第8話 魔灯騎士への想い

 「魔灯騎士マジックリッターの弱点はやはり空中の敵、飛行系の魔物でーー」


ベッドに潜り、数十分が経った。


「うん、うん」


眠い体を心で無理矢理目覚めさせながら、コードは話を上の空で聞く。


(流石に眠いよ...)


勉強に始まり、集中力を使う魔法の実践、合計30キロを全力疾走。終わったらティアより少ないとはいえ鍛錬用の重い剣を使い、素振り100回。もう心も体も休ませたい。


(眠...)


限界を迎え、瞳を閉じーー


「聞いてます〜?」


られなかった。


「わあっ!」


ティアが両手を俺の両頬に添えたかと思うと、顔がティアの顔の前に急に引き寄せられ、


「びっくりした...」


危うく、キス、するとこだった。あぶない。


「聞いてました?」


俺の驚いた様子を気にも溜めず、ティアは質問を続ける。観念し、答える。


「ぼーっとしててあんまり...聞いてなかった」


答えを聞くと、ティアは「むっ」と不満そうな顔をして、


「じゃあもう一回説明しますね?」


と、また話し始める。多分こうなるとティアからは逃げられないだろう。


魔灯騎士マジックリッターを動かすには、大まかな人の動きを刻印した大型の結晶、通称騎士の魂リッターソウル。大気中の魔力マナを集めて溜めるためのタンク。その魔力マナを各駆動部に送り出す、魔物の心臓部で作られた魔灯騎士マジックリッターの核、心炉ハートが必要なんです」


ティアは続ける。


「その中でも心炉ハートはとても重要で、強力な魔物の心臓から作られた心炉ハート魔力マナの吸収効率、排出効率がとても高く、一騎当千の力を得るとされています。が、それゆえに扱いが難しく、暴走によって大破した試験機もあったため、騎士の方は使用は避けている様です」


「質問なんだけどさ」


目が覚めて、冴えてきた頭で考えたことを質問する。


「戦ってて、魔灯騎士マジックリッターを動かせる魔力マナが無くなったらどうなるんだ?」


ティアは言いにくそうにしながら、


「...魔灯騎士マジックリッターは機能を停止、動かなくなります。が起きたのが戦いの最中なら、きっと生きては帰れないでしょう...」


その話を聞いて、少し考え、聞く。


「...ティア、君は魔灯騎士マジックリッターが好きなんだろ?この現象をどう思う?」


ティアも少し考え、話す。


「...好ましくない現象です。魔灯騎士マジックリッターは魔物に襲われる人だけでなく、その人たちのために戦う騎士を守るための物です」


どうやら彼にもこの現象は好ましくないらしい。それならばーー


「それじゃあさ、作ろうよ!が起こらない機体を!」


ティアはキョトンとしている。


「でも、機能停止が起きない機体なんて、作れた人は誰もーー」

「今まで誰も作れなかったから作れない、じゃない。い。今まで誰も作れなかったから作るんだ!」


少し暗くなっていたティアの目に、だんだんキラキラ「」の光が灯っていく。


「そう...ですね。そうです!ないなら作りましょう!2人で!」


熱くなってきた!


「それに俺は、俺にしか使えない俺のための魔灯騎士マジックリッターも作りたい!」


「私も作りたいです!」


「じゃあどんなのにするか考えよう!まずはーー」


夜はまだ、始まったばかりーー





「ーー!ーー!」


遠くから、声が聞こえてくる。


(また、夢かな)


また夢を通して、自分の知らない自分コードを見るのかな、とふわふわとした頭で考える。だがーー


『おい、ーー!起きろよ、ーー!』

『あ、あああ...』


そこで見たのは、


(ーー!!)


俺をこの世界へ送り出した人、おじさんの多分、大切な人。それと、その人を殺して狼狽える、コードだった。


『死ぬなよ!死なないでくれ...!やっと会えたのに...!』


おじさんが大切な人を抱き支え、コードが刺したであろう刺し傷から出る血を止めようとする。が、血は無常にも止まらない。


『違、違うん、です。そ、その人はーー』

『黙ってろ!!!』


何か言おうとするが、おじさんに遮られる。


その後もおじさんは、その人に対して手の限りを尽くしたが実らず、命が、消えた。


その様子を見て立ち尽くすコードに、おじさんは震える声で言う。


『どこかへ...今はどこかへ行ってくれ。そうしないと俺はーー』


震えながら振り向いたおじさんの目にはーー


『お前を、殺しちまう...!』


怒りと憎悪が、灯っていた。




ーーはっ、と目が覚める。


朝日が俺を照らす。


昨日の様に、寝相が悪すぎて俺の上に乗ってくるティアをどかしながら、つぶやく。


「俺はーー」


「彼の、何なんだろう」




タオルで汗を拭き、着替える。不意に机に目をやると、


『《ティア》1:火力!2:頑丈!3:空を飛ぶ!』

『《コード》1:速さ2:守る力3:飛行』


と、書いてある紙が置いてあった。昨日2人で考えた、自分専用機に付けたいものリストだ。


(...?守る力?曖昧だなあ昨日の俺)


昨夜はテンションが上がりすぎた様で、少し記憶が飛んでしまっている。何をもって守る力とするのかが分からないが、まあそのうち思い出すだろう。


「ティアー?起きろ〜」


着替えを終え、ティアを起こす。また、鍛錬の1日が始まる。




「では、行ってくるよ」


「はい!行ってらっしゃいませ、お父様!」


ーー数日が経ち、今日はエンキさん達が同盟国へ旅立つ日だ。


「コード君も、息子を頼むよ」

「お願いしますね」


エンキさん、スピラ夫人から、ティアを託される。


「はい、お二方もお元気で!」


2人が馬車に乗り込み、進み始める。その2人が見えなくなるまで、ティアと手を振って送り出した。


「では、迎えが来るまで待ちましょうか!」


なんて、ティアと話しながら少し待つと、迎えの馬車がくる。

馬が鳴きながら止まり、中から召使いの様な人が出てきて言う。


「ティア様、コードさんですね?我が主人サンディ・アルカトラから迎えに行くように命じられました。さあ、お乗りください。」


「「ありがとうございます!」」


2人で使いの人に礼を言い、乗り込む。


「凄いな、馬車なんて初めて乗ったよ...」


初めて乗る乗り物につい気分が上がってしまう。


「結構揺れますから、慣れてくださいね?」


と、ティアが言うと、馬車が進み始める。なるほど、これは......かなり揺れる。慣れるまで大変そうだ。


馬車に揺られながら、この国の魔法の権威であるティアのお爺さま、サンディ・アルカトラさんに会いに行く。


「あ、ちゃんと魔灯騎士マジックリッターに関する本、持ってきましたよ!暇な時間は語り合いましょう!」


魔灯騎士マジックリッターが好きすぎる、友達ティアと共に。




王立エルグ騎士学校の入学試験までーー


後、3年と32日。




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