第3話 しんがり役を襲いしスネーク

 これまで、発注主の担当者の皆さんに何度も何度も確認を入れさせていただいた。細かい日々のつまづきを避けるためだ。


 一方で細かいところを見続けたせいで、視野が狭くなって面もあるかもしれない。

 後には納品物の一部となる今回の総括に、そうした細事を書き込みすぎるのは良くない。

 

 ダンシャリ、そう、断捨離というものが必要だ。

 

 フェーズ終結を祝った、さきほどの乾杯の熱を冷ますべく僕は、ひとまず目を瞑った。1分くらいして頭がひとまず真っ白になった僕はつぶやく。

 「プロマネは、プロジェクトのしんがりだよ」


 多くのプロジェクトには、何らかの波乱がついて回る。

 今回の開発プロジェクトでは、取引先との関係で会社でエースと呼ばれる実力エンジニアを他プロジェクトに回さなければならなくなったことがあった。そこを始まりに、上流工程からプログラム実装に至る間、手戻りと呼ばれる、やり直しがあった。これは、結果としての残業時間の増大、会社の立場で言えば、工数と経費の増大ということになる。


 ただ、週明けの総括報告は、社内向けのものではなく発注主へのものである。とりあえずプロジェクトの今回の守備範囲を明確にして限定することに尽力してくださったお客様に対しての御礼の言葉を述べるところから書き始めるべきだろう。


 そのため、結合テストフェーズの見通しと、次フェーズ以降に回すことにしていただいた開発項目についてプラン、いわば挽回プランを示すことも必要になる。

 一つのプロジェクトを閉じつつも、次のプロジェクトを立ち上げるための相談事を進めていく。それがプロジェクトマネージャーの役割だ。


 《戸締まり役をしつつ御用聞きをする》。誰かの前に立つのではなく、隊の一番うしろで《しんがり》を務めるのがプロジェクトマネージャーだ。米国海軍発祥のプロジェクト管理手法も、そうした心構えを現場のマネージャにもとめているここ。これは、僕の上司の上司に教えてもらったこと。

 

 僕は、今回もきちんと《しんがり役》を担うべく、頭の中で序文をつづっていく。


 御社の主要なステークホルダーである、、、いわゆるホールディングスとして合弁会社となられたお客様。その親にあたる会社に出資をしている株主様をステークホルダーと呼ぶのは日本語として微妙なのだろうか...など、書き始めると、ガイジンさんでもある僕はどうしても日本語表現の細かいところも気になってしまう。^

 

 なられた中、おっしゃられた通り、これからを考えられますに....頭の中で言葉がぐるぐる回り、下書き用のエディタで何度も文字を変換していく。


 なんとかまとめたいと思う僕だったが、何やら語呂合わせのようなものが思い浮かんだりしていくうちに、ぐるぐるとスネークらしきものまでが首のあたりに巻き付いてくる。


 それは眠気の精が突如召喚した眠気の白蛇スネークか何かだったのかもしれない。僕は酸欠状態のような状態で机に突っ伏した。

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