バット・エンディング・ループのその先へ
VAN
変わらぬ毎日へ
天成6年6月6日
私はこの世界に目覚めた。スマホは朝5時8分を指していた。アラームは6時半に設定したが、それよりも早く起きてしまった。高校の登校時間までは2時間半もある。しかし、早いに越したことはない。早めに準備しようか。朝ごはんは食パンに目玉焼きと牛乳。女子高校生としてはヘルシー?な朝食だ。調理にはそれほど時間はかからない。食パンをトースターに入れて、熱したフライパンに生卵を入れる。すると5分もかからず出来てしまう。
「いただきます」
食べるのに10分。片付けに10分。すべて合わせて25分だが、まだまだ時間が余っている。そこで顔を洗ってメイクをする。クラスの男どもに『ブッス!!!』なんて思われないようにこれだけは怠ってはいけない。なので、メイクは入念に1時間使う。それでも全然時間がある。メイクが終わり、時計を見ると7時を過ぎたころ。暇つぶしにスマホでSNSを見る。友達の投稿にいいねをしながら下にスクロールしていく。そうしていくうちに30分が立った。スマホを見ていると時間の流れは速く感じる。
「少し早いけど行こっかな」
かわいいウサギのキーホルダーを付けたカバンを肩にしょって玄関を開ける。外は暑いが朝に吹く風は涼しく、空気もおいしい。まるで木々達がいってらっしゃいと言っているようだった。
「行ってきます」
自転車にまたがり、快調にこぎ始めた。こうしていつもと変わらぬ日々が続いた。
学校に行く道には大きな坂がある。しかも行くときは上り坂だ。
「30秒後、『加速』」
『加速』とは時間軸を進められる能力。例えばテスト中に使うと何もしていないのに気づけば問題用紙は埋まっているし、テストは終了している。嫌なことはすぐに終わってしまう便利な能力だ。
私の能力は『時間操作』。そうだ、実は能力は時間軸を進めるだけだはない。止めることも、巻き戻すこともできる。しかし、時間を止めたり、巻き戻したりはあまりうまく使えない。しかも加速と違ってこれらは使いすぎるとどういうわけか一部ランダムで記憶が無くなってしまう。なので妙に自信がある時しか使わないと決めている。かなり前の話だが、定期テストでカンニングしようとして時間を止めたり、時間を止めたりしたが、なぜかその日の記憶がない。そのため軽い気持ちでこの超能力は使わないことにしている。
気づけば坂を上った後だった。学校まではあと少し、私はもう少し頑張ることにした。
坂を上った先にようやく私たちの通う大鹿高校が堂々とそびえたっている。まるで城のような外見だが校内はぱっとしない。そんな学校なのだがなんとこんな有名人がいる。 彼の名前は
「黒野さんだよな?」
一見普通の勤勉な少年に見えるが、正体を知るとそれも大きく変わる。私は普通に接しようと自分に言い聞かせた。
「そうですけど何か用ですか?」
「今日の帰り暇?」
俗にゆうナンパである。まじめで清楚そうな彼だが、中身はかなり肝が据わってるモンスターだ。私は丁重にお断りした。
「ごめんなさい、今日は用事があるので」
そして急ぎ足でその場を後にするのであった。
「おはよー涼香」
「おはよー花子」
「涼香今日早くない?」
「たまたまだよ、なんか早く起きちゃって」
「やっこが早起きなんて・・・世界終わる?」
「何言ってんの花子」
「そういえば昨日パチンコやっててさぁ、一発あてちゃったんだよね~」
「ええ、、、」
染谷花子とは高校でできた友達だ。いつも早起きで必ず一番先に学校来ている一見したら勤勉な子なのだが。
だがしかし、この通り非行少女である。このほかにも、深夜徘徊、飲酒、無免許バイクなどばれない程度にやらかす、頭がぱっぴーな少女だ。しかし、そういう子に限って私にはすごく優しい。そういうところが私は好きだ
ー加速ー
「これでホームルーム終わるぞー、日直」
「起立、礼」
「ありがとうございました」
終わりの挨拶をすると私は帰りの支度をした。一緒に帰ろうと花子を誘ったが、どうやら担任の先生に呼び出されているらしい。私は仕方なく寂しく一人で帰ることにした。宿題をカバンに入れいざ帰路へ。しかし、教室から出るとなんと、北島がいた。
「げっ、北島さん・・・」
「見つけた」
『加速』はさっき使ったので体力が残ってない。私は仕方なく北島についていった。
「なんでしょう・・?」
「黒野涼香、大事な大事な話がある」
変な空気だ。こういう空気は、まさか告白!?
いざとなったら逃げよう。
「俺好きだわ」
「!?」
まさかの告白に驚嘆した。だが驚くにはまだ早かった。
「お前の超能力」
まさかの出来事に私はさらに驚嘆した。今まで私の能力に気づいた人はいなかった。
「何を言ってるかわからないんですけど・・・」
「俺の知り合いに超能力者がどこにいるかわかる超能力者がいてな」
「なんですかそれ、意味わかんないです。私忙しいので帰ります」
「・・・・『時間操作』だろ?」
「そんな時間を操れるやつなんてしらないです」
「図星だな」
「まあ安心しろ、俺も超能力者だから」
「!?!?」
またしても驚嘆してしまった。今まで超能力者は世界中で私しかいない、自分は特別な存在なんだってずっと思っていた。しかし、世界はそんなに甘くなかったようだ。
「俺の能力は『未来眼』、未来を自分視点で見ることができる能力だ」
そういって北島は自分の能力の詳細を話した。
最大で3年先までの未来が自分視点で見えるが、自分にとって重要な未来しか見ることができない。そして、未来を見た代償として何かしらの罰が当たる。というものだ。
「過去にこれを使って少年院にぶち込まれたこともあるさ」
笑えないジョークを楽しそうに語るこの男。本当に人間なのか目を疑いたくなる。
「せっかく説明してくれたのはうれしいんだけど、証明できなきゃ私は信じないよ?」
そういって彼は胸ポケットから未来日記と書かれた手帳を取り出した。
「ああ、そういうと思ってぴったりの証拠をもってきた。今日の16時57分、突然雷がなる。そしてその3分後に雨が振り始める。それを境に明日は大雨が降る。」
「わかったわよ。これが本当ならあんたを信じる。もし嘘ならもう私に近づかないで」
「わかった」
彼はそう言ってポケットをあさり、スマートフォンを取り出してLINEのQRコードの写真を私にみせ友達登録を強要された。
「もし俺を信じれたら連絡をくれ。ある人に会ってほしい」
そのまま北島さんは帰っていってしまった。
ー加速ー
家に帰ると腕時計は16時50分を過ぎたころを刺していた。北島が言っていた時間まであと7分ほどなのだが窓を見ると雲一つない夕方の空が一面と広がっている。
「本当に降るのかな」
部屋着に着替え、スマホを見る。今日のニューストピックの欄には『日本で行われる世界首脳会談中止 各首脳帰国』『超能力者現る? ニュージーランド3歳児』『失踪者多発 大丈夫か大鹿市』という今日はなかなかくせの強いニュースであふれていた。それらを全部スクロールして『大鹿市 明日 天気』と検索。明日は一日中晴れらしい。北島さんは明日は大雨が降ると言っていた。果たしてこれが真か偽か。
そんなことを思いながらふとスマホの時計を見ると16時57分。北島さんが言ってた時間だ。しかし雷が降る様子はなく相変わらず空は綺麗な夕焼けで染まっている。
「まあこれでよかったんだよね」
その日は変に気持ちが重くなったったりしてせいで、私はベットに倒れるかのように眠りについた。
天成6年6月7日
朝午前6時、私は目を覚ました。なにやら外が騒がしいようなので窓を覗き込んだ。地面にたたきるけるかのように降り注ぐ大雨がふっていた。
「たまたまだよね?」
昨日北島さんはたしかに明日は大雨が降るっていってた。しかし、16時57分に雷がなるっていう未来予知は外れている。なんでだろう??私はそんな謎を抱え学校へと向かった。
朝8時10分、今日も『加速』の能力を使い学校についた。なぜやら教室が騒がしい。
「昨日の雷聞いた?」
「かなり大きかったよね」
どうやら昨日の雷について話しているようだった。ん?雷?!
「おはよう、涼香〜」
花子が教室のドアを荒々しく開けて入ってきた。
「ねぇ花子、昨日私早く寝ちゃってわかんなかったんだけど、雷やばかったんだって?」
「ああ、夜の8時くらいになったやつでしょ?すごかったねぇあれ。なぁに~涼香、そんなに怖かった?」
「あはは・・そんなんじゃいってー」
これで昨日雷が降ったことは確定した。北島さんは確かに言った。16時57分に雷が鳴ると。そしてそれを境に大雨が降ると。時間帯は外れだが出来事は確かに起こっている。今は8時15分。
「ごめん花子、ちょっと行ってくる」
そういって教室を飛び出した。ちょっとどこ行くのよ~という花子の言葉が聞こえたが、聞こえないふりをした。
「北島さん!!」
北島さんがいる教室に勢いよく飛び込んだ。しかし彼の姿はそこにはなかった。
「北島なら、まだ来てないぞ。あいついつも早いから今着てないってことは・・・あいつまたさぼりだな」
北島さんを知るクラスメイトから話を聞くに、北島さんは高校1年生のころからあまり来ない人であるらしい。おかげで周りからかなり浮いているそうだ。私はお礼をいって自分の教室に戻った。
ー加速ー
学校の今日最後のチャイムが鳴り、帰りのホームルームが終了した。教室の生徒は一斉に帰りの支度をし始めた。その流れに乗るかのように私と花子も帰りの支度をした。しかし花子はこの後また先生に呼び出されており、先に帰ってもいいよとだけ残し、教室から姿を消してしまった。また仕方なく一人で帰ることにした。
玄関から出ようとしたとき、スマホから通知の音が一つ。なぜかは知らないが不吉な感じは読み取ることができた。そして恐る恐る見てみると、その予想は的中した。
『今日有坂公園で待つ、前言った合わせたい人がいる』
北島さんだ。しかも有坂公園に呼び出しとは。あそこはこの街では不良のたまり場として有名で知る人ぞ知る悪い意味での有名な公園だ。合わせたい人?不良仲間だろうか?襲われたりしないだろうか?断りたい気持ちもやまやまだが、北島さんの頼みだ。断った世界線は容易に想像できる。私は『わかりました』とだけ返事し、しぶしぶその有坂公園に行くことにした。
有坂公園、そこは木に囲まれ薄暗く、落書きだらけの無法地帯だ。そんな公園のベンチになぜかボロボロの北島さんともう一人、スーツ姿にキツネの仮面をかぶった女性が一人一緒になって座っていた。どうやら北島さんの知り合いにはこういう常識を超えてくるような人がいることを私は思い知らされた。北島さんはこちらにきずくと手を振りこっちに手招きした。そして二人が据わっているベンチに座るのを半ば強制された。(北島さんの圧にはかなわなかった)
「きみが黒野涼香さんだね?北島から聞いてるよ。いきなり呼び出してすまないね」
「あの~、どなた様なんですか?」
キツネの仮面の女はゆっくりこちらを向き、仮面を外した。彼女の顔面は意外にも女の私が惚れてしまうほどきれいな顔立ちだった。特に彼女の瞳は綺麗で虜まれそうな眼力をしていた。
「世界能力保安協会、日本支部局長のミッシェルだ。どうぞよろしく」
世界能力保安協会??聞いたことのない団体だ。私はそのことについて聞いた。
世界能力保安協会。通称World Superpower Peacekeeperの頭文字を取って『WSP』という団体らしい。それは私や北島さんのような能力者を要監視、または取り締まる団体だという。そもそも能力自体が世界機密なのでこんな団体があるなんてことは超能力についてかかわりのある一部の人間しか知らないらしい。そんな表舞台に立たない団体が私に何の用なのだろう?
「早速で悪いが君の使う『時間操作』の能力についてだ。今後一切使わないとここで約束してくれ」
彼女らが言うには、時間にかかわる能力を持った人間がその能力を使うと直接時間軸にふれてしまい、世界に何かしらの矛盾、つまりパラドクスが生じるらしい。前例としてとある国に時間を操る人間がいたのだが、能力を36回使った頃、突如としてその国はなくなった。正確には、その国の存在自体この世界からさっぱり消えてしまった。ということがあったらしい。そして北島さんが予言した時刻。あれがずれていたのも私が時間軸に干渉したからだという。
「やむおえない場合は使用を認める。しかし、自分の私利私欲のための使用ならどうなるか。賢そうな君ならわかるだろう?」
私は頷いた。頷くしかなかった。ミッシェルさんは局長の名だけあってそれなりのオーラを放っている。北島さんとはちがう圧を全身で体感した。
「そして、もう一つ要件がある。私たちにご協力をしてもらいたい。」
「どんな内容なんでしょうか」
ミッシェルさんは目で説明してやれと言わんばかりの視線を北島さんに送った。それをいやともいわず、北島さんは説明した。
「これは俺が『未来眼』でみた出来事だ。世界はあと数日で滅びる。誰にも止められない世界史上最悪の超能力によって。その超能力者は君の友達である、染谷花子だ。彼女は数日後、世界を半壊させる悪魔になる。私たちはそうなる前に彼女を止めなければならない。そこで涼香にはやってもらいたいことがある」
そういって北島さんはベンチの下に置いてあったアタッシュケースを取り出し、中を開けて私に見せた。そこには黒く輝く世間一般的には拳銃と呼ばれるものがあった。
「今この世界で染谷花子に最も近く、唯一の『時間操作』持ち能力者だ。彼女が本気で能力に目覚める前に君の能力を駆使し、彼女を殺してくれ」
その日私は珍しく眠れなかった。高校に入って初めてできた友達、それが染谷花子。やさしくて、おちゃらけていて、そしてまじめな彼女。それを北島さんらは私の能力を使って殺せというのだ。私は最初断った。自分の友達を殺すために能力は使いたくない。しかしミッシェルさんらの機密情報を知ってしまったため協力しなければ殺すと脅された。殺ならければならない。私は部屋の隅に隠した銀色のアタッシュケースを見つめた。期間は明日。失敗すれば私は殺されるし世界の半分は塵と化す。しかし成功すれば私も世界も救われるが友達を殺した罪悪感は一生付きまとうだろう。その日私は一睡もできず、ただただ暗黒の明日を迎えてしまった。
天成6年6月8日
朝7時6分、私のスマホのアラームが鳴った。起きて窓を開けるともう太陽は登っており、すがすがしいほどの快晴であった。最悪だ。まるでこの世界がこれから私がすることを応援しているみたいだ。私はその重い足を何とか動かし、学校の準備をした。カバンには昨日までアタッシュケースに入っていた拳銃をハンカチで包み、隠すように入れた。そして、今日世界を救いに暗黒の今日を歩き出した。
7時ちょうど。学校の玄関につくともう北島さんがいた。どうやらミッシェルさんに言われてきたらしい。私がちゃんとやるかの監視役らしい。そういえばなんで北島さんはあんな物騒なやからと関係があるのだろうか。
「あの~北島さん、そういえばなんでなんたか協会と一緒にいるんですか?まだ学生ですよね?」
そういうと北島は「お前と同じだ」といい、どこかへ姿を消してしまった。そこにちょうど今回の殺害目標がきた。染谷花子である。彼女は今日何が起こるか何も知らない。今日も変わらず笑顔で登校してきた。そんな顔が憎たらしく見えてきた。
「涼香、今日早いねどうしたの?」
花子は相変わらず元気に私にふるまった。私も同じく元気におはようなんて言いたかった。しかしそんな気にはならなかった。私はうつむき覚悟を決めた。
「『時間停止』」
その時世界は時計の針を止めた。今まで聞こえてきた風の音も、木々の揺れる音も、車のエンジン音も、人の動きもすべてとまった。こんな世界で動けるのは私一人だ。この能力が使えるのはたったの5秒間だけ。私はカバンから急いでハンカチで包んだ拳銃を取り出し花子に向けて構えた。ミッシェルさんが教えてくれた通りに、安全装置を外し、拳銃が花子の頭に当たるように狙った。能力解除まであと3秒。あとは引き金を引くだけだ。なのに指が動かない。能力解除まであと2秒。トリガーを引けるよう思いっきり力を入れた。しかし、トリガーは動かなかった。残り一秒、
「私にはできない!!!」
そして0秒、いままで止まっていたものは動き出し、世界の時計は進み始めた。拳銃を構えたままの私はただただそこに時が
「涼香?」
花子は困惑している。それはそうだろう。なぜ私が花子に拳銃をむけているのか。花子が知らないうらで何が起こっているのか。これから何が起こるのか。彼女はなにも知らないのだ。そんな彼女のことを思うと、とてもじゃないが撃つ気になんてなれなかった。しかし、そんな気もすぐに無くなった。
花子は急に私に覆いかぶさるようにして私を押し倒し、馬乗りになって私の顔面を殴った。殴って殴って殴って。こんなに重い一撃は初めてだった。
「信じてたのに信じてたのに信じてたのに!!あいつらの仲間だったなんて!!最初っから私を殺すために、私をだますために!!」
歯や鼻が折れそうなくらいに殴られた。
「私ずっと生きづらかった。『WSP』とかゆうやつらから、今まで生きてきてずっと命を狙われてきた!お前は生きちゃいけない存在なんだって!お前のせいで悲しむ人が何万人もいるって!ついには友達だと思ってた涼香からも命を狙われる・・・こんな世界ある?私何もしてない。私の何が悪いのよ!」
「幼いころから『WSP』の差し金で両親にさえ殺されかけ、逃げた先の児童保護施設で育った。そこは『WSP』の手はなく、安全な日々を過ごしてた。だけど、中学校を卒業後、育て先が見つかり、高校に行けるようになった。私は嬉しかったよ。ようやく普通の生活ができるんだってね。でも、あいつらは私を諦めてなかった。どこにも逃げ場はなかった。そんなとき涼香と出会った。涼香と会った高校の入学式以降、奴らは襲ってこなくなった。だから涼香を信用した。涼香は私を守ってくれる。そう感じたのに・・!」
その時乾いた大きな音が一つ周りに響き渡った。それと同時に花子は地面に倒れた。花子の頭からは血が出ている。花子はそれ以降うごこうとしなかった。
「北・・島・・」
そこには拳銃をもった北島さんがいた。私と違って迷いのない目をしていた。結局私は何もできずに意識を失った。
気が付くとベットに横たわっていた。その隣にはミッシェルさんと北島さんがいた。そして私は今ヘリの中にいることに気づいた。
「ようやく気付いたか。ご協力ありがとう。おかげで世界の危機は取り除かれた。あらためて礼を言おう。ありがとう」
ミッシェルさんらは頭をさげた。私は放心状態だった。友達に死ぬほど殴られ、そして殺されるところをはっきりとみてしまった。時間を巻き戻したいがそんな体力などない。
「黒野涼香、君は世界を救った。今後の生活は我々が保証しよう。今治癒の超能力者が君を治療する。」
私はひとまず眠ることにした。しかし目をつぶろうとした瞬間、ヘリの奥から、一人の男が姿を現した。手には拳銃をもっていた。そして、私に向けて構えた。
「君の能力は強すぎた。世界の脅威だ。ありがとう、そしてさようなら。黒野涼香」
彼女らは最初から花子を殺すだけではなかった。殺害対象にはちゃんと私も入っていた。そうか、今なら花子の気持ちがわかる気がする。望んで超能力を得たわけじゃない、それを世界の脅威という理由で殺される。たまったもんじゃない。私は心の中で花子に「ごめんね、私も今から行くよ」と念じた。死を覚悟し目を閉じた。しかしその瞬間、ヘリのが大きく揺れた。
「何事だ!」
「ターゲット66、染谷花子です!」
「く、今回もゲームオーバーか」
ヘリの窓から真っ白な光があふれ、大きな音とともにヘリは平衡感覚を失い、落下していった。
気が付くとヘリは墜落していた。周りを見渡すと私たちの住む町は跡形もなくがれきの底に消え去っっていた。
もう一つ見えたものがあった。ミッシェルさんと北島さんだ。彼女らは黒い何かと戦っている。ミッシェルさんの能力だろうか、刀を2本もち、その禍々しい黒い何かを切りつけた。しかしダメージはないようだ。
「局長!12時の方向から攻撃!」
北島さんはミッシェルさんに『未来眼』による予知で指示を出す。その方向から岩の剣が何個も刹那の勢いでミッシェルさんを襲った。ミッシェルさんはそれらを華麗にかわしたが反対側の方角からとがった岩が光の速さで飛んできた。それはミッシェルさんのはらわたをえぐるかの如く突き刺さった。彼女は地面に倒れ、動かなくなった。
北島さんは茫然と立ち尽くし、膝をつき、放心した。そこに黒い何かが近づいてきた。黒い何かはうっすらとその姿をみせた。その姿はなんと拳銃で撃たれ死んだはずの花子だった。
「北島だっけ?私覚えてるよ、あんたが私をストーカーして挙句の果てに襲い掛かってきたこと。私、今まで襲ってきた人全員私の能力『吸収』で消し去ったけど、あんたは弱くて殺す気にもならなかったわ。けど早めに殺しておくべきだったって今すごい後悔してる」
そういって花子は手から黒くて丸い物体を表現させ、それを北島にトスした。北島はそれに吸い込まれるように消えていき、最終的にはその黒くて丸い物体とともに姿を消した。そして花子は私のほうへ地下ずいた。
「涼香、また会ったね。ごめんねあんなに殴っちゃって、でもこれで私の気持ちが分かったでしょう。この世界に生きる意味を奪われた私の気持ちが。でも大丈夫、私が代わりに世界に復讐してあげる。だから涼香、私に力を貸して。」
そういって花子は北島さんを消し去った、黒くて丸いを掌に表現させた。私はこのまま終わるのか。いや終わらせない。こんなエンディングなんて誰も見たくない!私の中の決心はついた。今まで重かった足は嘘のように軽く、殴られ痛いはずの顔も痛みを感じなくなっていた。私にできることは・・・まだ残っている!
「そんなことしなくてもいいよ、花子」
私は花子に話しかけた。花子はきみの悪い笑顔を浮かべながらこう言った。
「あんたに何ができる?時間を操ってどう復讐する?涼香、君は北島と同じだ。か弱くて馬鹿。バカ、バカ、バカ野郎だよ」
「そうかもしれない、だけどそんな馬鹿な私にだってできることはある。」
「なにができるんだよ!」
「花子、不死の能力が使えるようにいつ頃?」
「6月6日。先生に呼び出されたんだけど実はそいつが『WSP』の刺客でね、『吸収』したら大当たりだったわ。あんたまさか!?」
「そのころまで時間を巻き戻せばいい!そして花子を殺す!」
「でもわかってるの?私を殺せば今度はあなたが『WSP』から狙われるのよ?私のような人権のない人生を送るハメになるのよ?」
「あなたを殺して、私も死ぬこれで世界は当分幸せね」
「そんなことさせない・・今ここで殺す!!そして世界に復讐してやる!」
花子はいままで『吸収』してきたであろう能力をすべてさらけ出してきた。確かにこれが世界を滅ぼすといわれたら納得がいく。今までに見たことのない光景がそこにあった。もはや花子はそれらに隠れ見えなくなった。
「死ねぇええ!!」
私は覚悟を決めた。
「天成6年6月6日『遡及』!!」
ー『遡及』ーそれは時間軸をさかのぼる能力。私が使える能力の中で一番自慢できる能力。その自慢できる能力をもってして全力で花子を止める・・・。
そして世界は物語の最初へと時間を遡っていった。
ー遡及ー
天成6年6月6日
気付けば朝7時半の大鹿高校にいた。ポケットに拳銃があることを確認し、私たちの教室へと足を運んだ。そこにはまだ不死の力を手に入れる前の染谷花子がいた。
「おは・・・よ・・・」
私は躊躇なく拳銃を向けた。そして引き金を引いた。不思議とその引き金は軽かった。乾いた音が学校中に響き渡る。拳銃の弾は見事、花子の頭に当たった。椅子に座っていた花子はのけぞり、そのまま動かなくなった。
「終わったんだね」
残る標的は私自身「黒野涼香」だ。私は拳銃を自分の口に入れ、そして引き金を引いた。不思議と引き金は軽かった。なるほど。どうやら私は人の心を忘れたらしい。乾いた音がまた教室に響き渡った。
その20分後、この時間軸の黒野涼香は珍しく早く登校してきた。朝、北島に会って少々怖い思いをした涼香だったが、教室に入るとそんなことはどうでもよくなった。拳銃で打ち抜かれた二人の遺体。一人は私の友達染谷花子、そしてもう一人は・・・私。私だった。私は悲鳴を上げた。とてもじゃないが冷静にはできなかった。その時私はとっさに思い付いた。時間を巻き戻せばいい。そうすれば花子を守れるかも。私は自信がない状態で『遡及』の能力を使った。世界がどうなるかも知らずに。
「花子が死ぬ前に『遡及』!!」
こうして世界は何事もなかったように天成6年6月6日の朝へ、時間は巻き戻り、再び物語の最初に戻った。
ー遡及ー
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