ウミの章

第3話

「えっ!ウンブリ人で卒論書こうと思ってたのに!」

「ふふん、アンタには100年早いよ!」


 そう言って白い歯を見せつけながらも、アタシは胸が張り裂けるような思いだった。ミューのことを想えばこそ、今はタマブラ人について知識を深めて欲しかった。


 タマブラ人は、貞操観念が爆散したような民族だ。生殖機能も非常に優秀で、卵を産む鶏の如く、ポンポコ子どもをつくる。反面、陽気で大らかな気質であり、異文化に対しても寛容だった。つまり、彼らは同族間に拘らず、他民族との間にも子孫を遺した。しかも、彼らの気質は遺伝子に植え込まれているかの如く、子孫へと受け継がれる。彼らは穏やかかつ平和的に他民族を侵略していったのだ。


 歴史的な大国はいずれも異文化を取り入れることで強大に成長する。

 しかし、それは異文化への排他性を高めることと隣り合わせであり、衰退のリスクも内包している。


 ただ、フグリス・ヌーブラテス文明はこの排他性が起きることなく、肥大した。アタシは彼らの知能が低かったのではないかと疑っている。

 プライドが低く柔軟な思考を持っていたという説もあるが、胸部に果物を入れたり、股間に果物を入れたりしたという話もあるので、プライドが低いとは考えにくい。

 でも、柔軟な思考を持っていたというのは、同感だ。彼らは創作活動にもけていたようで、様々な作品が遺されている。多様性に満ちたそれは、いずれも現代の価値観からみても面白いものばかりだ。


 とはいえ、享楽的な彼らには長期的な視点が欠けていた。あれほどまで発展したことは、奇跡というほかない。もし、ウンブリ人が侵略行為を行なっていれば、為すすべもなく滅んだことだろう。

 そうなることはなく、二大文明はそれぞれに発展し、氷河の崩壊により、そろって水の底へと消えた。

 アタシは考える。もし、絶え間なく研鑽される科学と多様性が合わさっていれば、何か違う世界があったのではないかと…。

 だから、アタシはあの子を正しく導かなければならない。姉への罪悪感に心を痛めながら…。

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