バットエンディングループのその先へ

 この世界は何十回、何百回、何万回繰り返したのだろうか。永遠と天成6年6月7日が繰り返された。私はそのうち数えるのをやめた。この元凶は『時間操作』の超能力者、黒野涼香くろのすずかと超能力者の能力を『吸収』する染谷花子そめやはなこ


 私はミッシェル・メシア。この世界を救う救世主メシアは私なのだから。

 

 私は世界の中でも珍しい能力複数持ちだった。1つは『探索』、能力者のがどこにいるのか、能力者がどんな能力なのかわかる能力だ。この能力で、黒野や染谷、北島など超能力者を見つけてきた。

 2つ目は『洗脳』、裸眼で視認した対象を無条件で洗脳する。その洗脳は意図しなければ決して解けない。いつもは暴発しないようにキツネの仮面をかぶっている。

 3つ目は『無干渉』、私自身は能力の作用を受けない。例えば黒野涼香が時間をさかのぼったとしても周りはそれまでの記憶を失うが、私は忘れないというものだ。

 4つ目は『創造』何でも作れる能力。それは実在するものだけでなく、頭の中で考えた都合のいいものも作れる。しかしこの能力は都合がよすぎるためか1日1回しか使えない。

 ゆえに超能力業界トップの実力を持ち、現在世界最強と言われてた。そのため世界超能力保全協会、WSPの局長となることができた。そんな私だが何万回と続くこの世界の運命は変えることはできなかった。



 

 天成6年6月7日

 夜23時40分、いつものように珈琲を飲む。世界が何度も何度も繰り返していくうちに珈琲を入れるのが皮肉なことにうまくなっていった。そんな私が作った珈琲は世界超能力保全協会では有名だ。

 「失礼します、局長。」

 ノックの後に北島古保の声が聞こえた。定期連絡に来たのだろう。私は入ることを許可した。

 「黒野涼香、染谷花子の最終報告書です。」

 黒野涼香、時間操作の超能力者。特に時間を加速させるのが得意技。時間の加速のほかにも停止、巻き戻しもできる。しかし、一部記憶が失う可能性のある能力のため安定はしない。また、過度に使うとパラドクスを引き起こす可能性がある危険な超能力。

 染谷花子、世界で唯一の相手の物を自分のものにする能力『吸収』を持つ少女。かつて染谷花子の暗殺を命令されたエージェントたちはすべなく彼女の物になってしまった。

 「そういえば例のエージェントは無事か?」

 「不死の超能力をもったエージェントを今日、学校から撤退させました。染谷花子は今は不死の力は使えないはずです。」

 「それと、明日から始まる染谷、黒野殲滅作戦開始に基づき明日行われる各国首脳会談を中止、各国首脳らの国外退避完了しました。」

 染谷、黒野殲滅作戦。明日私が黒野と直接会い、『洗脳』を使って染谷に黒野をぶつけて殺す。そして貧弱となった黒野を私が殺す。といういたってシンプルな作戦だ。前回は『不死身』の超能力を持つのエージェントが吸収されてしまったため殺せなかったが、今回は違う方法で行うことに成功した。この作戦を成功させるにあたって何万回と世界を繰り返し作戦を練った。失敗すればまたループだが。だが万が一成功したとして作戦の間に首脳たちになにかあればさすがにまずい。いくら私が局長でも手が届かない。準備は念入りにだ。

 「ふむ、ご苦労。」

 北島は頷き、局長室を出ていった。彼は私の第1の能力『探索』により見つけた超能力者だ。『未来眼』は私のキャリアに必要不可欠な存在だった。そのため高校入学式にて私の第2の能力『洗脳』で半ば強制的に私の部下にした。外道な策かもしれないがお生憎、私はWSP局長だ。多少の証拠は消せる。現在0時を回った頃だろう。私は珍しく仕事をさぼり、眠りにつくことにした。




天成6年6月8日

 目を覚ますと時計は朝9時を指していた。今日は黒野涼香と実際に会う日だ。私はまずシャワーに入り、体をあらう。そして朝食は食パンにケチャップを大量にかけたものを1つと珈琲1杯を胃に入れる。世間では私のことを偏食というらしい。私はおいしいと思うのだがな。食べた後は局長としての仕事に戻る。書類や会議、その他もろもと仕事をこなしていた。北島にすべて押し付けてもいいが現在彼の姿はない。そうだった、今日は偵察という名目で学校に潜らせている日だ。北島をずっとこき使っていればいずれ怪しまれる。そうならないように適度に学校に行かせている。そういえば彼の両親はどうしたかって?当たり前だ。この世から存在を抹消した。これも局長という名前を使えば簡単に証拠を隠滅できる。もちろん本人には言わない。もし気づかれたとしても『洗脳』で記憶を消し去れる。私の能力はやはり完璧だ。余談はさておき、そろそろ黒野涼香と有坂公園で待ち合わせの時間だ。私は携帯で北島に電話し、有坂公園に呼び出した。そして机の引き出しから取り出したキツネの仮面をかぶり、席を後にした。



 先に到着していたのは例の銀色のアタッシュケースを持った北島だった。なぜかボロボロだ。おそらく『未来眼』を私の許可なく使い、その反動として何か災いが降りかかったのだろうか。一応聞いてみる。

 「北島、まさかとは思うが使んじゃないか」

 北島は珍しく黙っていた。北島と私の間ではある取り決めがあった。それは能力を私が見ていないところでは使わない。それを破れば・・・

 「北島、覚悟はできてるんでしょ?」

 取り決めを破れば私が責任をもって殺す。そう脅してきた。そうすれば彼は素直に従うと思っていた。私は第4の能力、『創造』で私が考え作った最強の武器、「対刀」という2本の刀を取り出し北島を殺そうとした。北島は死を覚悟したのか黙ったままだ。しかし、その時私の第1の能力『探索』が発動し、黒野涼香が近づいてきていることがわかった。私は「対刀」を消滅させ、北島を殴った。

 「運のいいやつめ。今回はこれで見逃してあげる。・・・さぁ、そろそろ彼女が来るわ。ベンチに座って待ってましょう」

 そうして、私は黒野涼香が来るのを気長に待った。しかし、その時はすぐに来た。

 

              ー時間停止ー


突然世界は時間が止まった。カラスの鳴き声も聞こえなくなり、風で木々から離れた葉っぱは落ちることをやめていた。そんな馬鹿な、なぜだ?こんなパターンは今までになかったのに。まさか私が今までとは違う行動をしてしまったから?何が何だかわからないまま、止まった世界で私は出会ってしまった。

 「黒野涼香・・・!」

 「あれ、時間止まってるはずなんですけど、ミッシェルさんには効かないんですね」

 

 

 世界は何度も何度も染谷花子がすべてを壊し、それを黒野涼香が時間を戻してすべてをリセットする。そういうバットエンドを何度も繰り返してきた。どちらか一方を殺そうとしても見えない何かに阻まれる。だから、同時に殺すことにした。彼女らをどうやって殺せば私は生きて、世界はバットエンドを迎えずに済むのか模索していた。しかし、運命は完全に彼女らに味方ついた。

 「ミッシェルさん、あなたは私より馬鹿です。私たちを、世界を甘く見すぎです。」

 そういって彼女は拳銃を私に向けた。以前の彼女とは違う、決意のある目をしている。まずい、彼女の能力は自身があればあるほど安定する。だがしかし、私の敵ではないっ!

 「馬鹿はお前だよ黒野涼香、わざわざ殺されに来てくれてありがとう。おかげで仕事がはかどる!」

 私は瞬時に「対刀」を取り出し、黒野涼香に切りかかった。12発の発砲音とともに世界は秒針を刻みだした。弾幕で私を倒そうとしているのか?12発の弾丸は「対刀」のオート迎撃性能によってはじかれた。そして「対刀」の攻撃範囲内まで黒野涼香に近づいた。

 「ざんねんだな!ゲームオーバーだ!」


               ー加速ー


 私の斬撃は確かに届いた。しかし、手ごたえは感じなかった。「対刀」は当たったものを確実に仕留めるように作った。だが黒野涼香は死なない。

 「残念ね、それは『加速』で作った残像よ。」

 まんまとやられた。だかその悔しさが私を奮い立たせた。その間に黒野涼香はさらに『加速』し数え得きれないほどの残像となっており、その数はもはや数えるにはおこがましい数になっていた。だが私は凶器の笑みをうかべ私は再び彼女に接近した。世界最強の私が負けるわけがない。そう思っていた時期もあった。



 気付けば私は体に何発もの弾丸を食らっていた。私は地面に倒れた。やはり『時間操作』は強い。最後の力を振り絞り、『創造』で作った手榴弾のピンを外そうとした。

 「無駄よ、あなたが何をしようが『遡及』で時間を戻してあなたの抵抗手段を1つずつ消してあげる」

 私はどうやら世界を救えないまま死ぬようだ。死にゆく私は黒野涼香に問いかけた。

 「なぜ・・・、私を殺す?」

 するとあきれた顔で黒野はため息をついた。

 「何を被害者面してんだか。永遠とこの世界を繰り返しているのはあなたのせいでしょ?あなたは『時間操作』と『吸収』の力がいずれあなたを脅かすと思った。使、私たち2人を同時に安全に正確に殺す方法を考えていた。そうでしょ?あなたは世界を救うためとか言って結局自分のことしか考えてない。あなたは世界にとっての救世主メシアなんかじゃない、ただの疫病神よ」

 人は心理を突かれるととても嫌な気持になる。今がそうだ。確かに、私こそこのループの元凶を裏で操っていた黒幕だ。

 彼女らは私の超能力より強い。彼女らの能力が明るみになれば私はきっとWSPのトップを外される。WSPは私の天職だ。私の独壇場だ。だから消したかった。殺したかった。それが私の本音だ。

 だがしかし、このことに気づくには一つ謎がある。

 「でもなぜ、すべてが巻き戻る前の記憶がある?」

 「世界は数えきれないほどバットエンドを繰り返してきた。私は何も知らず何度も何度も世界を繰り返してきた。ただただ世界を救うために。だけど、それが引き金になった。前にあなたは言ったわよね?私の超能力『時間操作』は使えば時間軸に干渉してパラドクスが起こる恐れがあるって。世界は何万回と繰り返している間、私の超能力『時間操作』は、何度も何度も時間軸に干渉してきた。そしてついにパラドクスがおきた。」

 「ーーそれが私。繰り返した世界の1つ1つの記憶を持ったこのループのイレギュラー。世界を救う。そんな思いがこのループで何度も何度も現れては薄れていったけどその思いは薄れていくだけで、消えはしなかったんだと思う。その結果何万分の1の確率で今の私ができた。あなたは負けたの、確率という私に」

 そうだだった。彼女の超能力のデメリット、それは過度に使えば時間軸に干渉し、パラドクスが起こることを。私は彼女のデメリットを軽視していた。その結果私はまた失敗した。そしてやはり運命は彼女らに味方していたようだった。もうループは起こらない。やり直すことができない。深い絶望のさなか、急に眠くなった私はこの世界から意識が薄れていくのを徐々に感じていった。死にたくない、死にたくないずっと死ぬのが怖かった。もっと生きたかった。もっと頂点に立っていたかった。けれどそれももう終わり。意識はもうこの世界にはなかった。






 このループの元凶、ミッシェル・メシアは今日死んだ。これで私が花子を殺さずに済み、それゆえ花子がこの世界をぶち壊すこともなくなった。そして世界は彼女による『洗脳』から解放された。これでもう二度とバットエンドはループしない。私は死にゆくミッシェルを息絶えるまで見送った。

 『洗脳』が解けた北島さんも我に返り、うずくまった。今までのことを全部思い出したらしい。彼も『洗脳』の犠牲者だった。それゆえにようやく知ることができた様子だった。ミッシェルに『洗脳』されていた人たちも北島さんのようにこの世界の真実を知ることになるだろう。

 「俺はどうすればいいんだ?」

 北島さんは困惑した顔で私に問いた。それに私はぶっきらぼうに答えた。

 「全部忘れて普通の生活に戻ればいいんですよ。今まで通りの生活。今まで見たことのないバットエンドループのその先を」

 そして世界は、私たちはバットエンドループのその先を歩み始めた。 

 




 

 

 

 

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