第3章 二面性 4
ファミレスを後にして、京ちゃん達は武井が宿泊する高崎駅前にあるホテル近くの有名チェーン店の居酒屋へ向かった。
俺は、一度自宅へ戻り聡介の残したノートを持って居酒屋へ向かう事に。
今までずっと自分一人で考え、行動していたからか、胸の内をみんなに話した事で重荷が無くなったからか、気持ち的に楽になった事を実感した。
まだ、やるべき事、考えなければならない事は多いけど、こんなにも頼もしく、良い仲間が出来たのだから、きっと上手く行くと確信さえあった。正直、いつかは京ちゃんが俺に疑心を抱き接触するとは思っていたが、こんなにも早く、そして武井と松原さんも巻き込んで来るとは想像以上の結果となり、驚いたなと。
俺達の共通の目的は『佐々木真琴』の真相と真実を知り、それに対しての償いや、真実の追求。
自宅へ戻ると、絵美子に「あれ?京一は?」と聞かれたから、忘れ物を取りに来ただけで、今度は飲みに行くと伝えた。俺は、部屋の机からノートを取り出すと、すぐに車に戻って居酒屋へと向かった。
居酒屋へ着くと、すでに三人は飲んでいた。
「おい、こっち!」武井に呼ばれて席へ着くと同時に聡介のノートを三人に見せた。
そのノートを見て、松原さんが言った。
「もし、これがただの疑いや憶測じゃなくて真実ならゾッとしますね…」
真剣な表情で俺に言うと、武井も同じ様な事を言った。
ただ、京ちゃんは何も言わずにノートを読んでいる。
一度読み終わっても、また最初から読み返している様子。
すると、ノートを閉じて言った。
「もしも、これが事実だったら俺は許せないし、裕介さんの気持ちも解るよ。だけど、それだけじゃなくて、俺は真琴を止めたい。止めなければ、きっとまた不幸になる人が現れると思うんだよ…」
「私も西野と同じで止めたいです。その為には、ここにいる四人で彼女の心の闇を払って真実を聞かなければ先に進まないんじゃないでしょうか?だからこそ、ここは慎重に普段通りに接して行こうと思います」
俺の隣でうーんっと考えていた武井が言った。
「でもさ、真実を俺達は知らないし、本人には聞けないだろ?」
確かにそうだった。だからと言って、今のこの状況では何も新しい情報など入って来る事が無いのは誰もが思っている事だ。
俺達は、何か良い方法は無いかと話し合ったが、結局のところそんな答えなど出る事はなく、俺達は居酒屋を出て武井をホテルへ送り、それぞれ代行を呼んで自宅へと帰った。
自宅へ戻ると、まだ京ちゃんの代行が来ていない事に気付き、駐車場で待つ事にした。数分後に代行が入って来て、二人で煙草を吸った。
「改めて言うけど、俺のせいで変な風になっちゃってごめん!」
京ちゃんは、夜空を見上げて答えてくれた。
「俺と店長も、真琴に疑心を持っていたから、これで良かったんだよ」
そう言ってくれたから、俺は握手を求め手を差し伸べた。
「これからもよろしく」
京ちゃんも俺の手を握って同じ言葉を返してくれた。煙草を消して一緒に階段を上って玄関へ行くと、絵美子が迎えに来た。
明日は大学もあるし、仕事もあるから早く風呂に入って寝ろと言われ、先に京ちゃんが風呂に入り、続けて俺が入る事に。
俺は湯船の中で聡介の事を懐かしむ様に思い出した…
兄貴、バイトと仕送りでバイク買ったんだ。これ、良いだろ?
俺、ずっと気になっていた同じ学校の子と付き合う事になったんだ。
思い出すのは聡介の笑顔だった。
そう言えば、俺に相談とかする事は全く無かったけど、あの日だけは何か態度が違ったんだよな…
最後に電話で話したのは、聡介が亡くなる二日前だった。
何やら悩んでいる様子だったから「何かあったか?」と聞くと、彼女と上手く行ってなくてさと言って来た。その時は頑張れとしか言えなかったし、まさか、こんな事になるなんて思っていなかったから後悔しか残っていない。
もし、もっと親身になって聞いていれば…
今更そんな事を思っても意味がない事は解っているけど、とにかく後悔しか残っていない。
俺はじっと目の前を見付めて決心した。
『絶対に俺が京ちゃんを守る。そして、アイツとの事に決着を付ける』
湯船を出てリビングへ行くと、京ちゃんがビールを飲みながらテレビを見ていたから、俺は声を掛けた。
「あれ?まだ寝ないの?」
「何だか眠れなくてさ。だから、もう一杯飲んでるんだけど、ちょっと良い?」
そう言われて俺は冷蔵庫からビールを取り出してソファーに座った。
「あのさ、俺も俺なりに真琴と決着を付けるよ。近い内にちゃんと向き合って決着を付けるから、その時までに少しで良いから真相に近付こうよ」
俺は「そうだね」と応えてから続けて言った。
「今はまだ、本人は俺達の疑心にすら気付いていないと思うから、暫くは京ちゃんも松原さんも普段通りに接してくれるかな?それに、きっと向こうは俺の存在すら気付いて無いからさ…」
「解った。じゃあ、俺はそろそろ寝るよ」
そう言い残して京ちゃんは部屋へ戻って行った。俺は、ただ京ちゃんの背中を見て、
『何があっても俺が京ちゃんを守る』と、更に決意を固めた。
残っているビールを一気に飲み干し、俺も寝室へと向かう。
寝室へ着くと、絵美子はまだ起きていた。
「何か、京一とご飯に行ったり飲みに行ったりして私は嬉しいよ」と言われた。
「俺も、仲良くなれて嬉しいよ。やっぱ、一緒に長野に行った事が大きかったね」
絵美子は読んでいたファッション雑誌を閉じ、テーブルへ置く。
そのまま棚から一冊のアルバムを出して見せて来た。
「これが裕ちゃんがうちに来る前の京一だよ」と言って、一枚の写真を見せられた。
俺の知らない京ちゃんだった。
今は髪をお洒落で少し茶色に染めているくらいで不良ぽく見えないけど、写真の京ちゃんは髪をかなり明るい茶色に染めていて、見た目からして不良の様に見えた。
「これが高校の入学式でね。普通、不良って家族とかで写真とか撮らなかったり仲良くないイメージだけど、あの子は違ったの。あの子がグレたのは半分は私の責任だし、だからと言って暴走族に入ろうが、親も私も見捨てたりはしなかった。そんな子が厚生して大学に行って介護士になりたいって言った時は本当に嬉しかったな」
「私の責任って?」
「高校3年の時に付き合ってた男がいてね、そいつがとんでもない悪でさ。そいつに可愛がられてて京一もバイクに興味を持ったり、喧嘩のやり方を習ったり…空手をやってたから、見込みもあったみたいだけど、そのまま自然と暴走族に入っちゃって…それが解散したと同時に、仲間内だけ今度は暴走族を作ってさ。でも、あの子が高校2年になってすぐ、ちょっと事件があって暴走族を解散させたんだよね。その後に、裕ちゃんも何回か会った事ある杏奈ちゃんと付き合って変わったんだよ」
「そうだったんだ。でも、京ちゃんは優しいし、良い子だから。それに、お義父さんもお義母さんも絵美子も居るから京ちゃんは暴走族しようが何をしようが良い子に育ったし更生したんだよ」
絵美子は俺の話を聞き終えると「さぁ、電気消して寝よう」と言って横になった。
俺も絵美子の隣で横になり、穏やかな気持ちで眠った…
何故、穏やかな気持ちかと言うと、今夜、京ちゃん、松原さん、武井と言う共通の仲間が出来たし、こんな俺に対して優しく接してくれる絵美子が隣に居るからだ…
その日、俺は聡介が運転するバイクの後ろに乗って、長野市から高崎へ来る夢を見た。
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