第2話 強かすぎな、先輩。

 先輩は良く、トロフィーを掲げて帰ってくる。囲碁でも、将棋でも、チェスなんかも。時にはオセロでも持って帰ってきたっけ。いつもなら写真映えする笑顔なんだけど、記念撮影の時の先輩は笑ってない。

 それがまた、好きなんだけどね。


 ……え? いや、全然、惚気なんかじゃないってば。茶化さないでよ、まったく。

 まぁ、これには理由があるんだよ?

 それはさ、ちょっと前に聞いた話なんだけどね。


「先輩って、なんでそんな仏頂面なんです? いつも綺麗な顔してるのに、勿体無いですよ」って、撮影する時に言っちゃって。先輩、怒ってなさそうだけど、目が笑ってなかった。

 この時ほど先輩に恐怖を抱いたことはないよ、うん。

 「写真苦手ですし……それにこういうものって笑うべきなんですかね。祝ってくれるのも、佐野ちゃんだけですし」

「え、ご家族とか、先生や御友人は?」

「あぁ、話してませんか? 周りからは孤高の存在、だなんて言われてるんですよ。誰も近づいてくれません。それに、私が心を許せるのは佐野ちゃんくらいです」

「……ほぇ?」


 ピッ。

 何……? わざわざ録音してたのかって? まぁ、記録だし、録音というか録画というかね。カメラ状態続けてて、ビデオになってたってだけ。狙ってないよ、多分。

 途中で止めたのはそりゃ、自分の情け無い声が入ってたからだよ。恥ずかしいじゃん。私にだって恥じらいはあるからね。


 そうそう、あと、先輩が笑わない理由はもう一つあるよ。……言っていいのかなぁ、これ。ま、いいか。


 「先輩、どしてうちの部活って部員少ないんです?」

ぱちぱち、と鳴っていた碁石が急に

バチン! と音を立てて、折れた。地雷を踏んだかもしれないと悟り、全力で土下座する姿勢を作る。先輩が近づいてきた。

 その姿勢、辞めなさい、と言いたげに先輩が私の背中をぽん、と叩いた。

 「あれです。強豪校が引き抜いた、と言えば分かりやすいですかね。私は拒んだんですけど」

と静かに述べた先輩は自身の持つ扇子をバッと広げた。パタパタと仰ぐ姿がこれ以上似合う女子高校生、はたしているのだろうか。いやいない。

 つい、反語を使った表現をしてしまった。けれど、居ないのは当然のことだと思う。話が逸れてしまった、戻そう。

 「先輩はどうして、引き抜かれなかったんです?」

「理由はごくごく単純なことですよ」

仰ぐ手を止め、広げたままの扇子で口元を隠す。そして、妖美な笑みを浮かべる。

「せっかく強豪校で素晴らしい御指導を受けれるのに、弱小校に残ったままの人に負ける、だなんて可哀想じゃないですか。私、その顔見るまで辞めれないんですよね」

彼女はただただ、笑っていた。


 

 その時の先輩、悪女そのものだったよ。本当、強かな女性って感じがするよね。先輩、というより、女の人が怖いってこういうことを言うんだね。

 まぁ、格好良いし、完璧な人より闇が深い、というか腹黒い所がある方が良いよね。なんか、人間味があるっていうか。

 あ、本当に負かしてたよ、先輩。その時の写真、ほら見て。……良い笑顔でしょ。悪い意味で。でも、心の底から喜んでたって事実はあるから、美しいってもんだよね。

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