第6話 学びと修練

 「う、んーー」


朝日に照らされ、目が覚めた。

(あれ、肩ーー)

先日トカゲ、いやか。それに噛まれた傷を見ると、


「治ってる...」


完全、と言うわけじゃ無いが、軽く動かして痛みを感じない程度には治っていた。

はてなが頭に浮かぶ。先日、ティアと話している時にも、落ち着いてきたとはいえそれなりに痛かったはずなのだが...

ふと、足に重みを感じて、足側の布団を剥がす。すると...


「すぅ...すぅ...」


枕を吹っ飛ばして、俺の足を抱き枕にする様にして寝ている、ティアの姿があった。


「すごいな...」


寝相が悪すぎる!俺も動けないし、とりあえず起こさなくては。


「起きろー、おーい」


呼びかけてみる。


「...んぅ...」


あ、起きた。とんでもなく不機嫌な顔だけど。


「...おはようございまふ...」「おはよう」


不機嫌そうだが、俺の足から離れて、お互いに挨拶をする。


「じゃあ、着替えましょうか...」「ああ」 


スピラ夫人が置いてくれたのだろうか、ちょうど扉の前に置いてあった服にお互い着替え、リビングへ向かう。


「やあ、おはよう」


リビングにはエンキさんが、椅子に座って待っていた。エンキさんは笑顔で質問する。


「傷はどうだい?コード君」


どうやら昨日噛まれた所を心配してくれているようだ。

「はい。朝起きたらもう痛みはなくなっていて、動かすのにも問題ありません」


それを聞いたエンキさんは少し驚いた顔をしたが、すぐに笑顔に戻り、


「そうか、それなら良いんだ」


と、優しげに言った。


「ご飯、出来ていますよ。椅子に座って食べなさい」


とスピラ夫人に言われて、二人で座って朝食を食べる。




日が頭上と昇ってきた頃、外でスピラ夫人による魔法の授業が始まった。


「まず、この大陸には魔法の種類が、大きく分けて三つあります。まず西方にある私たちの国、フラマヴィル王国は炎を。同盟国である南東のディルガ王国では風を。東方にあるファルカベス公国では氷を、それぞれの国の祖先から託された、と言われています。まぁ託されたとはいえ、炎の魔法しか使えない、などと言うことはありませんが」


まず歴史から淡々と教えられる。


「すみません」「はい、何ですか?」


教師と生徒のように質問する。


「炎はともかく、氷と風って...あまり魔物に対して有効に思えないのですが...」


スピラ夫人は「ふふっ」っと笑いながら答える。


「あくまで当時の魔法は人が生きるために作られた物。何かを攻撃する使い方は考えられていなかったのです。それにーー」


続ける。


「魔物が現れたのは、魔法が生まれた数年後でしたから。ちなみに氷の魔法も風の魔法も戦えないわけではありませんよ?氷はその鋭さを生かした貫通する攻撃として、風は敵を下から吹き上げ、叩き落す攻撃として使えますから。」


そしてスピラ夫人は思い立ったように、


「では、座学もそこそこに実際に見せて教えていきましょうか。ティア、お手本をお願いしますね?」


と、ティアに言う。ティアも、


「はい!見ててくださいね!」


と乗り気だ。


「じゃあまず、杖に魔力陣マナサークルを刻印した結晶を装着します。」


杖に結晶が嵌め込まれ、杖がほのかに赤く光る。


「そして、魔力陣マナサークルに設定した、魔力マナを力に変換するための言葉、引き鉄トリガースペルを言えば...」


ティアの持つ杖の周りに、赤い光が集まって行く。


「ーーヴォルカ!!」


そしてティアが叫ぶと同時に火球が打ち出され、的である木が抉れる。


「どうですか?これが魔法です!」


ティアが楽しそうに跳ねながら隣にくる。


「ああ、凄かった...!」


感動した旨を伝えるとティアは「そうでしょうそうでしょう!」と嬉しそうにしている。


「では一緒にやってみましょう!」「ああ、俺もやってみるよ!」


と言い、スピラ夫人から杖と結晶を貰う。




「えっと、杖に結晶を装着...引き鉄トリガースペルを...」


少しづつ手順を言葉に出して反芻しながら進めて行く。


「...ヴォルカ!」


先程のティアの様に叫ぶ。がーー

ポスン...と言う音とともに小さな火球が目の前に落ち、唖然した。


「だ、大丈夫ですよ、もう一度行きましょう!」


とティアに励まされ、5回目、10回目と回数を重ねるが、出るのはポスン...と言う音だけ。


「何ですかこれ...」


と、2人の方を見るも、2人とも「信じられない...」といった顔をしている。俺も信じられない。

上手く行かなすぎて少し、苛ついてきた。


「クッソ...!」11回目、失敗。


「大丈夫ですか?一度休みましょう?」


ティアが言う。


「じゃあ次...次で最後にする...」


ダメだった所を考える。俺が違う世界の人だから?違う。きっと違う。この結晶?違う。ティアが使っていた物と大体同じだった。だったら...


「ふんっ!」杖か。


杖から結晶を外し、手に持つ。そして、引き鉄トリガースペル叫ぶ引く


「ーーヴォルカ!!」


叫ぶと同時に、的に炎が着弾し、抉り、灰にした。


「...」


少し呆然としてーー

「...やった!!」

喜ぶ。が、


「何て危ないことしてるんですか!?」


次の瞬間、ティアの怒号が飛ぶ。


「杖は制御装置なんです!から外して使おうとするなんて、自爆しようとしてるのと同じですよ!?」「ご、ごめん...」


謝ることしかできない...


「ティア、今回は無事だったのですから、そこまでにしてあげましょう。」


スピラ夫人がティアを諌める。


「分かりました、お母様...」


ティアがもう一度こちらを見て、言う。


「今回は大丈夫でしたけど、もうしないでくださいね。友達として心配してるんですから...」


「...ああ、わかった。」

心配をかけた事は確かだ。今度からはやらないようにしなくてはいけない。


「2人とも、そんな顔してないで、休憩にしましょう?」

休憩中、どうやったら安定して魔法を使えるようになるか、を考えよう。ティアに心配かけないようにーー




王立エルグ騎士学校の入学試験までーー


後、3年と34日。


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