第7話 いわゆる、「特異体質」

「本当、ごめんな、心配させて」


休憩に入ってすぐ、コードが謝る。さっきはつい怒ってしまったが、何故杖から結晶を外したのか、素手で魔法を使おうと思ったのか理由を聞く。


「なんで結晶を外そうと思ったんですか?」


彼はばつが悪そうな顔で言った。


「魔法が上手く行かなくて、何でだろうって疲れた頭で考えたんだ。俺のせい?...そうは思いたくなかった。じゃあ結晶?でも結晶はティアの使った物とほとんど同じだ。じゃあ杖だろって思って、結晶を杖から外して、魔法を撃とうとしたんだ」


とても利口とは言えない方法だ。


「とにかく、結晶を杖から外して、引き鉄トリガースペルを言う、なんて事はもうしないでくださいね」

と、念を押す。すると、


「うん、分かったよ。そうする」

と少し萎んでコードは言った。


そう言えばーー

「怪我とかしなかったんですか?指」

気になった。引き鉄トリガースペルを言った瞬間、結晶からは凄まじい熱エネルギーが発生する。そのエネルギーは少し離れていれば問題ないが、近距離では火傷どころが皮膚が爛れてしまう。直接触れれば焼け焦げるだろう。それがあるから杖の先に結晶を付けたり、剣先に付けたりするのだ。そんなエネルギーを素手で放っていれば無事ではーー


「しなかったよ?」「...え?」

コードは続ける。

「むしろ少し心地よかった程度だし」


「そう...ですか〜」

腑抜けた笑いが出てしまう。空から落ちてきたは、こちらの常識はあまり通用しないらしい。



「次は何をやるんだ?」

休憩を終えて、歩き出したティアの背を追いながら聞く。


「体力作りです」


と言うと、軽く体を動かしながら話す。


「10kmを3回走って、その後に剣を使って素振りをします。」


10km、まあまあ長かった気がするな...、なんて考えていると、


「素振りは100回ですよ。10km3回で負け越した方が素振り150回に増えます!」


と言って早速走り始めてしまった。


「うそだろ...」

急いで走り始める。「待てェ!」なんて言いながら。




一回目は負けて、二回目で勝った。この三回目が勝負!


「はっ...!はっ...!」


残り1キロ、ティアを追う。森の中で、足場が悪い。


残り500、少し離された。ここから逆転するにはどうする...?


(森...!地の利を、活かす!)


至る所に生える木を蹴り、加速し、速度を伸ばす。


「?...!?そんな!」


ティアの驚く顔が見える。どうだ、驚いただろ。


残り100、ティアの隣に追いつき、ゴールとして立ててある木の棒が見える。


「「うおぉぉぉぉ!!」」


5m、3m、1mと近づきーー


ガッ、という音と共に、木の棒が地面から離れる。


木の棒勝利を手にしたのはーー


「よっし!!」


コードだった。




「負けたーーー!」「あはは...」


(ティア、負けず嫌いなんだな)


なんて事を考えながら、先に素振りを引き上げる。


(魔法の件、どうするかな...)


目下の課題は魔法のことだ。杖があると威力が弱まる。結晶をそのまま使うと危険だという話。


(でもティアが言うような危険性は感じられなかった...)


「ねえティア?」


剣を振りながら、ティアは答える。


「ん?なんですか?」

「結晶をそのまま、引き鉄トリガースペルを起動させるとどんな危険があるの?」


剣を一度置き、ティアは話を始める。


「まず引き鉄トリガースペルを起動させると、結晶に周囲の魔力マナが集中します。すると、結晶はエネルギーを帯び、近付かなければ問題はないですが、近づけば皮膚が爛れ、直接触れれば焼け焦げる、とされています。」


そうなのか、と危険性を理解する。だがーー


「それでも俺は無事だよ?」「そうなんですよね...」


少し考える。杖が使い物にならず、手から魔法を放つしかないのなら、常に手に結晶を持つのはいくらなんでも、だ。


「うーん......!」


思いついた。魔力陣マナサークルを刻印した結晶を持つのが大変なら、丈夫な革手袋にでも魔力陣マナサークルを刻印して、手につけたらいいのでは?


「ティア!いい考えが出来た!」「?」


早速、ティアに伝える。




「...たしかに。コードの、杖を使って魔法を撃てない、という弱点を補うのにその方法は適しています...!」

「だろ!...でも魔力陣マナサークルの刻印ってそんな気軽に出来ないよな...」


また考えが止まってしまう。

「できますよ?」

「本当?」


驚いてすぐに聞き返す。


「2日後にお父様とお母様が同盟国へ向かわれるのですけど、その際に父方のお爺さまへ預けられるんです。多分、コードと一緒に。」


確かに言っていた。妻と同盟国に行くって!


「なあ、お爺さまってどんな方なんだ?」


ティアが自信を持ってできる、と言うぐらい魔法のことを知る人物。いずれ会うとは言え気になって聞いてみる。


「フラマヴィル王国内にいる魔法研究者、その権威です。...よし、素振り終わり!」

「ええー...」


一体ティアの家族はどうなっているんだろうか。いつのまにか再開していた素振りを終え、お爺さまに会うことを楽しみにしながら、俺たちは家に帰った。




家に帰り、風呂に入りご飯を食べ、ベッドに入るーー

その前に、


「さあ、語りましょう!!」


魔灯騎士マジックリッターの本を持つ、寝させない気の悪魔ティアが待ち構えていたーー





王立エルグ騎士学校の入学試験までーー


後、3年と34日。






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