第10話 ばればれだよ、後輩。
「……とまぁ、これにて終了! お疲れさん、凛花」
「いやほんと疲れたよ、よく頑張ったわ私」
ぽん、と切れた音の合図で、一気に緊張が安堵へと切り替わる。今この瞬間まで撮影されていたこと、先輩を思い出せていたこと、全てが全部夢のようだった。これから世界、とまでは行かなくとも、私の知る原田伊月を伝えることができるだなんて! 本当にそんな機会を作ってくれた新聞部、もとい、満には感謝しかない。
お察しの通り、今までの話は全て新聞部からのインタビュー。答えるのはもちろんのこと、カメラーーと言ってもスマートフォンのだけれどーーを長時間向けられたのも初めて。先輩は何度も経験したことがあったから、こんな所まで先輩に近づけた気がして、何だか嬉しい。
「ずっと話しっぱなしだったから、喉の渇きが限界だわ。飲み物飲んでくる」
満にそう断りを入れて、私は立ち上がった。無駄に正座していたから足が若干痺れている。いたた、と呟きながら、鞄を置いているグランドピアノの前へと向かう。鞄のチャックが開いていたことに違和感を覚えながら、本日発売した抹茶ラテを取り出そうとした。
「あれ、ない。どこにもない」
落としていたのであれば流石に気付く。ということは、盗まれたのだろうか。焦りかけた時、ピアノを覆う布の裾がチラチラと揺れた。意を決して ぴら、とめくる。
「何やってんですか、伊月先輩」
「ふふ……バレちゃいましたね、凛花」
言葉とは裏腹に、先輩は見つかったことが嬉しそうだ。というより、そんなことより、だ。先輩、なんで私の飲み物持ってるの。というかいつから聞いてたの。
「あ、そうそう。私初めからいましたよ。ついでにこれ、美味しいですね、抹茶ラテ。初めて飲みました」
ということは、間接キスじゃないか。じゃなくて、初めからってことは色々聞かれたんじゃないか。
あーもう! 先輩を落とす前に、ずっと振り回されっぱなしだ! 引退しても、卒業しても追いかけてやるんだから、なんて覚悟を決めて、目の前の先輩に笑いかけるのだった。
その様子を背後から撮影されていて、将来、先輩にお酒の席でいじられるってことは、まだ知らないけれど。
先輩、落とさせて。 椿原 @Tubaki_0470
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