第13話 必要な物

 初回の授業を終え、広場にあるベンチに4人で集まる。


「そういやちっちゃいんだったわ...俺とティア」


学力、協調性、そしてーー身長。先生から言われた騎士に必要で俺たちに欠けている、と言う物。


「まだ10歳ですし...成長期がありますし...」


まあ、ティアも凹んでいるように、学力と協調性はともかくとして、俺たちは身長が低いのだ。


ジードを141センチとすると、ティアは126、俺は130程だ。


「あ、あまり考えすぎない方がいいよ!2人とも!」


元気付けようとしてくれてるのはいいが、テトラは135センチだ、俺たちよりも大きい。


「どうすればいいんでしょうかね〜…」

「じゃあ、身長が低くても力はある、って事を見せちまえば良いんじゃねえか?」


そうジードが提案してくれるが、そんなに都合良く力を見せつけられる機会なんてなぁ...


「見せる機会があればねー...」


なんて、つぶやくと、


「あるよ?6ヶ月に一回、魔法のテスト!」

「「あるんですか?!?!」」


ベンチから飛び上がり、ティアと2人でテトラに詰め寄る。


「もう、先生の話聞いてなかったの?『6ヶ月に一回、学んだ事がしっかり出来ているか、それを確認するためのテストを行う!』って言ってたよ〜」


身長の件で放心してて聞いてなかった!


「それがあるなら...!」

「うん!」


ティアと共に顔を見合わせ、互いに笑顔になる。


そこで俺はアクショントリガーを搭載した手袋、ティアは「炎剣ヴォルカリバー」を披露すれば...


「でも、それじゃあジードとテトラを置いてっちゃうな...」


友達を置いて、2人だけで力を振るう。それではダメだ。4人一緒でいたい。


「なあティア...あの結晶、後二つ持ってないか?」


考えた事を伝えようとすると、ティアは待ってましたとばかりに笑い、


「言いたい事はわかりました!持ってますよ。刻印済みの結晶!」


肩掛け鞄から結晶を2つ取り出す。


「ありがとう、ティア!」

「なーにー、この結晶?」「なんか、刻印が違うな...?」


初めて見る刻印の結晶に、ジードとテトラは不思議そうにしている。


「これはですねー...」






ティアが説明を終える。


「すっごーい!」「3年前に貰った蒼空スカイブルーと言い...お前たち何でも作れるな...」


褒められて、ティアも満足げだ。


「でも、それの本領は専用の剣に付ける事で発揮するよな?......一本しかないぞ...」


また壁に当たる。


「じゃあ工房に行ってみましょう!そこなら作ってくれるかもしれません!」


ティアはそう言うと、学校に設置されている、「ドワーフ」と呼ばれる人種が技術を学ぶ工房へと走って行った。





「すみませーん!!!失礼しまーす!!」


ティアは巨大な工房の入り口に立つと、今まで聞いたことのないような大声で挨拶をして、入って行く。

すると入り口の横から、「どわあぁぁぁぁぁ!」と声が聞こえ、俺よりも少し小柄だろうか?それぐらいの男の子が現れた。


「うるせーよ!声大きすぎるって!」

「す、すみません!広かったものですから、これぐらいの声なら聞こえるかなと思って...」


小さい男の子は「はあ、」とため息を吐き、聞いてくる。


「で?何しに来たんだ?」


「とある物を作って貰うために来ました!」


そう言って、ティアは自分の持つ専用の剣、カリバーを差し出す。


「これです!」


だが、小さい男の子はばつが悪そうに言う。


「あー...すまねえけど親方がいま居ねえんだ。後でもう一回来てくれよ」


「そう、ですか...」


側から見てもわかるほどに落ち込むティア。


「しょうがないな、2時間目を終えてからもう一度来よう」

「ああ、そんぐらいだったらいると思うぜ」


一旦工房を離れ、教室へ戻る事にした。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


2時間目が終わり、また4人で工房へと向かう。


「退屈でした...」「ちょっと眠くなったわ...」


授業は退屈、その一言に尽きる。

何だかんだと言って、魔法の権威であるサンディ・アルカトラの元で魔法を習ったのだ。初等部程度の授業、魔法の撃ち方や刻印についてなどは、既に教えられている。それもずいぶん前に。


「もうちょっとだな。......あれ?」「どうしたコード?」


そろそろ工房に着くがーーその手前の道で、何かやっている。


「おい、返せよ!それ俺のだぞ!」


そこに居たのは、先程の男の子と、


「おい取り返してみろよ!」「足遅えから追いつけねえわコイツ!」「もらってくぜー?」


大事に使われた跡のある結晶刻印用の刻印棒を奪い、男の子をからかう性格の悪そうな3人組だった。


「ティア」「はい、やりましょう!」


まず、ティアが蒼空スカイブルーで刻印棒を持った1人の背後に飛び、それを奪う。


「いただきますね?」「なんだお前ーーヘブっ?!」


後ろから急に現れたティアに怯み、動きの止まった3人をハーケンで、作った鎖で無理矢理縛る。


「人の物をとっちゃダメ、って教えられなかったのか?」


「ご、ごめんなさい...」


謝ったのを確認して鎖を解くと、3人組は走って逃げて行った。


「これ、君のですよね?」「あ、ああ、ありがとう」


刻印棒を男の子へ返す。


「名前、なんて言うんですか?」


ティアが聞く。


「俺?俺はガラタ、お前たちは?」


「俺たちはーー」





自己紹介をしながら工房まで移動し、職人の業を見る。


「すっごい...!」


コードはどうやら完全に職人の業に魅了されたようだ。


「じゃああの魔法、お前の完全オリジナルかよ!?」


「はい、そうですよ?」


ガラタがさっきの蒼空スカイブルーについて質問して来る。


「正確には空を飛ぶのではなく、空を跳ねてる、の方が合ってますが...」


「それに、私たちの分も作ってくれたんだよ!」


「ヒェーッ!すげえなあ!」


なんて話をしていると、ふと思う。


「でも、攻撃するための魔法って少し不便ですよね」


「んあ?何でだよ?」


「だって、剣から放てば少し速度が落ちますし、杖も取り回しが悪いし…」


ジードは不思議そうに聞く。


「だってそう言うもんだろ?」


「でもこう、こんな感じにすればもっと良いと思うんですけど...」


その辺にあった黒板に、イメージを書き出す。


「これ...」


それは、剣というよりはナイフ、ダガーと言われる物に近しい小ささで、柄の部分から少し離れた所に結晶が嵌め込まれている構造だった。


「少し小さくねえか?」


「いえ、これぐらいの短さであれば、踏み込みで近づく技術でどうにかなります。特徴としてはーー」


「ほう、何だ?言ってみろ」


「はい、短くすることで剣が振りやすくなり、魔法を放つ際、魔法自体の前に進む力に剣の振る力を足して、剣から放つ際の弱点である速度の遅さをカバー出来る様になってます。」


「ふん、面白い事を考えるガキだな...」


(あれ?誰だ?)


そう思い、振り返ると、そこに居たのは


「その考えに間違いは無いんだな?」


目元に傷のある、髭を生やした大男だった。


「親方?!いつの間に!?」


「うっせえぞガラタ!」


「いでっ!」


ガラタに拳が落ちる。


「ちっちゃいの、もう一度聞くぞ?その考えは間違いねえんだな?」


「...はい!作って貰えれば6ヶ月後の定期試験でお見せしますよ!」


「良い返事だ!作ってやるよ、その剣。何本だ?」


(やった!作って貰える!)


「コード、この剣要ります?」


ドワーフ族が鉄を叩く姿を延々と見ているコードを、こちらへ呼ぶ。


「ん?んー...いいかなぁ。俺、この手袋があるからさ!」


「じゃあ三本でお願いします!」


「おう!おい、ガラタ!お前も手伝え!他のやつよりも早く鉄叩かせてやる!」


「マジっすか?!よっしゃー!やるぞー!!」


そうして、2人は工房の奥へと消えて行く。


「じゃあ、教室戻りましょうか!」


「「「おう!(うん!)」」」


また退屈な授業を受けるのは正直言って苦痛だが、友達と共になら、悪くは無いなーー





初等部卒業までーー


あと、3年。


試験までーー


あと、6ヶ月。

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