第3章 二面性 6

その日の授業が終わり、私は夏美とショッピングモールへ出掛けた。

夏美は「この服可愛い」など言って、はしゃいでいたけど、私は何か嫌な予感がずっとしていた為、気になって仕方が無かった。

嫌な予感とは、京ちゃんの今日の姿。

あの髪形と色は、暴走族時代の京ちゃんの姿だったから…

何日か前に京ちゃんと電話で話した時に言われた「杏奈だけは絶対に関わっちゃ駄目だから」って言葉がずっと引っ掛かっている。

何で、私が関わっちゃ駄目?そもそも、あの人とは接点など無いのだから、関わる事なんて無いのに…

もしかして、やっぱ何かあるのかな?怖そうな男の人も一緒に居たし。

でも、これ以上詮索したところで答えなんて出る筈が無いのだから、考えるだけ無駄なんだよねと、自分に言い聞かせる。

今日は水曜日だから、明後日は京ちゃん達と飲みに行く日。

なるべく顔には出さない様にしてるし、自分の気持ちが誰かにバレない様に気を使っているけど、正直すごく楽しみだった。

やっと、また昔みたいに少しずつだけど京ちゃんと話せる様になったし、こうやって飲みに行けるのだから、嬉しくて仕方が無かった。

今更『復縁』なんて都合が良い話だけど…何より京ちゃんには彼女が居る。

だけど、上手く行っていないのか、距離を空けると言っている。

もしかしたら…何て、考えてしまう事もある。


そのまま夏美とショッピングモールで夕飯を済まして、自宅へと戻る。

時計を見ると22時少し前だった。

今夜は京ちゃんバイトだから、あの彼女と一緒なのかなとか、何か例の話したりとかしたのかな?なんて考えてしまう。

どうしても私には解らない事がある。それは、あの日彼女と一緒にいた男だった。京ちゃんには言えなかったけど、その中に一人だけ見覚えのある人物がいたのだった。その人物は、京ちゃんとは因縁があり、大学を自主退学させる程に追い込まれた山下さんらしき人物。

京ちゃんの彼女と知って接近したとは考えられないけど、仮に知ってて接近しているのなら、あの彼女だってただでは済まない筈だと思うけど、そう言う風には見えなかったな。

京ちゃんと付き合っているとか抜きでの関係なら、もし彼氏が京ちゃんだと知ったら?また、京ちゃんにも被害が及ぶのでは?

私は、考えながら何がなんだか解らなくなり、ただ不安な気持ちになった…

どうしよう…やっぱ、山下さんの事を京ちゃんに話すべき?

それとも、まだ本当に山下さんだって確証も無いから様子見るべき?

似ている人って可能性だってあるし、一年前と随分見た目が変わってたから勘違いかも知れないし。

そんな事を考えていたら、一階から母親の呼ぶ声が聞こえた。

「杏奈、お風呂入っちゃって」

その声を聞いて我に返ると、時間は22時半になっていた。


翌日、大学の授業が全て終わり、京ちゃんと夏美、そして細井君に「明日ね」と言って大学を出る。

何かDVDでも借りようかなと思い、京ちゃん家の近所にあるレンタルショップへ寄ると「杏奈ちゃん!」そう声を掛けられた。

目の前には京ちゃんのお姉さんの絵美子さんがDVDを選んでいた。

「絵美子さん、こんにちは」笑顔で挨拶を交わすと、絵美子さんが手にしたDVDを私に見せて来て「これ、見た事ある?」と聞かれたから「はい。割と人気があって、レンタル始った頃に借りましたけど、面白かったですよ」と応えた。

絵美子は手に取ったDVDをカゴに入れる。

私は絵美子さんと会話をしながらお互い借りるDVDを選んだ。

一緒にレジへ並び店を出ると「久し振りに遊びに来ない?」と誘われた。

「京一、バイトでいないからさ」と、付け加えて。

私は頷いて久し振りに京ちゃんの家に行く事にした。ただ、京ちゃんに誘われたのではなく、お姉さんに誘われたから。

付き合っていた当時から、私の事を妹の様に可愛がってくれた。私は一人っ子だったから、本当のお姉さんみたいで嬉しかった。

久し振りに西野建設の駐車場に入ると、そのまま一緒に二階への玄関を上った。

リビングへ案内され、他愛もない話をしていると、ガチャって玄関の音がしたので玄関の方を見ると、作業着姿の裕介さんが帰って来た。

「お邪魔してます」と、挨拶をすると、私の顔を見て裕介さんは一瞬驚いた様に見えたけど、すぐに「こんにちは」と返してくれた。

「ねぇ、杏奈ちゃん。京一とはどうなの?」

やっぱ、こう言う話題になるよな…って思いながら返事を考えて「どうもこうもないですよ」と、当たり障りのない返事をする。

不服そうに絵美子さんは「そっか…」と言って、私の返事に対して残念そうに思えた。

「でも、明日はみんなで飲みに行きますよ」と言うと、絵美子の表情から笑顔が戻った気がした。

「こんな事は言っちゃ駄目だし、決めるのは京一なんだけど、やっぱ私は杏奈ちゃんが良いな。だって、杏奈ちゃん可愛い妹みたいなんだもん」

「嬉しいですけど、復縁とか…そう言うのは無いです。ごめんなさい。でも、私も絵美子さんを昔からお姉ちゃんみたいに思ってますから」

そんな他愛もない話が続く。

夕飯を食べて行く様に絵美子さんに誘われたけど、自宅で母が用意してると説明して「また今度遊びに来ます」とだけ言い残し、西野家を後にした。


借りて来たDVDを見ていると、京ちゃんから電話が掛かって来た。

今日、うちに来てたんだってねって言う内容の。

「ちょうど絵美子さんと会って、その流れでね。ごめんね、勝手にお邪魔しちゃって」と謝ると、「姉ちゃんが誘ったんだから良いよ。それより、何か変な事を言って無かった?」

「変な事って?」そう返すと、京ちゃんは黙り込んでやっと口を開いた。

「いや、何でもない。ただそれだけだから。また明日」と言って電話が切れた。

少しの時間だけど、京ちゃんと電話が出来た事に喜びを感じる。

当時は、当たり前の様に電話をしたり遊んだりしていたのに、今とあの当時は別の世界みたいに思える。

やっぱ、私は京ちゃんが好き。

まだ、京ちゃんの事が好きなままなんだよ…

ずっと前から自分でも自覚していた。

友達の夏美にさえ打ち明けていない。夏美も、京ちゃんとの過去に付いて聞いて来ようとはしないし、私からも京ちゃんの話なんてしない。

たまに思うのは、夏美は言わないだけで気付いてるだろうなって…

その夜、夏美に「ここだけの話、夏美だから言うけど、私は京ちゃんが今でも好き。だから、明日はすごく楽しみ。おやすみ☆」と、メールを送信した。

すぐに夏美から「そんな事は昔から知ってるよ。西野君だって、杏奈の事をまだ思ってるんじゃない?って思う時があるよ☆また明日ね、おやすみ」とすぐに返信があった。

私の事を思う?彼女が居るのに?解らない…ただ、そう夏美から返事が来て嬉しくなったのも事実。

テレビに映っていたDVDの映像が、主人公の男とその彼女が、一度彼女の浮気が原因で別れたのに、復縁する場面になっている。

「何で今、そんな場面なの?羨ましい…」と、画面を見詰めながら溜息を吐いた…


ねぇ、京ちゃん…今、何を考え、何を思っているの?私は…



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る