第2話
「…まさか、ホントにウチに来ちゃうなんてね」
ボクは大学で彼女の研究室に入った。綺麗な叔母さんに誘われたっていうのもあるけど、就職で有利そうだったから。
最近、古代文明の技術を取り入れようという企業が増えているのだ。古代哲学者の言葉を好む経営者も多いし、関連書籍を目にすることも増えた。
「ウチの大学も研究室も、倍率高いハズなのにな!何でそうスルッと入れちゃうかなー!
やっぱり遺伝子が優秀なのかなー」
冗談っぽく笑う彼女。でも、その瞳は何故か寂しそうに見えた。
贔屓にならない程度には可愛がってもらえたし、親戚の集まりでも以前のように接してくれたから、迷惑なのではなかったと思うのだけど…。
研究は楽しかった。
膨大な泥に埋もれ、腐敗が進んでいることが多く、当初は謎に包まれていたウンデス文明。しかし、ウミさんたち専門家の長年の調査により、生活様式から遺伝子配列まで明らかになっている。
何度か同行したけれど、彼らの努力は本当に称賛に値する。ボクはもう遺跡には行きたくない…。
ウンデス遺跡は、どこかで嗅いだような異臭を発する黒い泥沼なのだ。専用のスーツを着ても、染みついた匂いは一週間はとれない。毎度、素っ裸で沼の中に入るウミさんが翌日良い匂いになっているのは、本当に謎だった。
ウンデス人は科学の発展に限らず、行政やインフラ等も機械に運営を任せていたことが分かっている。
そして、
電子上へ意識を接続する技術により、ネットワーク上が生活の場となっていた他、資本主義経済が極小化し、政府から食糧等が供給されていたのだ。
機械に社会を任せるのは問題もありそうだけど、彼らは平和な社会を築いている。全国民の幸福度を最大化するシステムを構築した公正な技術者たちの努力の賜物だろう。
しかし、彼らは袋小路に陥ってしまう。
平和で幸福な世界を手に入れた弊害か、生殖機能を失ったのだ。彼らの遺伝子には性染色体が存在しない。
これについて、元から有性生殖ではなかったという説もある。だが、それにしては個体の多様性が高すぎる。
他の民族の創った人造人間ではないかという説も囁かれた。人工的な人間を使った実験都市だというのだ。だが、それにしては、技術が突出している点や、隔絶されている点、関連史料が全く見つからないことなどから、信憑性が低いとされ、今や都市伝説のように扱われる。
そういうわけで、現在一番有力なのがこの生殖機能を失ったという説だ。また、それにより医学技術の発展に力を入れたらしき痕跡もあり、医学界ではその再現にも力を入れられている。
この二大文明は、氷河崩壊による洪水で滅びたというのが定説だ。でも、それ以前にウンブリ人は種として頭打ちの危機を迎えていたというのが、すごく面白いと思う。
だから、彼らの研究を深めたいのだけど、ウミさんは彼らに興味を持つことにあまり良い顔をしない。
「こっちはアタシに任せて、ミューくんはタマブラをしてよ。えっちな話もいっぱいあるよ!」と、やたらとタマブラ人を勧めてくる。自分がこの分野に引き入れたくせに…。
まぁ、あの臭い嗅がずに済むのは嬉しいんだけど。
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