第4話
半ば無理やり、卒論テーマはタマブラ人になった。ボクは権力に屈した
ただ、院へ行くことにした。ドクターまで行くかはともかく、これじゃ不完全燃焼だもの。
「久々に一緒にフィールドワーク行かない?」
やけくそ気味にタマブラ遺跡を巡っていたある日。ウミさんに誘われた。
ウンデス遺跡は臭くて、好きじゃないんだけど、久々にウンブリ人のことを考えられるのが嬉しくて、ボクは誘いに飛びついた。
「進捗はどう?」
移動中。揺れる車内で彼女が尋ねる。
「…一応、今ある史料には全部目を通したと思う。
でも、まだ具体的には決まらないよ…。今からでも、ウンブリ人に変えちゃダメ?」
久々にふたりっきりということもあって、少し甘えるように言ってみる。できることなら好きなテーマで書きたい。
「ふふふ、駄目でーす!」
黒く日焼けした目許にシュッと優しげなしわが浮かぶ。無邪気な笑顔は三十代後半とは思えない。
「それに今の時点でそれだけ下調べができていればバッチリだよ。…大丈夫…心配ない」
なんだか彼女らしくない。まるで自分に言い聞かせているようで…。
窓の外を流れる緑が少なくなってきた。今日の遺跡は、森林から離れた荒れ地にある。
何となく、砂地の中にまばらに生える緑を目で追う。視線を感じて振り向くと、ウミさんがじっとこちらを見ていた。それは優しくて、寂しげで…。
「―――。―――。」
目的地に着いてしまった。
一瞬、哀しそうな顔をした彼女は瞬きすると、にっこり笑って立ち上がる。
「ここから、ちょっと歩くからね。
……足元気をつけて」
…何か固形物を飲み込んだみたいな声だった。
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ウンデス遺跡付近は、湿地と岩場が入り交じっていて、歩きにくい。
だけど、匂いがつくのが嫌なので、車から降りてすぐにスーツを来た。余計に歩きにくいけど、少しでも匂いがつかないように。もし転んでもスーツを着ていれば、マシだから。…ただ転んだだけなら。
不意にボクは足を滑らせた。
(あーぁ、臭い泥
頭の隅で、ぼんやり考えていると、青褪めたウミさんの顔が見えた。どうして慌てているんだろう。どんどん彼女が遠くになっていく。ぼんやりしているうちに、ボクの身体は湿った冷たい泥の中に、どんどんどんどん沈んでいった。
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