第4章 行方5
PM 16:14
東条病院の駐車場に英二が戻って来たと同時に、神木所長と奥さんも合流となった。
これで全てのメンバーが揃った事となる。
一旦、この場所から移動して、近所にあるコンビニへ移動する事にした。神木所長を中心に作戦を考える事にしたが、とにかく居場所を突き止めなければ話は進まない状況。誰もがそう思っていた時、京一のスマホが鳴った。
画面には非通知と表示されている。
「もしもし」裕介は、高まる鼓動と不安を感じながら電話に出た。
「久し振りですね、南雲聡介君のお兄さん」
真尋だった。とにかく冷静さを感じる声だった。その冷静さが怖くもなる。
「京ちゃん達は無事なのか?」少し声を荒げて真尋に問うと、クスクスと笑いながら
「そう慌てないで下さい。二人共今は無事ですから、今は…ね。それよりも、折角こうして話せてるのですから、少し面白いお話をしますね。きっと、あなたも知りたいであろう聡介君の死の真相を」
更に鼓動が高まる。聡介の死の真相…やはり、真尋がやったのか?
「真相とは?お前が、バイクに細工をしたって事か?」
そう言い返すと、真尋は笑い出した。そして、その笑い声は、何とも言えない恐怖でしかなかった。
「バイクのブレーキホースを切ったのは、確かに私だったけど、でも、最終的に事故を起こして死んだのは聡介君でしょ?私は、ただ死んで欲しいなって思っただけ。でも、本当に上手く行くなんて、私は強運の持ち主ね。最愛の姉を失い、彼氏まで失った私は、ずっと悲劇のヒロインを演じたの。それに、聡介君に関しては、私の正体に勘付いたから仕方なかったのよ、大好きだったけど殺しちゃった…」
何も言い返せなかった。俺が思っていた以上に、この女は狂っている。そして、何よりも自分が悪いとさえ思っていない様子だ。
「これが真相よ。じゃあ、少し待っててね」そう言って、スマホから真尋が歩く足音だけが聞こえて来た。そして、少しすると扉が開く音がした。
「京、あなたのお兄さんから電話よ」そう言うと、真尋は京一の耳元にスマホを運んで裕介と会話をさせた。
「裕介さん、ごめん…」間違いなく京ちゃんの声だった。その声を聴けただけで、少し安心した。
「京ちゃん、そこはどこなんだい?」場所を聞こうとしたが、京ちゃんは「解らない、何も見えない」と言う返事だった。
「杏奈ちゃんも一緒か?」そう確認すると、「一緒に居る」とだけ返って来て、また真尋へと通話相手が変わった。
「状況は解って頂けたかしら?今が、16:35だから、22時までにここへ辿り着いて下さいね。あなた達が何人いるか解りませんが、時間が過ぎたら…その時は私達は二人を殺して高崎から離れます」そのまま通話は終了された。
「22時までに探さないと…殺すって…」俺は、恐怖と怒りを感じながら、みんなにに真尋との通話内容を話した。
山下から聞いた情報通りに、日高町の方面で、それなりに大きな建物を探す事とした。神木所長は、パソコンを操作しながらそれなりの建物を探して報告すると言い、奥さんと一度事務所へ戻った。
東千春は、女の子と言うのもあって、英二君が運転するバイクの後ろに乗って探す。
俺と武井は、それぞれ別れて探す。これが今、俺達がやらなければならない居場所探しの作戦。緊張が高まる中、それぞれ移動を始めた。
PM 18:19
神木所長から連絡があった数軒の建物を探し回ったが、成果はなかった。
倉庫や工場など、それなりの規模の場所だったが、どこも稼働されていたり、そこで働く人達が居る為、拉致などされてる気配など感じなかった。
それでも諦めずに俺達は探した。途中、怪しいって建物もあったが、誰か人が居る気配も無いし、車さえ止まっていなかった。
無情にも、時間だけが流れて行った…
PM 20:47
「この場所が怪しい」そう神木所長から地図が送られて来た。その場所とは、地図で見る限り高速道路が通っている真下の道を入って、すぐ脇にある私道の様な細い道を進んだ先にある廃墟と化した工場だった。
何故、ここが怪しいのか…それは、元々は車の修理工場だったらしく、ここなら数台の車を建物内部に隠せるからであり、この建物の所有者を調べた結果、山下が言っていたヤクザの名義になっていたからだ。恐らく、ここで間違いがない。そう、確信した神木所長と奥さんも現地へと向かう事を皆に説明し、この工場付近にあるパチンコ店に集合する事にした。
その頃、京一と杏奈は以前と変わらないまま椅子に縛られていた。
「杏奈、大丈夫か?」何度、聞いた事だろう。その都度、杏奈からの返事は「うん」としか返答は無かった。俺のせいで杏奈まで巻き込んじゃって、自分自身が許せなくなって来たと同時に、真尋や、そこに居る奴等への怒りが増した。
暫くすると、下っ端の男を連れた真尋がやって来た。
「タイムリミットまで残り一時間よ。ちょっとここでお仕置きをしようと思うの」そう言うと、下っ端の男が俺の右腕に煙草を押し当てた。
そして、腹を数発殴られた。痛みに耐えていると、今度は杏奈の後ろに回っていた。
「どうしたの京?怖い顔なんかしちゃって?大丈夫、私も女よ。レイプとかそう言うのは好きじゃないから、そんな事はしないから安心して」真尋がニコっと笑いながら俺を見つめている。そして、次第にその視線が杏奈へ向けられた。
「杏奈ちゃんだっけ?可愛い子ね。もっと可愛くして上げるわ」真尋は、右手に持っていたハサミを男へと渡す。そして、目で合図を送る。
「ヤメテ―――――!!!!!」杏奈の涙混じりの叫び声が部屋中に響き渡る。
「おい!やめろ!」俺も必死に抵抗するが、手足を縛られていて動けない。
いくら暴れても、縄が解ける事がなく、そのまま床へと転がってしまった。それでも諦めずに声を出し続けていたが、男はハサミで杏奈の髪の毛を無残に切り落としてしまった…
杏奈は叫ぶ事も無く、ただ放心状態となり、切り落とされた髪の毛を見ている。
真尋と男が高笑いしている姿を見て、俺の怒りが頂点に達した。
椅子に縛られたまま這いつき回って男の足元へ体当たりをした。
油断していたのか。男はその場で後ろに倒れ込んだ。それを見て真尋が俺の腹を蹴飛ばして来た。痛みなんて感じない。杏奈の心の傷に比べたら痛くも痒くも無い。
全ての感覚が麻痺して来た様子だ。男が落としたハサミの元まで這って行く。その度、真尋から蹴りが飛んで来る。その繰り返しの中、男が持ってたハサミを拾った。
しかし、その瞬間、倒れていた男が起き上がり、俺に何度も蹴りを入れる。
意識が朦朧として来た…しかし、ここで俺が倒れる訳には行かない。
何があっても、絶対に杏奈だけは守らなきゃだから…
その時だった…
部屋の外から大声が聞こえて来た。そして、長髪の男がこの部屋に走って入って来て「姉さん、奴等が場所を嗅ぎ付けて侵入して来ました」と真尋に言う。
その知らせを聞いた真尋は、不気味な笑みを浮かべながら「全員、この部屋に集めて、奴等をここへ誘い出しなさい」俺の頭に足を乗せて長髪に命令をした。
真尋の手下が20人程が、この部屋に集まった。そして、扉の向こうからは、裕介さん、武井さん、英二、東千春が歩いて来た。
「よぉ、京一!調子はどうだ?」特攻服を着た英二が笑いながら聞いて来る。
その英二の姿を見た一人が怯えた様子で後退りし始めて「コ…コイツ『愚蓮』の都丸…都丸英二だ…」と震える声で叫んだ。
長髪がその男に「愚蓮?って、あの愚蓮か?」と問う。
『愚蓮』とは、俺や英二、ハラワタ達で作った暴走族だった。当時は、俺と英二が同じチームに入っていたが、そこが解散すると同時に仲間が集って新たに作ったのだった。盗んだり、先輩から借りたバイクで走ったり、とにかく少人数だったけど、喧嘩では負け無しのチームだった。
その愚蓮の頭が英二。英二の喧嘩の強さは、高崎や近隣でも有名だった。
あの山下のチームとも喧嘩になり、俺達が圧勝したのだった。
まさに、今後退りしたのが山下の後輩だったらしい。
「さて、4人対20人、始めますか?」先陣を切って英二が突っ込んで行く。
俺と杏奈の縄を解こうと、武井さんがやって来た。
英二に負けないくらい強い。
裕介さんも負けまいと戦っている。
「何だ、この女は?」俯いている東千春を見た長髪が言うと、真尋が東千春の姿を捉えて言う。
「あれ?千春ちゃん?やっぱ、あなただったのね、私の部屋に盗聴器を仕掛けたのは…最初は解らなくて、ベラベラ喋ってしまったよ…探偵の娘なんだってね?もっと早く調べて気が付けば良かったなぁ」笑いながら千春を睨み付けている。
「あはは…私はね、お前の正体は最初から気付いてたよ。だからこそ、お前を慕う良い後輩を演じてたの。演じる者同士、どちらが先にボロを出すかなって、個人的に勝負してたけど、お前の負けね」
「私の負けね…それは、ここから無事に出れたら言ってくれる?あんた達、さっさとコイツ等やっちゃいなさい!じゃないと、もうアレは上げないわよ」
アレ…薬の事だろう。
東千春は考えた。真尋も頭の回転が速い女だけど、私だって負けていない。むしろ、私の方が頭も良く、顔も良く、スタイルも良く、性格だって良いんだもん、負ける理由が無いと、自分で自分に言い聞かせた。
考えた結果、今、この瞬間がチャンスかも!そう、判断し「今が作戦の時よ!」と、戦場に居る軍師の様に、東千春は大きな声で、裕介さん、武井さん、英二に指示を送った。
朦朧としていた意識が、やっと戻って来た。
杏奈は、ただ目の前の光景を静かに見てる様子。
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