第3話 邂逅

暗闇の中。


ふわふわとした意識の中に、自分の知らないの記憶が、俯瞰の視点で流れてくる。


『お前のせいで!お前がいるから!』


あの少女の胸ぐらを掴んで叫んでいるのは...俺か?


『お前が求めなければこんな...!』


少女の胸ぐらを掴みながら叫ぼうとした俺の知らない俺に、背後から注射針が突き刺さる。


それと同時に、


『うるさいわ』『黙って受け入れれば良いものを...』


不快な男女二人組の声が聞こえ、俺が倒れる。


『あがっ...!』


俺は怒りの目を向けている。 対して━━


『仕方ないだろう?』


『貴方もなんだから』


あまりにも冷徹に、二人組は言い捨てる。


『『おやすみ、我らの子...』』


その言葉と同時に、視界また闇に包まれた。




暖炉で木が燃える様な音が聞こえ、意識を取り戻す。


━━なんだか暖かい...

久しぶりの暖かさを肌に受けて、意識を失っていた体を覚醒させる。


「ん...」


重い瞼をどうにか持ち上げると目の前に━━


「!」


白髪の彼がいた。 

それも超至近距離、目と鼻の先に。

 

「うわあぁぁぁぁぁ!!?」


「?!」


俺は彼が目の前にいたことに。

彼は俺が大声を出した事に驚く。


「ーー?」


寝ていた部屋の奥の方から、優しい低い声が近づいてくる。


「ーーー?」


出てきたのは人の良さそうな男女。

夫婦だろうか? なんて考えていると━━


「ー〜ー?」


「ーー!」「ーー〜ー?」


とんでもない質問攻めがきた。言葉は分からないが男性の方と白髪の彼の勢いがすごい...!


「ーーー!」


何か察したのか、白髪の彼が男性の方の質問を止めてくれた。


助かった... とりあえず言葉が分からないことを伝えなければ。


「すいません」


「「?」」


白髪の彼と男性の方が振り向く。


「こ、と、ば、が、わ、か、り、ま、せ、ん」


自身の喉と耳を人差し指でチョンチョンと叩き、顔の前でバツを作る。


俗に言うジェスチャーだ。


言葉が分からずとも、動きはきっと伝わるはず。


(流石にバツは分かるよな...?)


男性の方が何か気づいた様子で、どたどたと部屋の奥の扉を開け、廊下へと走っていく。


(良かった、伝わった!)


つい嬉しくて、頬が緩んでしまう。


少し経って、男性が帰ってきた。


話せないことが伝わったのだろう、手に持っていた物を渡してくれた━━ ん?


「これって...」


緩んだ頬が少し引きつる。


手渡された物は、イヤホンのような物、それと━━


首輪。


エンブレムの付いた、犬が着ける様なタイプの。 白色だ。


(首輪ッ...!)


動揺して、苦い顔が出てしまう。


『着けたら人としての尊厳がなくなってしまうのではないか?』と言う自分と、『着けなきゃどうにもならないぞ!』と言う自分がせめぎ合っている。


どちらに転んでも苦渋の選択だ...


「?」


白髪の彼がまた不思議そうにこちらを見る。


言いたいことはわかる。 早く着けろ、と言いたいのだろう。


でも少し考えさせて欲し━━


「ぐえっ」


瞬間、白髪の彼にイヤホンと首輪を奪われ、飛びかかられる。


そして、それを理解する前に素早い手つきでイヤホンを耳に突っ込まれ、首輪を首に巻かれた。


「これで大丈夫ですね!」


「は...? ...!」


ようやく理解した。と同時に、俺の尊厳は失われた。 



「長い時間寝ていたんですよ?傷の方は大丈夫ですか?」


「えっ、あ、ああ」


急に白髪の彼の言葉がわかるようになり、困惑しながらも、トカゲに噛まれた傷を見る。


「うわ...」


酷い。その一言に尽きる。血は止まっているが、肉はズタズタだ。


「やはり毒の影響で治りが悪いか...」


「あなた、明日にでも、この子を医師のところへ連れて行ってあげましょう」


「ああ」


男性の方が女性の方と話している。


あなた、と言ってる所を見ると、夫婦であっているようだ。


男性の方がこちらを向いて、


「君、名前はなんて言うんだ?」


と質問する。少し間を置き、俺は答える。


「コードです。」「...そうか、コードか。」


男性の方は、少し考えこう言った。


「では我々も名乗ろうか、私の名はエンキ・アルカトラ。 こっちは妻の...」


「スピラ・アルカトラと申します。」


「そして私が、貴方に助けられたティア・アルカトラです!よろしくお願いしますね!」


白髪の彼、ティア・アルカトラから握手を求められる。


その勢いに押されながらも、握手に応じた。


「ああ、うん...よろしく」

「はい!よろしくお願いします!」


こうして、は出会った。


後に、と呼ばれ、

大陸を巻き込む戦いを終わらせる二人の騎士が、今ここに邂逅を果たしたのである━━





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