忘れもしない。あれはアタシがセクシー考古学者だった頃のこと…

おくとりょう

ボクの章

第1話

「ミューくん!おひさ!」

 叔母のウミさんは日焼けした顔で笑った。

 母さんより一回り下の彼女は、ボクとあまり年が離れていない。姉さんって呼んでもいいと思うけど、本人が「ウミさん」と呼んで欲しがるので、そうしている。母さんに聞いたら、童顔を気にしているのだとか。美人なら綺麗系でも可愛い系でも良いと思うんだけど。ただそんなことより…。

「ん?どうしたの?

 顔赤いよ?暑いならミューくんも脱げば?」

 現代日本人の羞恥心は理解して欲しい。

 大人の一糸纏いっしまとわぬ姿は、まだハイティーンのボクには眩しすぎた。異臭のする泥にまみれていても…。


 彼女は古代文明の専門家で、ずっと海外に住んでいる。ウンなんとか文明と、なんとかブラテス文明のぼっ…ぼっk…えっと…何だったかな?

 …とりあえず、その二つの古代文明がなぜ急成長勃興したのかを専門にしているらしい。


「ウンダス文明とフグリス・ヌーブラテス文明は凄く対照的な発展をしているの。


 ウンダス文明を築いたウンブリ人は個々の繋がりが薄く、一部の層の研鑽けんさんによって、技術が発達し、豊かな社会が実現された。周辺諸国との関係も薄かったみたい。大昔の日本の鎖国ほどじゃないけど…。

 別個体との交流が不得手な民族だったから、内部で発展する方法をとったという説が主流ね。母語が他とは全く別系統なことや、大陸から遠く離れた島国だったことなんかも要因にあるかも。


 一方、フグリス・ヌーブラテス文明のタマブラ人は周囲との交流が盛んに行われていた痕跡が見られるわ。同族間は勿論、多民族との交流も活発だったみたい。きっと陽気で自由な気質だったのでしょうね。

 悪く言えば、軽薄で享楽的だったんだけど…。ただそれが排他性の低さとしても表れることで、異民族の文化や技術もどんどん吸収していったの。彼ら自身が能力を磨かなくとも、多様な文化と高い技術力を持つ大国へと成長していった…。


 内部の才能に依存していたウンブリに対し、外部の才能に依存していたタマブラ。足して割れば、ちょうどよかったのにね…。どうして、協力しなかったのかしら。

 どちらも今は断片的な史料しか残っていないから、ほとんどアタシたちの想像なんだけどね。ウンブリは秘密主義で他国に情報を洩らさないようにしていたし、タマブラは政府もちゃらんぽらんで、他国からの客観的な史料しかないから。

 『盆に還らぬ天の川spilt Milky Way over the earth』で地球が一度まるっと全部海になっちゃってるのもあるけどね。…まったく、ウンブリ人は氷河が溶けちゃうことなんて、分かってたでしょうに。


 まぁ、今のアタシに出来るのは、こうやって昔の史料を少しでも掘り出して、今に活かすことくらいよ。

 もし、ミューくんも興味あるなら、ウチの大学においでよ。身内贔屓びいきは一切しないけどね」


 そう言って微笑むウミさんは何だか子どもみたいだった。

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