第6話 似合わない嘘と、先輩。
珍しく挫折して、泣き喚いてこともあるんだよ、先輩。あんまり言いたくないし、あの時の先輩、荒れてたから。ほんの少しだよ? 出来るだけ小声で、かつ短めに話すから、聞き逃さないでね。
「佐野ちゃ、ん、ごめっ、なさ、」
嗚咽混じりの声が、旧校舎の一室に響いている。これは紛れもなく先輩の声で、ただ私も辛くて。
「らしくない、です。先輩。しんこきゅ、しましょ?」
こんな先輩見たくないけど、見せなきゃ先輩は塞ぎ込んでしまう。それなら、私が慰めてあげれば良いんだ、って。もらい泣きはしないタイプだと思っていたけれど、好きな人の前ではその考えも覆るもんらしい。
先輩の涙には、勝てない。だからこそ、私はこの先輩を独り占めしたい。歪んだ愛、と言われても仕方ないなとは思うけれど。皆んなが見ているのは、格好良くて近付き難い“原田伊月”であって、陰で自分を否定し続ける“先輩”ではない。それがわかっているからこそ、余計にくるものがあって。辛さと無力さは加速するばかり。
その日、と言うより、その頃は先輩曰くスランプってやつだったらしい。今までならさらりと解けていた詰将棋も、覚えきったはずの定石も。全てが頭から抜け落ちてしまったかのように、思い出せず、動けなかったらしい。
私は元々
もう見ることはないと思うけど、あんな先輩見てたら、こっちも気が参っちゃうからさ。泣かせられた、とかだったら許さない! って済むんだけど。こればかりは何も出来ないから、もうないことを祈るしかないんだよね。
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