騎士学校編

第12話 騎士へ、夢を叶えるため

 また、夢を見る。3年前ーーーテトラやジードと約束を交わした日。あの日以来の夢だった。

そこにはコードと、会話からして妹、と思わしき人物がいた。


「お帰りなさい。兄さん」


無機質な廊下で微笑みながら、妹らしき人は言う。

それに対し、俺が返したのは、


「......帰りたくてこんな所に帰って来たわけじゃない」


冷たく、突き放した言葉だった。


「酷いですね。久しぶりの妹との再会ですのに...」

「酷い?...こんな所にいて、あんな事をしてるお前よりは酷くないさ。」


コードは問答を続ける内に、だんだんとイラついてきている様子だ。


「とにかく、俺の周りに居ないでくれ。傷つけてしまうかもしれない」


「ーーへえ、あのおじさんの娘のように、ですか?」


ダァン!!


その言葉を聞いた瞬間、コードは妹の胸ぐらを掴み、壁に叩きつける。


「何で、それ、知ってんだ...?」

「痛いですよぉ、家族にそんな情熱的になっちゃダメなんですよ?」


妹はコードを煽る。


「いいから答えろ!!!」


怒りを抑えきれず、叫ぶ。


「うるさいです。...まああの娘を仕向けたのは私です。正確にはおじさんの娘、ではなくよく似た別人ですが。可愛かったですよー?自分を助けてくれたおじさんに拒絶されて、狼狽えてるの!」

「ルクスリアァァァァア!!!!」


妹の名前、だろうか?それを叫びながら怒りのままに殴り飛ばしもう一度、胸ぐらを掴んで引き起こす。


「お前のせいで!!お前が居なければこんな!!」


ルクスリアは笑いながら、言う。


「しょうがないでしょう?!私は《色欲》で、貴方は実験台!貴方は実験台として、私の欲を満たす!私たちに求められるだけの存在なんですから!」


「お前らが求めなければーーがっ!?」


後ろから現れた人影が、コードの首へ注射器を刺す。


「うるさいわ、《憤怒》の実験台」「黙って受け入れれば良いものを...」


コードの手が離れ、何事もなかったかのように、ルクスリアは立つ。


「おやすみなさい...ーー兄さん」


名前を言ったのだろうか?聞き取れなかった。

そのシーンを最後に、視界は暗くなる。


(今まで通りなら、このあと目がーー)


「今回は醒めないよ」


暗い視界の中で、どこからか語りかけられる。


「初めまして、イーーじゃなくて、コード」


俺の名前を知ってる!?何者ーー


「警戒しなくていい。君の言いたい事は分かるからね。」


俺の考えは筒抜けらしい。


「そうだね。話が早くて助かるよ。さてーー君は守りたい物、やりたい事があるね?」


ティア達友人と、自分専用の魔灯騎士マジックリッターを作ろうとしてる事か?


「うん、そう。僕ーー《強欲》、とでもしようか。傲慢からのアドバイスだ、行くよ?」


聞くかどうかは置いておいて、安心する声だ。何か、懐かしいような...


「じゃあ傲慢からのアドバイス!

大切な人も、やりたい事も、どちらも手放すな。手放してしまえばその後には何も残らない。強欲でいいんだ」


...言われなくても、だ。ティアを手放すつもりもないし、魔灯騎士マジックリッターを作ることも諦めない。


「そっか...、それならいいんだ。胸に刻み込んでおいてね」


「じゃあ、お別れだ。夢から醒める時間だよ」


だんだん声が離れて行く。


「僕が守れなかったその世界の未来、任せたよ...」





「ゔっ...」


腹に衝撃を受けて起きる。どうやらティアの腕が寝返りした際に叩きつけられたらしい。


「もう...」


優しく手をどかし、ベッドから出る。


(3年前、あの日以来の夢だ。今まで見たどの夢よりも、負の感情が強い記憶だった)


いつものように着替えながら考える。


(干渉してくる声も現れた。知らない過去に、いったい何があったんだ...?)


「大切な人も、やりたい事も、どちらも手放すな。手放してしまえばその後には何も残らない...」


言われたアドバイスを思い出し、言葉にする。


「...やってみせるさ」


騎士学校制服への着替えを終え、決意する様に呟いた。





ティアを起こし、机の上に置いておいた「王立エルグ騎士学校入学証明書」を手に、騎士学校行きの馬車に乗る。


「「行ってきます!」」


アルカトラ夫妻に別れを告げて、ティアと共に、約束が待つ王立エルグ騎士学校へと向かう。


「楽しみですねー!どんな魔灯騎士マジックリッターが、どんな知識が、私たちを待つんでしょうか!」


ティアのテンションはもう高い。


「ああ、魔灯騎士マジックリッターについてどう学んでいくのか、今から楽しみだ!」


鞄に入っていた、魔灯騎士マジックリッターについての本を開き、この国の量産機である、フラマイルのページを見る。外装の滑らかな曲線、騎士の鎧を表現した頭部とその奥に隠されたセンサーアイ!どこをとっても魅力的な機体だ!だが、それと同時に超えるべき壁でもある。


「絶対これを超える機体を作ってやる...!」

「ええ!もちろんです!」


ティアと共に決意を新たにして、騎士学校へと馬車は向かって行く。





「到っ着!」

「うわぁー...!」


王立エルグ騎士学校。魔法及び魔灯騎士マジックリッターについて学び、試す学校であり、騎士を目指す者は基本的にここへ入学する。初等部、中等部、高等部に分かれており、中等部から高等部に上がる際には試験が必要となる。


遂に、到着だ...!


「あ、あれコードとティアちゃんじゃない?!」


遠くから、聴き慣れた声が近づいて来る。


「コード!ティアちゃん!久しぶりー!」


ティアが「ゔわっ!」と言う声と共に掻っ攫われて、


「やっぱ可愛いー!」


女性ーー3年ぶりで自身はないが、多分テトラに撫でられていた。


「おいテトラ!校内ではやめとけって!」


遅れて来たのは、10センチほど身長が伸び、少し大きくなったジードだった。


「コード、久しぶり!悪りぃな騒がしくして。コイツティアから剥がしちまうから待っててくれ!」


そうジードは言うと、さっさとテトラをティアから剥がし、こちらへ来る。


「約束、果たしに来たぜ」

「うん、ジードもテトラも、久しぶり!」


離れていた友に、再会の挨拶をする。


「会えた事だし、教室へ行きましょうか!」


ティアの提案に頷き、皆で3年間あった事を話しながら、教室へと向かう。




「えー、ヴホン!私はこれから君たちの教師となる、ジルガ・バーンスだ!」


教室につき、設置された椅子に座ると、教師が自己紹介を始める。


「君たちにはこの国の未来を担ってもらう人間になってもらいたいと思う。では、教科書の中の初等部部分、3ページをーー」


「すごいですよコードこれ!魔灯騎士マジックリッターの構造がこんなにも細かく...!」

「ああ、これは凄い...!一般に売られている本どころじゃない、どう作るのか、何故こうなっているのかまで詳細に...!」


「君たち、そこは中等部後半から高等部のページだぞ?」


教科書に載っている過剰なまでの魔灯騎士マジックリッターの情報。それを見て興奮してしまった二人を、教師が現実へ引き戻す。


「あっ、すいません...」

「すみません、余りにも興味深かったもので!」


「君たちがまず学ぶのは魔法基礎!そして君たちには騎士になる為に必要なものが無い!」


騎士になる為に必要なもの?何がひつよーー


「それは学力!協調性!そしてーー」


「ーー身長だ!」


身長?


「「えっ」」





初等部卒業まで、3年。

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