第3章 二面性 2

アイツは、昼前に実家を出て、新幹線で高崎へ戻る。高崎へ到着するなり、すぐに車に乗り換えてどこかへ移動した。私は、アイツに仕込んだGPSを追って距離を空けながら尾行を続けた。

高崎から前橋へと向かい、17号沿いにある大きな中古衣料品や本などを販売するお店へ入って行く。

何でこんな場所に?そう、思いながら、私も後を追い掛けて車を止めた。

アイツが向かった先は衣料品コーナー。

中古の衣料品を手に取り、自分の体に合わせたり、試着室で着替えたりしている姿を見詰めて『アイツらしい服じゃないな』って、思ったけど、その理由が解るのは翌日だったな…

購入商品を決めレジで会計を済ませると、そのまま急ぐかの様に移動をした。

今度は、ウイッグ専門店。

ここでは店内も狭く、お客さんも殆どい当たらなかったから、少し離れた駐車場からアイツが出て来るのを待つ事に。

暫くすると大きな紙袋を持ってアイツは出て来た。

ウイッグ専門店だから、アイツが求めていた商品を買ったのだろう…

そのまま高崎へ戻り、どこにも寄らずに自宅へと帰って行く。

私は、一度自宅へと帰り、常にGPSでアイツの行動を監視した。

そして、21時20分に動きがあり、私は急いで車に乗ってアイツの尾行を再開した。

西野君に会いたいからか?バイト先に車を止め、紙袋を持ってそのまま店内へ。

私は、ただアイツが出て来るのを待つしかなかったが、すぐにアイツは持っていた紙袋を誰かに渡して出て来たな。

あの紙袋は、松本駅で買っていたお土産に違いない。


翌日、アイツのGPSに朝から反応が見られ、私は慌てて準備をしてアイツが向かった先へと急いだ。向かった先は、近所にある内科の入っている病院。

アイツの車のすぐ近くに私も車を止めて、戻るのを待っていると、30分程したら薬が入っているのだろう白い紙袋を持って出て来た。

マスクをし、顔色が悪い様に思えたから、風邪でも引いたのかな?って思ったな。

家に帰ると、大きなカバンを持ちすぐに家を出た。

車には乗らずに、近くにあるバス停から高崎へ向かう。私は、車でバスを追い掛け、このまま終点の高崎駅へ行くと確信して、先回りし駐車場に車を止めてバス降り場が見渡せる場所でアイツが降りるのを待つ事に。

駅構内で、新幹線のチケットを購入する。

行く先は?また、松本?私にはアイツの行動が読めない。いや、きっと誰もがアイツの行動や心理など読めないだろう。

所詮、他人の事など解らない。だけど、アイツの事だけはもっと解らない。

そう、心底思う。

取り敢えず私も新幹線のチケットを一応松本までのを購入し、アイツが乗った車両の隣に乗り、アイツの座った席が見える様に通路側に腰を掛けた。


長野駅でアイツは降りた。

私は、距離を空けたまま尾行をしたが、アイツはトイレに向かう。そして、アイツは、前日に中古店で購入した服に着替えていた。ただ、不自然に思えたのは、スタイルが少し変わっていた事。おそらく、何かの意図があって細工をしたのだろう。

身長を誤魔化す為か、普段では履かないヒールの靴を履いていた。

駅を出て暫く歩き、アイツは洋風なお洒落なカフェに入った。

辺りを見渡すと、何故ここのカフェに入ったのかが解り、カフェの二軒隣にあるコンビニに身を隠し、その時を待った。

『あおぞら小児科クリニック』から、見覚えのある女の人が出て来て、その人の後を追う様にカフェからアイツが出て来たのだった。

あの人は、アイツがこの前一緒に飲んでた友達だとすぐに気付いた。

アイツは友達を尾行し、私がアイツを尾行する。

何とも面白い話だなと思いながら、気付かれない様に後を着けた。

数分後、友達が二階建ての小綺麗なアパートの一階の一番右の部屋に入る。

アイツは少し離れた場所からじっと見ている。

そして、私もその姿を見ている。

『何かの証拠になるかもしれないな』と、思いスマホのカメラを開いて盗聴器が重要な会話を拾うからイヤホンを付け、アイツが動き出すのを待った。

そして、この盗聴器の会話を録音する為に、パソコンで録音を始めた。


遂に動いた…

インターホンを押してアイツは「私は長野市役所の松原と申します。先日よりこちらの地域のアパートの住民様を中心に回らせて頂いているのですが、5分程お時間はよろしいでしょうか?」と嘘を吐き出した。

それに騙された友達は、玄関を開けたと同時にアイツが侵入して激しい物音がイヤホン越しに聞こえて来た。暫く会話は一切なく、ガタガタなど物音だけだった。

私は、やっと変装の意味や、今日の目的が解って来て、アイツの恐ろしさを痛感したと同時に『この証拠をどうしよう』って悩んだんだよな。

イヤホンからアイツの声が聞こえる。何か、友達に囁いている様な独り言だった。

その後、物音だけが聞こえて来る。

数分後には物音さえしなくなると、玄関が開いた。

出て来たのは、ニット帽に薄手のダウンを羽織ったアイツだった。

そのまま辺りを気にもせずに駅へと歩いて行った。

友達の家に入る姿、出て来た姿を写真に収め、見る人が見ればアイツだとすぐに解る様にズームして撮影を行った。そして、アパート全体も撮影しアイツを追い掛け尾行を再開する事に。

すぐに新幹線で高崎へ帰り、タクシーでどこかへ向かったが、私はすぐに尾行が出来ず、駐車場へ急いで向かい、車内でGPSを追い掛けた。

向かった先は自宅。

そして、バイト終了頃を見計らってか、西野君に電話を掛けた。

体調が悪くて飲み物が無いみたいな会話だったが、あんだけ昼間元気良く過ごしてたのに、どんだけ演技すんだよって突っ込んだな。

西野君が飲み物を持って来て、玄関越しで渡すだけ渡して西野君は帰ったな。

何か、アイツに上手く利用されてかわいそうに思えたが、でも演技だって知らないで来てるのだから、彼氏としては当たり前の行動なんだな。

そう思って私は疲れたから家へ帰った。


二日後、自宅で父親が見ていたニュースを一緒に見ていると、この前アイツを尾行して行ったアパートの映像と、その友達の顔写真が映された。

ニュースキャスターが『死亡推定時刻は10月11日夜19時前後』と言ったのを聞いて、アイツの計画の全貌が全て解った。

変装して友達の家に侵入して殺害。

そして、友達の服か事前に用意しといた別の服で家を出る。

この一連の行動は、防犯カメラを回避する為のカモフラージュだったんだなと。

動機はいたってシンプル。真琴と言う存在自体を疑われていたから。

そうなると、アイツの本当の名前は『佐々木真尋』になる。

もし『佐々木真尋』だとしたら、あのお墓の名前と同じになる。本当は死んでしまったのが本物の『佐々木真琴』で、アイツ自身は『佐々木真尋』なんじゃないか?

それなら入れ替わりの辻褄が合う。

私なりにそう推理をした。


西野君が長野へ行った昼。アイツは高崎駅前にいた。

怖そうな男が三人と、アイツ、そして初めて見る女の五人だった。

盗聴器の電池が切れてしまった為、声を聞く事が出来なかったが、とにかく後を着けてみた。そして、以前と同じカラオケボックスに入って行く。

勿論、男が一人外で待機をしていて、誰かを待っている様子。

この前とは違う気弱そうな若い男が待機している男に話し掛け、そのまま中へと一緒に入って行った。

数分して、アイツともう一人の女が先に出て来た。その場で二人は用事が済んだ様に別々にどこかへ歩き出し、アイツは車に乗り自宅へ戻った。

何も無かったかの様に、夕方からバイトへ行き、そして終わると私を自宅へ呼んで嘘の相談を親身になって聞いてくれたな。

親の手伝いをするとか、何とかって嘘を付いてバイトを辞めようか悩んでるって。

本当は全く悩んでないし、お前の尾行やらでバイトに行く暇が無いんだよって、心の中で叫んでいたが、それでも私は困っている良い後輩を演じた。

そして、明後日もまたアイツの家に行くんだよな。

もう少し考えて、明後日またうちに来て話をしようなんて言い出すから仕方なく。

正直、めんどくさいけど仕方がないし、アイツの本性が解って来た今、良い後輩を演じて色々と聞いてみようかな。

いや、この手のタイプは踏み込み過ぎると危険だから、あの友達の二の舞になったら大変だ。

ま、適当に明後日は話せば良いや…

その前に、西野君にこの貴重な写真を添えてプレゼントとして送ろう。

私は封筒に長野で隠し撮りした写真を入れて、近い内投函する準備を進めた。

それにしても、アイツの前で、アイツを慕う後輩を演じるのは疲れるなと、心底思いながら、自分で自分の演技力を自画自賛した。





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