第5話  新入部員と野外活動計画

「入部させてください・・・」

「え……? やめといた方がいいと思うよ。書道部の活動もろくにしてないし」

「それは、いいんです」


 白くて美しい髪を長く伸ばし身長は百四十センチ前半の美少女。

 高校生とは思えないほどに幼くて着ている制服がいい意味で似合っていない。

 その子が言った一言に俺は、なんで書道部なんだろうと疑問に思う。


「そういうことなら歓迎するよ。ウチの部活にはまともな人がいないからさ」

「「ちょっと快斗かいと(くん,先輩)!!」」

「聞き捨てならないわ。私は至ってまともよ!」

「何処がですか……」


 ほんとこの変態姉妹には色々と手を焼いている。

 俺もいつか半紙に『脱変態』と書ける日は来るのだろうか……


「ねぇ皆、部員も増えてきたことだし交友を深めるためにも野外活動が必要だと思うの」

「部員皆で野外活動ですか、たまには灯李あかり先輩もまともな案を出してくれるんですね」

「いいえ。今回の野外活動は一対一のデートという名の野外活動コロシアムなの」

「えっ……。どういうことですか」

「だから、快斗くんと一緒にローテーションでデートをするの」

「なんでですか!? 皆で行けばいいですよね?」


 灯李先輩は俺の訴えには全く応じず髪の毛を指でクルクルさせて遊んでいる。

 相手がまともな美少女なら俺もいいと思うのだが、言うまでもなく先輩と玲葉れいはちゃんはドが付く程の変態。

 もしも俺がこのデートに行けば帰るまでには食い殺されているだろう。


「姉さんの提案に賛成するのはしゃくですが、玲葉れいははこのデートに関してはいいと思います」

「玲葉ちゃん!? でも灯李先輩、新入部員さんの都合もありますし辞めませんか?」

「私は……大丈夫だと思います」

「大丈夫じゃないよね!?」


 まずい、このままだと本来の目的の楽しい野外活動がローテーションデートになってしまう。こんな時に顧問はなにをしているのだろう。


「あっ! それって顧問の許可とか取らないとダメなんじゃないですか?」

「そこは大丈夫よ。今週の土曜から三連休があるからそこで一人一日ずつデートをするの。快斗くんは三日間すべての活動に参加してもらうわ」

「俺の同意もなしに決めちゃうんですね……疲労で多分死にますよ」

「大丈夫よ。これは野外活動なわけだから快斗くんの同意はいらないし、疲れた時は私が用意するリ◯ビタンDを飲んでいればいいのよ」

「先輩は鬼ですね……」


 灯李先輩は早速、部の冷蔵庫から大量のリ◯ビタンをダンボールに詰め始める。

 この人マジで俺を三日連続で動かすつもりだ。


「それじゃあ、快斗先輩の初日は玲葉がうばってあげますっ!」

「卑猥な言い方しないでもらえるかい?」

「ダメよ!快斗くんのお初はこの部のトップである私が奪うべきなの」


 なんだこのオーラは……俺の目には二人がライオンとトラに見えているんだが。

 このエネルギーを書道部の活動にも活かしてもらいたいものだ。

 睨み合う二人の間に華奢な新入部員が入っていく。そういえば名前聞いてなかった。


「ケンカはやめましょうよ……皆でジャンケンして決めませんか?」

「それもそうね。ここは正々堂々と決めたほうが良さそうね」


 案外あっさりと新入部員の言うことを聞いた灯李先輩。

 だが俺の経験からすると多分なにか企んでいるに違いないと思う。


「じゃあ、玲葉も正々堂々と勝負します」


 さっきよりも目が闘争心に満ち溢れているように見えるんだが……


「じゃあいくわよ!」

「「最初はグー、じゃんけんポン!」」

「やったぁ! 玲葉が勝ちましたよ先輩!」

「何を言ってるの玲葉。私さっき負けるが勝ちよって言ったわよね」

「え? そんな事聞いてない!」


 俺も聞こえなかった。というか多分言ってない。


「そうよね明雪あけゆきさんっ!」


 先輩はロリ可愛い新入部員の手のひらに五百円玉を乗せた。

 賄賂わいろというやつである。


「あ、はい。そーですねー わたしも聞きましたよぅぉ……」


 たった五百円の賄賂にノッてしまった……。

 新入部員の明雪さんは目を輝かせ五百円玉を嬉しそうに眺めている。

 高校生じゃなくてやっぱり小学生だろ、この子。


「へっ、そーですか。じゃあ玲葉は最終日でいいですよ。最終日は先輩のガードも弱そうなので……ムフフっ」


 ニヤニヤしながら何か企む様子の玲葉ちゃんを見て俺は鳥肌が立つ。


「それじゃあ、私が初日で明雪さんが二日目。それで最後は玲葉ね」

「「わかりました」」

「玲葉が必ず快斗先輩を忠実なペットにしてあげますから安心してくださいねっ!」

「安心できないんだけど」


 こうして書道部の野外活動は俺と美少女三人のローテーションデートに決定してしまった。その日は熱で休むってことにしておこうか……





           ◆





「そっかー。美少女とデートなんていいじゃねーか」

「お前はまだ書道部の恐ろしさを知らないんだ。入ってみたら分かると思うぞ」

「いや、俺には最愛の妹がいるからそんな女臭のする部には入れない。バスケもしてるしな」

「俺も本気では言ってない」


 流石シスコン寛人。禁断の恋に染まり上がっている。

 ヘラヘラしていられるのも今のうちだ。あの姉妹に目を付けられたらろくな事にならない。


「でもさ、お前。いやいや言ってる割には書道部ずっと入ってるし本当は楽しんだろ?」

「……まぁな。それと俺にはあの部に恩があるし」


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