第3話 第一関門

転校を決意した3人だったが

その前に親の説得という

課題が立ちはだかる。


帰り道、3人は不安そうな顔を浮かべていた。


『転校を決意したのはいいけど、

絶対、反対されるよな。』


彗也が呟やいた。


『そうだよなぁ。

入学してそんなに日も経ってないし、

入学費用とか考えると

厳しいよな。』


望も不安を口にする。


『いやっ!俺らの熱意を

真っ直ぐ伝えれば必ずわかってくれる!

親として、子のやりたい事は

させたいものでしょ!!』


戀丸はそう言ったが、

なかなかに厳しいだろう。


『だって俺ら3人とも

母子家庭だろ?

望も言ったけど、やっぱ金銭的に

辛いだろ。

やりたい事はやらせたいだろうけど、

何やるにしても金が無きゃ無理だしな…』


彗也が言うように

3人とも母子家庭である。


望と戀丸の父親は

2人が小学生の時に病気で他界。


彗也の父親は

彗也が産まれてすぐ

仕事中の事故で亡くなっている。


『……でも可能性はゼロじゃあない。』


望が俯いていた顔を上げ、言った。


『…うん。可能性はゼロじゃないな。』


彗也は頷きながら言った。


『俺らの母親って変わってるもんな。』


戀丸が苦笑いしながら言った。


そう。この3人の母親は

一癖二癖ある変わった人間なのだ。



上手く扱えれば…!


変わっているからこそ

強引にいける箇所もある。


『よし!じゃあ、明日の昼休みに

結果報告にしよう。』


望が2人に言った。


『じゃあ明日!』


戀丸が元気にそう言うと

3人はそれぞれの

帰路を歩いていった。



『すぐに言おう。

後になればなるほど言いづらくなるからな。

話は長引かせず、短期決戦だ…!』


俺の様々な変化にすぐ気付くからな。

六葉むつば 神華しんか

という人間は。


そう。昔から隠し事はすぐにバレるし、

嘘も小細工も、ほとんど通用しない。

やっているとわかっていながら

お年頃な俺の部屋に入ってくるし、

侮れない。


『よし。行くぞ…!』


望は玄関のドアを開けた。


『ただいまー。』


出迎えはなし。

ということはリビングで

休憩タイムだな。


『あー、おかえりー。

今日もアオハルしてきたかぁ〜?

なんちゃって〜。』


神華はリビングに敷いてある

カーペットに横になっている。


家事が得意かつ、行動スピードが速い為

俺が帰ってくる頃には全て

家の事は確実に終わらせている。


『あれ?今日は仕事休みだっけ?』


よし。まずは何気ない会話からだ。

変に思われないように

いつも通りに言えてる。うんうん。

第一声で悟られる事はないな。

こっちから言わないと

この後がやり辛くなるからな。


『休みだよー。朝言ったじゃーん。』


神華は携帯を弄りながら言った。


『あぁ、そうだっけ。忘れてた。』


すぐに終わらせよう。

よし、言うぞ……


『あのさ……』


俺がそう言いかけた時だった。

神華は体を起こし

俺の目を真っ直ぐ見て言った。


『のぞみ、なんか今日いつもと違うね。』


えっ……


『隠し事って感じじゃないなー。

うーん。頼み事……かな?

それも、難しい頼み事。』


悟られたー!!

なぜだ?!いつも通りだったはず…


『普通を意識しすぎて何か変な感じだよ?

なんで誤魔化すような態度とるの?

私、昔から言ってるじゃん。

どんな事でも素直に言いなさいって。』


ヤバい。劣勢スタートになってしまった。

なんとか立て直さないと。


『ほら、今度は自分を優位にするには

どうしたらいいか考えてる。

最初から取り繕わずに

素直に正直にいなさいって

これも昔から言ってたよね?』


うわぁーーーー!!

母親って ここまで 子の変化には

敏感なのか?!

完全にペースを乱され、握られた。

……言う通りにするしかないな。


『……で?私に何を[交渉]したいのかな?』


神華は望に近づきながら言った。

交渉って感じでいこうとしてたのも

バレてんのかい。


『えっと、その〜。

言っても怒らない?』


『んん〜。内容にもよるけど、

最初から素直に言わなかったからなぁ〜。

どうだろうな〜?

…ま。とりあえず言ってごらん?』


そして神華は望の両手を掴み

目の前に座らせた。


『……て、転校したいなぁ……

って思ってさぁ……』


弱々しい声でそう言う、望の顔を

見つめる神華。


ダメか?これはダメなのか?

ダメな時の顔か?

あー!わからん!!

ハッキリ言わなかったから

余計にダメだったのか?!


そして、神華は掴んでいた

望の手をギュッと握った。


ダメだぁ〜。

……そう思ったが


『なぁんだ、やっぱりそんな事かー。』


え?


『別に良いよー。』


は?

すんなりOKしすぎじゃない?

もっとこう、色々ないのか?!


ダメに決まってるでしょ!とか

お金ないよ!とか

何考えてるの?!とかさ。

別に良いよーって軽すぎない?!


『どうせ、彗也くんと戀丸くんと

転校しようぜ!!みたいな話でも

したんでしょ?

転校したい理由は…えーっと、

彼女欲しいとかかな?』


バレてるー!

全部バレてるー!!

なんで内部事情まで詳しく知ってんの?!!

俺の表情、行動から全てを察知したのか?!


『あのねー、私に隠し事は出来ないって

望もわかってるでしょ?

彗也くんも、戀丸くんも どんな子かなんて

一回見たら大体わかるよ〜?

望より何年多く生きてると思ってるの?

年長者には敵わないのよ?

覚えておくように。』


神華は、腰に手を当て

えっへんと言った感じだ。


『はい。すみません。

以後、肝に銘じます。』


俺は観念し、平謝りした。


『よろしい。

……転校は許可するけど、

条件が1つ。』


望は、息を呑んだ。

どんな条件だろう。

無理な事じゃなければいいが…


『転校先の高校は

私が決める。……いい?』


えっ?

あ、うん?まぁいいか。

手間省けるし。

あ、でも戀丸と彗也になんて言おう。


『条件承諾します。

でも、戀丸も彗也も

一緒に転校するから

2人の意見も聞かないと…』


望がそう言うと、神華は


『あー、その辺は私が

やっとくから大丈夫。

2人とも今頃 望と同じ交渉して

話が終わってる頃だと思うから。

ちゃんと、2人の親にも

私が連絡するから。心配無用よー。』


うまく丸め込まれてる気がするが、

面倒ごとをやってくれると言う事か。

それなら別にいいか。


『じゃ、じゃあお願いね?』


望は最終確認の意味も込めてそう言った。


『任せといて〜。

我が子の願いは極力叶えたいからね。』


そう言いながら神華は

望に笑顔を向けた。

やっぱ、親には敵わないな。

最後まで。


『はなちゃん、ありがとう。』


あ、ちなみにだけど俺は

母親の事はニックネームで呼んでいる。

以前、お母さんと呼んだら

なぜか、『その呼び方なんかヤダー』と

言われたので、

その後色々な呼び方をして

ニックネームが1番いい感じだったので

それ以来ニックネームで呼んでいるのだ。


でも!これで転校もOKもらったし、

2人の親に話もつけてくれるみたいだから

問題なしだ!


はぁー、最初はどうなるかと思ったけど

丸く収まって良かった。


なんか、一気に疲れた。

シャワー浴びよう。


そして望はシャワーを浴びた後

神華の作ってくれた夕飯を食べ、

少し勉強して、

いつもより早い時間に眠りについた。

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