第5話 Ой、どんなプレー?!
その時、シーンとしていた部屋の外から足音が小さく聞こえてきた。
まずい、絶対に警備の人だ。
なんとかしなくては....。だけれど体に力が入らす起き上がれない。
とにかくこのままではいけない。
両手は動かせる。少し床のあたりを触ったあと、せめて下の方に動かし、あそこだけは隠しておこうとした。そう、僕はたぶん意識を失ってここに運ばれてきたのだ。服を着ていないのは僕の意志ではない。
すなわち、
(ここはビルの一室。入退室者がコントロールされているオフィスで、他に誰もいなかったわけで、出てはまずいところは両手できちんと覆っているわけです。ここで寝ていても、公然わいせつではない……ですよね)
といったあたりのことにしよう,と僕は願った。
その設定をなんとか格好つけようと動いた両手はお腹の下で例の硬いものに突き刺さった。もちろん、こんなお硬いオフィスの真っ暗なところで裸になっていることに興奮して、男子のアソコが、などというわけではない。
本来は、そのアソコの付随物であるはずの、日本人的には真っ黒で、僕の方も割りと黒いアレ。そのアレは本来毛髪のような硬度のはずだが、今は針山のような感触だ。
カチカチに固まったあそこの毛といったところでシチュエーションを説明しておきたいところだが、それで説明できるレベルを超えた硬さだ。
(なんなのだろうか?)
感触としては、まさしく生花とかで使う剣山のようなレベルの硬さである。
イケバナという単語を知ったのはたしか中学2年生の頃。コイバナという単語と同じ頃だ。僕はコイバナは得意でなかったけれど、花を生けるということには興味を覚えてはいた。
どうしようもない妄想が浮かぶ。……ここは名家の茶室。
仰向けになっている素っ裸の僕。あそこのあたりに剣山が置かれている。そのうち、執事の男の主人筋にあたる和服姿の方々が入室してくるのだ。あそこのあたりの剣山に草花を刺して、生花をするために。
意味不明な現実逃避だったが、ちょっとありかもって思ってしまう。
Ой(オイ)、どんなプレー?!
そうするうちに、足音がもっと近づいてきた。もうこの近くだ。
ギギーッ。
通り過ぎてくれという僕の思いむなしく、聞き慣れない重い音と共に扉が開いた。外から光が入ってくる。そして、人が入ってきた。
僕の心臓は完全に跳ね上がった。
僕は、下の方の固まったままの剣山をツンツンされつつも、両手でそのあたり全体を覆うと、上を向いたまま固まっていた。
薄暗がりの中、人影が近づいてくる。
視界の端にその姿が入ってきたとたんに、僕の心臓は跳ね上がり、そして凝固した。
朝長ルカ三郎は憂鬱。金融システムの殿(しんがり)のはずがオークラ大臣にジョブチェンジされてしまったことにつき。 十夜永ソフィア零 @e-a-st
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