第10話 偶然、閃き

 「では、教えよう。魔力陣マナサークルの刻印方法を...」


工房に着き、2人で説明を受ける。


「ほれ、これを使いなさい」


サンディさんはそう言うと、小さな半田鏝のような物を投げ渡す。


「これは...?」


ティアが質問する。


「小型化した刻印棒じゃ。不測の事態にも対応できるよう、持ち運べるようにした物よ。本来ならもっと大きい物を使うが......まあお主ら小さいし、そちらの方が使いやすいだろうしの」


小さい、と言う言葉を聞いて、ティアが少しムッとするが、それを無視して話は進む。


「では刻印についてじゃ。魔力陣マナサークルは基本三つの陣にて構成される。その三つの陣はそれぞれが三すくみのように出来ていて、その三すくみをバランス良く設置すると、結晶が魔力マナに作用するようになり、魔法が放たれる、と言うわけじゃ」


サンディさんは続ける。


「例外として、碧炎の戦士が作った記憶用魔力陣マナサークル、まあ通称騎士の魂リッターソウルじゃな、そう言うのもある」


碧炎の戦士...本当になんでも出来る人だったんだな。そりゃ英雄、なんて言われるはずだ。


「で、やり方じゃが、刻印棒の持ち手にエンブレムが三つあるじゃろ?」


言われて、自分の刻印棒を確認する。そこには確かにエンブレムが三つ、出っ張って付いていた。


「それがさっき言った三すくみの三つじゃ。そこ押しながら結晶に棒の先を付ければ、陣が刻印される。あとはやるだけじゃの、材料は持ってきてやるから2人で頑張りなさい!」


「よーし!頑張りましょうね!」

「ああ!」


説明を聞き終わり、早速ティアと作業机に向かう。


(俺だけにしか使えない道具......作ってみせる!)


心の中で気合いを入れて、刻印に挑む。





ーー二時間経過ーー


「...うーん、ダメか...」


壁に当たった。手袋に刻印するとなると、大きさ上仕方なく、結晶を小さくしないといけない。だが、小さくなれば刻印出来る面積も減る。


「どーしたらいいんだろうな〜......」


八方塞がりになり、掌に乗せた結晶をくるくる回しながら考える。


「...ん〜...あっ!」


ツルッ


そんな擬音が聞こえるほど、綺麗に手を滑らせ結晶が落下する。咄嗟に手を伸ばすもーー


パキンッ


結晶は、縦に真っ二つになってしまった。


「大丈夫ですか?何か割れた音がしましたけど...あー...」


音を聞いたティアが、割れた結晶を見て、「やっちゃったなー」と言いたげな顔をする。


「まあ怪我がなくて良かったです!違う結晶、貰ってきますね!」

「うん、ありがとう」


俺は割ってしまった結晶を見て、考える。


(表面にしか刻印出来ないから、結晶の大きさが足りなくなる。でも大きくすると手袋の大きさに収まらない。......?)


閃きが降りてくる。


(この割れた結晶...本来の表面部分と割れた部分に刻印をすれば、表面積が二倍になっているような物。これを使えばーー)


早速作業に入る。


(この技術は、魔灯騎士マジックリッターの作成にも役立てる事が出来るはずだ!)





「ただいま戻りましたー...コード?」


机に突っ伏して、黙々と作業を進めている。

結晶が割れて、やる事は無いはずなのに。


「おかえりー...よし!出来た!」


「えっ!?」


出来た?彼の手元には壊れた結晶しか無いはずなのに?


「なっ、何ができたんですか!?」


彼の元へ駆け寄る。そこにはーー


真っ二つになっていたはずの結晶と、それがくっつけられた手袋だった。





「ほう、もう出来たとな?」

「はい!」


サンディさんの所へ行き、完成品を見てもらう。


「ふむ......実際に使って見せてくれ」

「分かりました!」


俺が考え、俺が作った俺だけにしか上手く使えない道具。見せるのが楽しみだ。




「ふむぅ...」


完成品、と言うから見てみたが、やはり学んで数時間の子供に魔法用具を作らせるのは無理があったか?

あの手袋の平手部分...そこに刻印を済ませた結晶が付けられていたが、引き鉄トリガースペルの刻印が見当たらなかった。アレでは魔法は使えないだろう。


「ティア、あれをどう思う?」


作成を近くで見ていたであろうティアに、質問する。


「...あれを見たら、お爺さまでもびっくりするかもしれませんね」

「む......?」


ティアはそう言うと、黙ってしまう。


(...コードは、言ってしまえばまだ小さい。孫と同じ、7〜8歳ぐらいだ。そんな彼が、儂を驚かす?ティアの言うことでもにわかに信じられん。ティアにそこまで言わせるその発想、見せてもらおう。コード君!)


「行きまーす!」

「ああ!」


コードが合図と共に動き始める。




「はぁー...」


息を吐き集中する。


「ふんッ!」


手袋を付けた右手の掌を、左手の拳で叩く。


拳を離すと、右手に魔力マナが集まり、楕円形の火球を形作る。


「なっ!」


ティアが言った事の意味を、理解する。


「ああ、確かにこれはーー」


コードが右手を的に向けて翳し、


「ーー行け」


火球を放つ。火球は人の掌程の穴を作り、消えた。





「すごいじゃないか!」


サンディさんから称賛の言葉を貰う。


「ありがとうございます」


「で、あれはどうやっとるんじゃ!?」


すごい勢いで質問される。


「は、はい、あれは......」


あれは魔灯騎士マジックリッターにも使われている技術で、アクショントリガー。動きで魔法を起動させる魔力陣マナサークルだ。本来、スペースを取りすぎるため、手持ちの武器には使われないが、ある方法で実用化に成功した。


「何処に刻印されているんじゃ?刻印が見当たらないが...」


サンディさんが不思議そうに手袋を見ながら質問する。


「ああ、それは結晶の内側に刻印しているからなんです。」


「内側とな!?」


だんだんサンディさんがうるさく感じてきた...


「はい、割れた結晶の断面に刻印して、接着してあるんです」


「そうか...流石、我が孫が認めた男じゃ...」


そう言うと、サンディさんは笑顔で、


「飯にしよう。もうそろそろ夜になるからの」

「「はい!」」


ティアと2人で返事をして室内に戻る。




夜は、更けていく。





王立エルグ騎士学校の入学試験までーー


後、3年と32日。



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