第2話 転校宣言!

そんなこんなで学校に到着し、

教室へと入った3人。

奇跡的に3人とも同じクラスであった。


そして、1時間目の授業が終わり

10分間の休み時間が始まる。

学校では3人で行動する事が多く、

いつも望の席に戀丸と彗也が来るのだが、

なぜか今日は戀丸が来ない。


『あれ?戀丸は?』


トイレから帰ってきた彗也が

望に聞く。


『授業中も、やけに静かだから

変に思ってチラチラみてたんだけど、

ずっと窓の方向いてたよ。

考え事してるっぽいんだよね。』


望はそう言いながら

今もなお、窓の方を向いている

戀丸を少し心配そうな顔で見た。


『あいつが考え事?

どうせ、今日の昼飯なんだろうなー

とか、どうでも良い事だろ。』


彗也は笑いながら望に言うと、

戀丸の席へと向かった。


『おいっ。戀丸。

考え事か?それとも悩み事か?

頭の中お花畑のお前に限って

そんな事ないよな?』


彗也が笑いながら話しかけるも

戀丸は返事もせず、ただ じっ と

窓の方を見ている。


『……んだよ。つまんねぇなぁー。

お前がそんなんだと

こっちの調子が狂うわ。』


そう捨て台詞のように吐いて

彗也は望の方へと戻る。


『やっぱ、なんかあったんだよ。

いつも鬱陶しいくらいにうるさい戀丸が

あんなになるなんて。

よっぽどの事だと思う。』


望は戀丸に対しての心配が

更に大きくなった。


『…んまぁたしかに。

でも、朝は普通だったのにな。

この1時間で何があったんだ?』


真相は戀丸本人に聞かないと

わからなさそうだ。

2人は昼休みに戀丸に聞いてみる事に。



4時間目が終わり、昼食をカバンから

取り出す。

いつも昼食を食べている場所である

家庭科の準備室へと

望と彗也は向かおうとする。

が、戀丸は席に座ったまま。


『戀丸!行くぞー。』


彗也が声をかけると、


『先行っててー』


と、戀丸はいつもより

かなり小さい声でそう答えた。


『えっ。戀丸ってあのぐらいの声量で

喋れたんだ。』


いつもの戀丸ではあり得ないほどの、

あまりに小さすぎる声に望は驚いた。


『いや。そこじゃないだろ。』


彗也が軽くツッコミをいれる。


仕方なく2人で家庭科の準備室に向かった。


『やっぱ、ここは良いよなー

家庭科の教科係になって正解だわ。』


弁当を食べながら

彗也は言った。


『確かに。誰も来ないし ソファもあるし。

館山先生、本当いい人だよな。

昼休みは好きに使っていいよーなんて。』


家庭科担当教員である、

館山たてやま先生は

10年前からこの学校で働く

40代後半くらいの男性職員。

どの生徒にも優しく、超がつくほどの

温厚な性格の人物だ。

彗也を気に入っているらしく、

特に優しくしてくれている。


『前から思ってたけど、

なんで家庭科の準備室に

ソファなんかあるんだろ。』


望は、ふと疑問に思った。

しばらく2人で考えたが、結局

館山先生は、おじいちゃんだから

授業がない時に仮眠でもしているのだろう。

という、失礼な結論に至った。


そんな他愛もない話をしながら食べている

昼食も、そろそろ終わる。

好きなものは最後に食べるタイプの彗也が

最後の おかずである唐揚げを

箸で掴んだとたん、部屋のドアが

ガラガラッ!と勢いよく開いた。

そしてそこには肩で息をしている戀丸が

立っていた。

2人は急に開いたドアの音に対しての

驚きがおさまっていない為か、

無言で戀丸を見つめていた。


『転校する!!!』


突如 戀丸は かなりの大声でそう言った。

いや、この声量は 叫んだ の方がいいだろう。


『…は??』


突然すぎる宣言に

理解が追いつかない2人は

同タイミングで口を開けた。


『だ!か!ら!

転校だよ!て・ん・こ・う!』


戀丸は大きく口を動かしながら

2人に言った。


『いやべつに

聞き取れなかった訳じゃないんだけど。』


望がそう返すと、

戀丸はソファの真ん中へ座る。


『俺さ、今日の授業中

ずーーーっと考えてたんだ……

高校生活が始まっておよそ2ヶ月。

なんか足りないなって。』


戀丸は少し上を向きながら話しを続けた。


『素晴らしい親友2人と、

この学校で新しくできた友達。

喋って、遊んで、同じ空間で勉強して、

時には喧嘩もして。

でも、それでも!

こうして仲良くご飯食べたりして

また絆を深めあって…。』


らしくない事を言う戀丸に

望は驚き、彗也は少し笑っていた。


『でもさぁ!なんか足りないんだよ!

心のどこかが!何かが!

まだ満たされてないんだよ!

それが何なのか、授業なんてそっちのけで、

ずっと考えてた。』


いや、授業は真面目に受けろよ。

そうツッコミを入れたくなったが

望はぐっとこらえ、話を聞き続ける。


『何だ?何が足りないんだ?

俺の心よ、答えてくれ。

お前は何を欲しているんだ?

何を望んでいるんだ?って。

そしたらさ。答えてくれたよ。

俺の心が。My HEART がさ。』


なぜか英語の部分はかなりの巻き舌で

発音した。

HEART にいたっては

完全にTの発音をしていない。

文字で表すなら

マイ ハォー といった感じだ。


『彗也は何だと思う?』


急に質問してきた戀丸に

彗也は少し驚いたが5秒ほど考えこみ答えた。


『……刺激!』


なんのだよ。

いや、刺激に近い類のものだろうけどさ。


『ノン ノン ノン』

目を瞑り、首と人差し指を

横にふりながら戀丸は言った。


うぜぇ!なんだそれ。

さっきから英語話す時だけ特殊すぎんだろ。


『えーっと、じゃあ………

わかんねぇわ!何?』


諦めるのはやっ!

答え1つだけかよ!

せめて3つくらいは答えろや。


『じゃあ、教えてあげるでござるよ』


人柄かわりすぎだろ!

散々英語使っといて、今度は ござるって。


『俺の心……、じゃなかった。

マイ ハォー が求めていたものはズバリ!』


いちいち言い直すな。


『と、言いたいところだけど

もうちょっと2人で考えてくれるかい?

すぐに言ったらもったいな……』


『いいから早く言えっ!!』


しびれを切らした望が食い気味で

戀丸に詰め寄る。


『わかった、わかった。言うって。

マイハォーが求めていたのはズバリ!

…………女性だ!!!!』


え………?


『やっぱり高校生といえば

恋愛でしょ。アオハルってやつぅ?

一緒に登下校とか、自転車2ケツで走るとか、

映画見に行ったり、ご飯食べたりとか。

もちろん2人とそういう事しても

メッチャ楽しいんだけど、

こう、ほら、、、男と女だと

やっぱ違うじゃん?』


『言おうとしている事はわかるけどさぁ。

でも、さすがに

転校してまで彼女つくらなくても

いいんじゃない?

今は駅前とかで

遊んでる女の子多いらしいから

そこで声かけたりとか…』


望は戀丸にそう言うと、

戀丸はすかさず反論する。


『違うんだよ!

同じ学舎で過ごす女の子と俺は

お近付きになりたいの!

望は彼女欲しくないの?』


『いや俺は別に。

なんかめんどくさそうだから。』


望は即答した。


『そう言うとおもってたけどさ…

でも!女友達くらいはほしいでしょ?

望だって年頃なんだから、

共学っていう、周りに女子がいる状況に

なったら絶対、彼女欲しくなるって!』


望を説得する様に戀丸は言った。


『んー。まぁ、

意外に趣味友ができたりするかもなぁ。』


望は少し考え始める。


『そうそう。

そしたら新たな知識も身につくし、

望の心も喜ぶと思うよ?

だから、俺と一緒に転校しようぜ?な?』


ん??


『ちょっと待て。俺も転校するの?』


まさかな。望は戀丸に聞いた。


『え?するでしょ?』


何言ってんの?ぐらいのテンションで

戀丸は確認した。


『いやいや。しないでしょ!

大体 俺は現状で満足してるし。

それに仮に転校するにしても

親に反対されると思うよ?

お金だってかかるんだし。

お前は平均ちょい上ぐらいの学力の

俺よりテスト結果とか悪いんだから

厳しくない?』


望は戀丸にストレートに話す。


『………知らん!!

転校するったらするの!!!』


戀丸は大声で反論する。

しかし、どうやら本気であることが

表情から伺える。


『彗也はどう?!』


戀丸は終始、話を聞いているだけの彗也に

問いかけた。


『あり得ないだろ!

俺は女が苦手だって知ってるだろ!

大体、彼女欲しさに転校とか…』


そう言う彗也の話を遮り

戀丸は説得を試みる。


『でもさ、彗也。

彗也はいつまでも

女の子が苦手なままでいいの?』


『うっ…』


痛いところを戀丸につかれた彗也。


『将来どんな仕事に就こうとしてるのか

わからないけどさ。

大人になって、女の子が苦手なんて

恥ずかしいでしょ!

職場に絶対、女の子はいるし。

仕事は1人でするものじゃないでしょ!?

だから今から慣れる為にもさ!

俺は彗也の事もちゃんと考えて

言ってるの!』


珍しく、あつくるしくなる戀丸。


『で、でもさ。

もし、これで転校して

結局、女性への苦手意識を克服できないまま

卒業になったら?

俺、やりきれないぞ。』


彗也も苦手を克服したい気持ちは

あるようだ。


『大丈夫!!俺と望が全力で協力する!!

俺だって何の考えも無しに

転校とか言ったんじゃなくてさ、

望と彗也に、

もっともっと!色んな世界を見せたいから!

家から近いから発見も少ないし、

やっぱり、性別ごとに特筆した所も

違いがあると思うし、

女の子が学校生活にいるのって

プラスだと思うんだ。

何よりさ!愛を知りたいと思わない?』


戀丸は

望と彗也の為という気持ちが大きいようだ。


『愛か…

まだ高校生だけど

誰かを好きになった事なんて

子供の時ぐらいしかないな。』


望は過去を振り返って

それを、戀丸の気持ちと意見に

照らし合わせてみる。


『確かに。

誰かを好きになるってどんな感じか。

興味出てきたかも。』


だんだん、望は転校に前向きに

なってきた。


『でしょ?

俺さ、望の大切な人、見てみたい!

だからさ!転校してみようよ!』


戀丸は微笑みながら望の顔を見る。


『……はぁ。結局転校するって言うまで

諦めないんだろ?わかったよ。

興味が出てきたのは事実だし。

経験は大事だからね。

ただし、上手くいかなかったら

責任取れるのか?』


冗談まじりに望は聞く。


『絶対、失敗も後悔もさせない!!

約束する!!!』


戀丸は真っ直ぐな瞳で、高らかに宣言する。


『彗也もさ!

愛を知りに行こうよ!

いや、無理に誰かを愛さなくても、

彗也にとっても転校して新しい世界を

開拓してく事はプラスしかないと思う!』


戀丸は彗也を再度説得する。


『新しい世界…

自分にとってプラス……』


彗也は考え込む。


『……俺の事、

ちゃんとサポートしてくれるんだよな?』


彗也は最後の確認といった感じで

戀丸に問い始める。


『もちろん!!』


戀丸は自信満々に答える。


『絶対に絶対か?』


『うん!!!』


『………。

そこまで言うなら、頑張ってみようかな』


そう言った途端、戀丸の表情が

パァーっと明るくなる。


『彗也、望。ありがとう!!』


戀丸は少し涙ぐんでいる。

よほど嬉しいのだろう。


『よし、じゃあ円陣組もう!』


戀丸は望と彗也の肩をガッと掴む。


『そこまでする事か?』


彗也は笑いながら言った。


『ま、戀丸らしいけど』


望も笑いながら言った。


『よぉし!じゃあ!!

卒業までに絶対に彼女つくるぞーー!!!』


『おーーー!!!!!』


3人で同時に叫んだ。


『って、結局 彼女づくりが目当てかよ!』


望がそうツッコむと

3人で大笑いした。



『でも、、、』

3人は思った。



『どうやって親を説得しよう………』



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