第11話 3年後への約束

 チチチチチチ...


「ゔゔん...」


朝、鳥の声と朝日で目覚める。


(......昨日は夢、見なかったな...)


自身の記憶に関する夢。何故夢と言う形なのかはわからないが、自身がどういう存在なのかーー

それを知れる唯一の手がかりが、その夢だ。


(まあ、見ると気分が下がるからあんまり見たくない気持ちもあるが...)


なんて一人で考えていると、異変に気づく。


「あれ、ティア?...いない...」


とても朝の弱いティアがいないのだ。

今は感覚的に朝の5時半...だろうか?今までこんなに早くティアが起きた事は無いのだ。


「着替えなきゃ」


いつもより早く着替えを終え、ティアを探す。





リビングなどを探したが見つからない。となると、


「ここかなぁ...」


まだ少し眠い目を擦りながら、「工房」と大きく書かれた扉を開ける。


「あれ、朝早いですね」


いた。ティアが既に着替えを終えて、刻印をしていた。


「いつも抱きついてくるあったかいのが居なかったからね。いつもより早く起きたよ」


「あはは...直そうとはしてるんですけどね〜、寝相...」


雑談もそこそこに、話を聞く。


「んで、どうしたの?こんなに早くから作業して?」


ティアが恥ずかしそうにしながら口を開く。


「実は昨日の結晶の工夫方法に感銘を受けまして...コードが新しい魔法の引き鉄を作るのなら、私は魔法での新しい攻撃方法を考えようかと!」


「それで早起き、したの?」


「はい!」


なんかかわいいな、ティア。


「で、先程完成しまして、ちょうどいいので見ていってください!」


友達の頼みだ、「ちょっと眠いから...」で跳ね除けてはダメだな。


「うん、ぜひ見せてくれ」




練習場へ移動し、少し離れた所で見守る。


「行きますねー?」

「おーう」


こちらへ合図すると、ティアは手に持った剣に半分になった結晶を埋め込む。


(あれはーー)


昨日、俺が見つけた工夫方法だ。半分にすることで刻印出来る面積を実質2倍にする。早速利用しているようだ。


(でもティアの場所から的までは結構離れている。ただ剣からヴォルカを放つだけでは新しい攻撃方法とは言えない。)


「どうする...?」


ティアは剣を振り上げ、引き鉄トリガースペルを叫ぶ!


「ーー炎剣ヴォルカリバー!」


上げた剣を振り下ろすと、空気を焼き切りながら斬撃が的に向けて飛ぶ。


(燃やす、爆発する。それがヴォルカを形作る要素だ。その要素ゆえに火に耐性のある魔物には効果が薄いがーーそこに斬撃、と言う要素が加われば、炎に耐性があろうと切り倒し、斬撃に耐性があろうと燃やし尽くす、万能な攻撃が生まれる!)


ふうーーとティアは息を吐き、安心するように胸を撫で下ろした。


「すごいじゃないか!ティア!」


すっかり目が覚めて、ティアに駆け寄る。


「はい!我ながらすごいものを作れたと今なら言えます!」


だんだんヒートアップしてくる。


「俺たちなら、誰も知らない魔法も作れるかもな!」

「ええ!やってやりましょう!」

「そして最終目標はーー」


「「たちだけの魔灯騎士マジックリッター作る!」」


こうなってしまったら誰にも止められない。


「じゃあ走りましょう!いつものように10キロ3本勝負です!よーいどん!」

「あっ、ずりぃ!」


現在、朝の6時。サンディ・アルカトラ邸に、二人の笑いが響いていくーー





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


この世界に来て、一ヶ月とちょっとが経った。

今日でアルカトラ夫婦も同盟国から帰ってくる。俺はと言うとーーー


「熱いって......」


あいも変わらず、友達ティアの寝相に困らされていた。




ティアを起こし、リビングで待つサンディさんの元へと向かう。


「おお、おはよう。二人とも」


「おはようございます」

「おはようございまふ...」


ティアはまだ眠いらしい。


「午後過ぎぐらいに馬車を呼んであるでな、それで帰るといい。」


サンディさんには何から何まで教えてもらった。「ありがとうございます」と礼をする。




朝ごはんを食べ、工房へ向かう。流石にこの時間にはティアも起きている。


「じゃ、やろうか」

「ええ!」


俺たちは今、サンディさんには内緒で新しい魔法を作っている。最後に自分達のオリジナルの魔法を見せよう、と言うティアからの提案だ。


「...うーん...」


とは言え、オリジナルの魔法なんて背伸びしても、そうやすやすと出来るものではない。

一時間、二時間と過ぎていく。


「む゛〜」


考えても考えても思いつかない。


(俺は、何がしたかった...?)


この世界に来た俺のやりたい事を思い出していく。


ーーー『ティアを守る。』ーーー


「そうか、これだ!」


俺の原点は、守ることだ。ならその原点を、魔法にしてしまえばいい。


「あっ、いいこと思いつきました!」


ティアも見つけたようだ。


原点を忘れないうちに、結晶へ刻印していく。





「なんじゃ?行く前に見せたいものがあるって?」

「「はい!」」

「それじゃ、見てやろうかの...」


練習場へ着く。


「では私から!」


ティアから魔法を見せる。


腰から下げた剣、カリバーに先程完成した半分の結晶を埋め込む。


「では、行きますね!」


その言葉と共に、ティアの足下が青く光ったかと思うと、


「なんじゃと?!」


ティアは、空へと飛んだ。



「よいしょっと」


ふわふわと滞空しながら降りてきて、自慢げに、「ピース!」とアピールする。


「そ、その魔法は...?」


サンディさんが驚愕しながらティアに質問する。


「結晶から取り込んだ魔力マナを、剣から地面、または空中に作用させ高く飛び上がり、滞空する。

名を付けるなら、蒼空スカイブルーとでもしましょう!」


アクショントリガーを使っているから、緊急時にも、移動にも使える。ティアの才能には驚かされる事が多いな。


「じゃあ次は俺ですね」


サンディさんはたじろぎながらも、


「あ、ああ見せてくれ...」


「時間も迫っていることですし、すぐにやります。ティア〜?」

「はい、大丈夫です!」


ティアが、炎剣ヴォルカリバーを準備する。


「まさか!自分に撃たせる気か!?やめなさい!」


サンディさんは止めるがーー


「大丈夫です。俺は、死にませんから」


守り切ってみせるさ。


「ーーヴォル...」


ティアが魔法を放とうとしているのを確認して、両手を前に翳す。


カリバー!!」


燃える斬撃が、コードへ飛び、


バァン!!


爆発音と共に、コードへ直撃する。


「あ、ああ」


サンディは狼狽えているがーー


「大丈夫、生きてますよ〜」


煙の中から、緑色の半透明な丸い壁と共に、コードは現れた。


「さらにーー」


コードは、左の掌を右の拳で叩き、左手から魔力マナで作られた半透明な緑の鎖を生み出し、


「こう使えるッ!」


的へと投げた。鎖の先についた鉤型の刃が、的に完全に突き刺さる。


「ふんっ!」


左腕で思いっきり引っ張ると、的が地面から抜けて、コードの前へと転がった。


「この魔法は二つの形になります。一つ目が碧盾アルカシルト。盾にもなりますし、空中では足場としても使えます。二つ目はハーケン。まあ鎖と鉤ですね。そのまんまです」


「もはや驚き過ぎて物も言えんのう...」


「サンディさん、あなたが教えてくれなければ、俺たちはここまで魔法を知る事が出来ませんでした。一ヶ月間、本当にありがとうございました!」


心からの、感謝。それを伝える。


「老ぼれにゃ刺激的すぎる一ヶ月間じゃったわい。まあ暇はせんかった。また、いつでも来なさい」


「では、「さようなら!」」


待たせてしまった馬車に急いで乗り込む。ここでは、沢山のことを知れた。魔法についても、刻印についても。ここで知れたことを、俺らのしたい事に最大限活かしていこう!







夜。アルカトラ夫婦との再会を喜び合い、皆でご飯を食べた後、ティアと共に森の上空を魔法で飛んでいた。


碧盾アルカシルト、結構慣れるのに大変だな...」

「こっちもです。安定化が必要ですね...」


利用法によっては空を飛べるとはいえ、弱点が無いわけではない。弱点を調べるため、練習の要領で飛んでいる。


ゴウッ!


刹那、強風が吹く。


「わっ、うわー!」

「ティア!」


風に煽られ、ティアが落下する。


「くそっ!」


碧盾アルカシルトで作った足場にハーケンを引っ掛け、ティアが落ちた場所へと降りて行く。




「痛ったぁ...」


運良く、木に落下を止められた。森でなく平野が下にあったらと思うと...考えなければよかった。


「!」


声が聞こえる!こんな時間に木登りする人なんているのか。


声の聞こえる方へ向かう。そこにはーー


「なっ...!?」「えっ...?!」


「?」


マルーン色の髪の女性と、至極色の髪をした男性が大荷物を持って、木に座っていた。





(ここか!)


ティアが落ちたであろう木についた。どこかにいるはずだが.........!


「声...!」


警戒する。だが少し聞こえた声で、警戒を解いた。


「へえーそうなんですね!」


「!...ティアか!」


枝を押し除け、声の方向へ進む。すると...


「げっ、また人かよ?!」「多いねー!」


知らない男女二人組と話す、


「あっ、コード!」


ティアの姿があった。


「無事か?」


駆け寄り、怪我がないか確認する。


「はい!大した怪我はありません」


「良かったー...」


安堵する。


巨大な木の枝に座りながら男女二人組に聞く。


「あなた方は?」


少女の方が先に口を開く。


「私?私はねー...テトラ。テトラ・コーネリアス!10歳でーす。ほらお兄ちゃんも!」


男性の方は「えー...」と少し嫌そうにしながらも話し始める。


「...俺は、ジード・コーネリアス。よろしくな」


「うん、ありがとう。俺はコードって言うんだ。よろしくね」


ジードと、テトラ。見た限りだと、俺たちと年齢は変わらない。なのに何でこんな木の上にいるんだ?

聞いてみよう。


「なあ、何でこんな時間にこんなでかい木の上にいるんだ?」


「それはお互い様だろ?こんな時間に空から落ちてくるやつなんて居ないぞ...」


そりゃそうだ。


「俺たちはー...魔法を試してたら風に煽られてさ、ティアが落ちちゃったからこの木まで降りてきたんだ」


そう言ってティアの方を向く。がーー


「可愛いいぃー!小動物みたーい!」


そこには、ティアに抱きつき、可愛いがるテトラと、


「......むう...」


頬を膨らませ、面倒くさそうにしているティアの姿があった。


「なーにやってんだー!」

「だって可愛いんだもーん!」


怒るジード、それをのらりくらりと躱すテトラ。俺とティアは苦笑いするしかなかった。




「すまねえな...妹が迷惑かけて...」


疲れている。


「んで、俺たちがここにいる理由だが、まあ、家出だな」


「家出?また何で...」


座っているジードと、ティアを抱いているテトラが苦い顔をしながら話し始める。


「うち、コーネリアス家って結構力を持った貴族でさ、格式高いって言うの?そう言う振る舞いをしなきゃ行けないんだ。母親なんか酷くてさ、俺たちの全部を思い通りにしようとするんだよ...!」


だんだん言葉に怒気が孕み始める。


「でも、父さんはいい人だ。俺たちに悩みがあれば時間を気にせず聞いてくれて、自由に生きろって言ってくれたから。でも母さんは俺たちを、父さんをコーネリアス家の力の維持のための道具としか思ってない!...そんな母親が嫌だから、家を出る事にしたんだ」


言い終わり、沈黙が流れる。


「一つ提案をさせてください」


沈黙を破ったのは、ティアだった。


「エルグ騎士学校へ行きませんか?」


ジードが聞く。


「...何で?」


ティアが答える。


「エルグ騎士学校は寮があります。母親と離れたいと言う事なら、寮に住めば良いわけですし...」


二人を見て、ティアが言う。


「新しい友達と一緒に、騎士を目指したいですから!」


テトラが、ティアをさらに力強く抱きしめながら言う。


「行こうよ、お兄ちゃん!」


「テトラ...」


「この家出もバレればきっと連れ戻される。だったらティア達と一緒に正しい方法で家を出ようよ!」


ジードは少し考え、


「...わかった。その話、乗ろう!」

「やったー!」


了承した。テトラも喜んでいる。


「じゃあ約束の証に、この結晶をあげます!」


そう言ってティアが二人に手渡したのは、蒼空スカイブルーが刻印された結晶。


「これ何ー?」


テトラが不思議そうに眺める。


「空を飛べる魔法です。3年後までにこれを完璧に使えるように練習してください!使い方はーー」


(ティア、嬉しそうだ)


嬉しそうにする親友ティアを見ると、自分も少し嬉しくなる。


「コード、少しいいか?」


ジードに話しかけられる。


「ん、何?」


「俺たち、友達って事でいいのか...?」


出来る限りの笑顔で答える。


「うん、友達だよ」


「そうか、ありがとう」


短く礼を言うと、ジードもティアの元へ向かう。



俺は、魔灯騎士マジックリッターを作りたいから騎士学校を目指す。ティアも同様だ。


3年後の試験へ向けて、親友ティアと共にこれから毎日修練を積んでいくだろう。


その先に、見果てぬ深淵が広がろうともーーー







王立エルグ騎士学校の入学試験までーー


後、3年と1日、いや、



後、1日ーーー










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