第9話 何のための「魔法」

 「久しぶりよの〜我が孫よ!」


「お爺さま...苦しいです...少し...」


ーー孫の前では、魔法の権威といえどこうなってしまうのか...?





二時間ほど馬車に揺られ、少し豪華な家に着いた。ここがーーサンディ・アルカトラ。ティアの祖父であり、フラマヴィル王国における魔法の権威が住む、工房兼、家。


「お爺さまー!」


馬車から降りると、ティアが大声でサンディさんを呼ぶ。見たところ人は居ないようだが......


バゴンッ!


「おお、ティアか!」

「あっ、お爺さま!」


とんでもない音と共にドアが吹き飛び、現れたのは白髪、長髪のお爺さん。言ってしまえば創作でよく見る様な、魔法使いのお爺さんだ。


「あの人がお爺さん?」


ティアに確認を取る。


「はい!あれが私のおじーー」


言いかけて、視界の前からティアが消える。


「なっ...!」

「ゔ〜〜...」


後ろからティアの声が聞こえ、振り返るとそこには、


「久しぶりよの〜我が孫よ!」


「お爺さま...苦しいです...少し...」


ーー孫の前では、魔法の権威といえどこうなってしまうのか...?




「そろそろ離してくださ〜い...」


ティアが面倒くさそうに伝える。


「おお、すまんすまん。つい嬉しくなってしもうてな」


サンディさんはティアを離すとこちらに目をやる。


「さて、君がコード君か。」


失礼の無いよう気をつけながら答える。


「はい。ご迷惑をお掛けします、サンディ・アルカトラさん」

「ふふ、そんなに礼儀良くせんでもええよ」


なんだか、権威だからと言う堅苦しさは無いな...


「お爺さま、着いて早々ですが見てほしい物があるのです」


ティアが話す。


「ん、魔法か?」


「はい。コードの魔法の使い方が、少し特殊でして、お爺さまに見てもらいたいのです」


「ほう...」


サンディさんが視線をティアから俺へ戻す。


「ではあちらへ行こうか。練習場があるからそこで見させてもらうわい」


そう言うと、サンディさんは家の裏へ向けて歩き出した。それに俺たち2人はついて行く。



「さあ着いた、では早速見せておくれ」


その言葉にこくり、と頷き、ティアから結晶を受け取る。

ここ数日間、練習をして分かったのは、威力は手持ちで撃とうと杖付きで撃とうと、常人が使う魔法の威力の70%ほど。ただし、手持ちであれば連射ができるので、プラスマイナス0、と言ったところだろう。


「む...?」


結晶を手に持ち、集中する。

引き鉄トリガースペルを唱えーー


「ーーヴォルカ


ーー放つ!


「ほうーー!」


放った魔法は疾く、的に突き刺さるように着弾し、小さく円形の穴を作り出した。


「よし!」


権威の前でミスをしなかった事に安堵し、思わず声が出る。


「見事見事!」


パチパチ、と拍手をしながら、サンディさんが歩いてくる。


「素手での魔法、見事じゃ!この道60年だが、素手で無事な奴は初めて見たわい!」


「初めて見た、と言うことは何故素手で魔法を使い、体が無事なのかは分からないと言うことですか?お爺さま!」


ティアが聞く。


「ああそうじゃよ。素手でやろうとする奴なんて腕を壊そうとしてるのしかおらんかったからのう」

「にしても、興味深い...」


研究者の目になり始めたサンディさんに、もう一つだけ聞く。


「サンディさん、ここって結晶への刻印は出来るんですか?」

「おー...おう、出来るぞ?なんだ?その結晶に不備でもあったか?」


「いえ、実は...」


以前ティアにも話した、手からでないと安定して魔法を放てない、と言う俺の弱点を克服するためのアイデアを伝える。


「ほう......《魔力陣マナサークルを刻印した手袋》か。いい発想ではあるな。手に持つ物である結晶を、身につける物である手袋と一緒にする事で、杖と違い手に物を持たないからある程度自由な行動に繋げられる。欠点を強みへと変化させる考えじゃな?」

「はい、その通りです」 


弱点を強みへと変化させる。そのための道具だ。サンディさんが作成を了承してくれるといいのだが...


「...わかった、考えておこう。だがまずはーー」


ぐうう〜、とはらの音が鳴る。サンディさんの腹からだ。


「昼飯にしよう。朝から何も食っとらんでな...」


ティアと2人で苦笑いしながら家内に向かうサンディさんへついて行く。





「ーーさて、昼飯も食い終わったところで、コード君」


昼の片付けを終えると、サンディさんが真面目な顔で問うてくる。


「君は魔法を、pに使う?小さな理由でもいい。教えてくれ」


何故、何のために魔法を使うか。


この問いは多分、俺を試す問いだ。なら、馬鹿正直に自分が考えてることを、答えるだけだーー!


「俺は魔法を、ティアを守るために使います。理由は、と聞かれても答えれません」


「ほう、それは何故じゃ?」


「理由など関係無く、守りたいからです。」


「......」


暫しの沈黙が流れる。


「...わかった。君は孫を託せる友人だ。作ろうじゃないか、その特別な手袋!」

「「本当ですか!?」」


俺と一緒に、何故かティアも驚く。


「ああ、ティアも何か発想があれば作ってやろう。孫の友人に作って孫本人に作らないのはおかしいからのう!」


「やったー!!」


話を聞いて、ティアがぴょんぴょん飛び跳ねながら喜んでいる。


2人で喜んでいる中、不意にサンディさんの方から「あっ」と言う声が聞こえてきた。


「ど、どうしたんですか?」


恐る恐る聞いてみる。


「ワシ...今、フラマヴィル王国騎士団管轄の魔法用具担当の大臣でな...?個人に魔法用具を作ると......死ぬほど怒られるんじゃワシ...」


「「えっ」」


2人してさっきの熱が冷めていく。


「ぬう...しょうがない!魔力陣マナサークルの刻印の仕方を教える!それで自分達で作ってくれい!」


魔力陣マナサークルの......刻印方法...!やったーー!!」


ティアがさっきの比じゃないくらいに喜んでいる!


「な、なんでそんな喜んでるんだ?!」


聞いてみる。


魔力陣マナサークル魔灯騎士マジックリッターの開発に必須なんです!それを知れると言う事は...」

「俺たちの魔灯騎士マジックリッター開発に近づく!」

「はい!」


興奮してきた。


「なんだかよく分からんが、工房まで付いてきなさい」


さあ、刻印の方法を教えてもらおう!





王立エルグ騎士学校の入学試験までーー


後、3年と32日。


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