く出てきてください」


 灯李先輩は含み笑いで会話を楽しんでいる。


「それでさっ、今日の私どうかしら……」


 今日の先輩は長いスカートにシマシマ長袖Tシャツといった胸元が窮屈そうなコーデ。うん、可愛い。


「いや〜ん。快斗くんが私を舐め回すようにエロい目で見てくるわ〜」

「先輩やめてください!」


 先輩が甘ったるい声で叫んだせいで周りを歩いていた青年たちが俺に冷たい視線を浴びせてくる。本当だったら今頃、家でゲームしてダラダラした休日を謳歌していたのだろうに。先輩が変態じゃなかったら……。


「先輩、今日のプランは何か考えてるんですか?」

「快斗くんを立派な忠犬に育てあげようかしら……」

「却下しますね。俺、犬じゃないんで」

「それじゃあこの辺りをぶらぶら歩くってのはどう?」





           ◆




 とあるカフェのテーブル席に座る俺と灯李先輩。

 テーブルの上に豊満な胸を乗せブラックのコーヒーをやらしくすするる灯李先輩は俺の方を見つめながらため息をつく。


「ごめんなさい綾瀬くん。せっかく付き合わせているのにプランも考えて来なくて……」

「仕方ないですよ。俺も何も考えてませんでしたし」

「でもね、私は快斗くんと休日に会えてとても嬉しいし今こうして喋っているだけでも凄く楽しいの」


 先輩は溢れんばかりの笑みでそう言った。

 もしも俺が灯李先輩と付き合ったら毎日楽しくてデートの日なんかはこんなふうにカフェでお茶したりするんだろうなぁ。


「それじゃあそろそろお会計行こうか?」


 灯李先輩が伝票を手に取り席から立ち上がったので、俺も残りの水を一気に飲み干してから先輩の後を歩いた。

 レジカウンターに着くとザ・カフェ店員って感じの髭を生やしたおじさんが立っている。支払いを済ませた後、おじさんが『青春だね〜』軽くからかってきたのに先輩と俺はペコりと会釈をしてから店を後にした。


「快斗くん、私達ってはたから見たらどんなふうに見えてるのかな?」

「友達とかじゃないですか?」

「快斗くんのアホっ……」


 一瞬先輩がすげー可愛かった。

 いつもの大人っぽいちょいクールな雰囲気じゃなくて玲葉ちゃんぽい感じ。

 そういえば今日の灯李先輩あんまり変態じゃない……。まさか頭でも打ったんじゃっ。


「先輩次はどこ行きますか?」


 先輩に尋ねると何か思いついたような素振りを見せ両手の平をかさねる。


「快斗くん。私一つ行きたい場所ができたわ」

「どこですか?」


 すると先輩はニヤニヤしながら『着いてからのお楽しみ』と言った。





           ◆





「先輩、ここって……」

「そーね。ここは私の思い出の場所」


 先輩が連れてきたのは、俺と先輩が初めて出会った展望台。


「ここで俺、書道部に入部するって先輩に言ったんでしたね」


 当時俺は親友関係が上手くいってなくてこの展望台に来てはため息をついていた。

 そんな時隣で俺と同じようにため息をついて遠くの空を眺めていたのが灯李先輩だった。目が合うと先輩は俺の方をじっと見て話しかけてきたんだっけ。


「君、うちの学校の生徒だよね」

「あ、はい」

「なにか悩みでもあるの? ため息ついてたけど」

「それ先輩もですよね」

「初対面で生意気な坊やね」


 すると先輩はまた空の方に顔を向けまたため息をついた。


「先輩の悩みってなんですか?」

「……私ね、書道部の部長をしているのだけど。部員が一人足りないせいで今年廃部になりそうなの……」

「……」

「私はまだ書道をしていたいし、書道部を失いたくない! でも……」


 先輩はうつむいてなにも言わなくなった。


「 ――じゃあ、俺が入りますよ。書道部」

「へっ……? いいのっ!?」

「はいっ!」


 先輩の表情は俺の一言で一気に笑顔へと変わった。

 悲しみと戦う先輩を見ていたら力になってあげたいと思ったから。その気持は無意識に言葉となって漏らしていた。


「君、名前は?」

深山快斗みやまかいとっていいます」

「そっか……。深山くん、貴方っていい人ねっ!」


 彼女の暖かな笑顔で俺の気持ちも少し軽くなった気がした。





           ◆





「快斗くんっ!今日は楽しかったわ」

「はい! 今日は先輩が変態じゃなかったので良かったです」

「快斗くん、生意気ね……」


 俺と灯李先輩のデートは終了し、バス停でバスが来るのを待つ。

 バスが止まって先輩から乗り込もうとした瞬間。先輩のスカートがめくれるのだが、その絶対領域にパンツという布は存在しなかった。


「先輩……なんでノーパンなんですか」

「テヘっ!」


 先輩は顔を赤面させながら笑って誤魔化そうとする。


「先輩、ペナルティー考えとくんで覚悟してくださいね」

「あらっ、ゾクゾクするわね……」


 やっぱり灯李先輩は可愛いけどむちゃくちゃ変態だった。

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