第3章 二面性

東千春


西野君がお兄さんのお手伝いで長野に行っている今の内に、私が出来る事をしておこう…

思考を巡らせ、綿密に練ったこの計画通りに実行して成功すれば、アイツの化けの皮は剥がれて西野君にも上手く伝えられると思う。

特別な感情や興味など西野君には抱いていない。

私が興味を抱いているのは、西野君の彼女であり、バイト先の先輩の『佐々木真琴』ただ一人である。

何故、佐々木真琴に興味を示したかと言えば、きっと父親と母親の遺伝子が私の中で騒いだだけかも知れないけど、本当はそれだけでは無かった。

私が知りたいのはアイツの…佐々木真琴の正体だけ。

時折、一瞬だけ見せるあの冷たくて鋭い視線。

演技じゃないか?と思える仕草や態度と過剰な感情表現。

そして、アイツへの興味から始めた遊び半分の探偵ごっこをする事で見えて来た真実と正体が更に私の興味心に火を付けた。

本当は警察に言った方が良いかも知れないけど、そんな事したら私の楽しみが無くなってしまうし、めんどくさい事に巻き込まれそうで。

『何で、勝手にそんな事をしたんだ?

貴方は素人だから、しゃしゃり出るな』とか…

ま、今でも十分めんどくさい事に自分から首を突っ込んでいるけど、それでも警察よりはマシかなと思うし。

何より、徐々に正体が解るにつれて楽しくさえ思えて来た。

仮病を使ってバイトを休んだり、自分の私生活を犠牲にしてまでアイツの尾行に時間を費やしたり。

私は、アイツの前ではアイツ以上の演技もやった。


そもそも、私がアイツに興味を示したのは、バイトに入った初日からだった。

最初は何とも感じなかったけど、誰も見ていないだろうって場面や、近くに誰も居ないって時に本性が見えてしまったのが切っ掛け。

別に意識なんかしていない。

ただ、一度そう言う二面性を見てしまったら、興味が沸くのが私の昔からの性格。

これも、きっと両親の遺伝子かもなと思うし。


バイトの初日

彼氏がいる、いないの話をしている時、アイツは西野君を彼氏と言って指をさした。

『西野君が彼氏なんですか?カッコ良いから羨ましいです』

お世辞で言ったこの言葉の後、ニコニコしていたけど、目は笑っていなかった。

私の彼氏と知ってて狙ってるの?みたいな風に感じた。

そもそも、アイツの目って何か怖いんだよな。

そのすぐ後に、帰ったお客さんのテーブルをアイツと片付けに行った時、テーブルを拭きながら窓を見ると、鋭い目付きで私を睨んでたな。

私が見ていないと思っていただろうけど、実はよく見ていたんだな。

気が付けば、バイトが終わってから三人で観音山へドライブに連れて行かれたけど、取り敢えず当たり障りのない関係を築こうと思って仕方なく一緒に行った。

本当は、めんどくさかったから、早く家に帰りたかったけど。


その後も良い後輩を演じて上げた。

食事に誘われれば行くし、ドライブに誘われれば行くし。

アイツは大学生と言っていた。私の友達が通っている大学と同じだから、学校での様子や対人関係などを知りたいなと思って確認して貰った。

しかし、アイツは大学に通ってはいない…

全てが噓だった。

それを知った時、更にアイツへの興味が沸いた。

私の家から歩いてすぐの距離だし、とにかく暇な日は朝から近所で張り込みをして、更に尾行もした。

たまに出掛ける日もあったが、これと言って収穫のない日々が続く。

そんなある日、いつもと雰囲気の違う服装で家を出て来た。

気付かれない様に尾行をした。

一定の距離を保って尾行しなければいけないから、はぐれても良い様に、保険として小型のGPSをドライブに誘われた時に車に隠して置いた。

アイツが向かったのは高崎駅。

駅前で見失わない様に見ていると、怪しい男が二人近付いて着た。

その二人は、アイツをどこかへ案内した様にも見えた。

そのまま気付かれない様に尾行。

3分程歩いた先にあるカラオケボックスへと入って行った。

男が一人外で待機。

暫くすると、気弱そうな男がカラオケボックスの前で怪しい男に声を掛け、そのまま二人は店内へ入って行った。

私は向かいのカフェでアイツが出て来るのを見張る様に待った。

30分後、アイツだけが外へ出て来る。

アイツ以外の行動はどうでも良い。私はカフェを出てすぐに後を着けたが、そのまま自分の車に乗って自宅へと戻ったのだ。

その日の夕方17時から私もアイツもバイトが入っていた。

アイツが家を出るであろう10分くらい前まで、家の前で見ていたが、それまでに出て来なかったから先にバイト先へと向かう事に。

その日、バイトに来たアイツは、先程とは違い、普段と何も変わらない服装と雰囲気だったのだ。

きっと、昼間の服装や雰囲気は誰も知らない。それが、アイツの隠し持つ二面性の一部なんだろう。

私は、休憩中にアイツのロッカーをピッキングで鍵を開けて、いつもアイツが持ち歩いている割と人気のあるブランドのカバンに、最新型のGPSと盗聴器を気付かれない様な場所へ仕込んだ。

こんなに小さく、薄いのに、高性能って素晴らしい。

改めて人間の技術力、開発力に感動を覚えた。


とにかく、暇さえあればアイツの家の近所まで盗聴しに向かった。

盗聴器から500メートル程の範囲なら難なく聞こえる最新型を仕込んだから、アイツが家に居る時は、アパートのすぐ近くにある広い駐車場からでもノイズが一切入らず音声は聞こえて来た。

西野君と電話をしている会話。

誰か知らない人と電話をしている会話。

電話以外の日常的な物音や、アイツの独り言まで、私は聞いていたのだ。

その中で興味の沸いた会話があった。どうやら、アイツが実家に帰るみたいな会話を誰かと話している様な。

アイツは一人暮らしだから、実家に帰ると言う事に興味が沸いた。その日は何か収穫も出来て、楽しめると思い、何日かバイトを休むと決意。

案の定、アイツを尾行してアイツの実家を知る事が出来た。

まさか、長野県の松本まで来るとは、想像を越す場所が実家だったけど。

途中で立ち寄ったお墓、買い物として向かったショッピングモール。

遠く離れた場所で、私は全てを見ていた。

そして、時間や場所などを細かくメモに残し、何枚かは写真を撮った。

アイツがお線香と花を添えたお墓も確認したが、『佐々木真尋』と書かれてはいたが、それが誰なのかは、その時はまだ解らなかった。

流石に夜になると寒さが厳しいから、駅前にあったネットカフェで過ごす事に。

持参したノートパソコンでGPSの信号をキャッチしていると、22時28分に動きがあった。そのまま画面を見ていると、駅の方へ移動し始めた。

どうやら、車に乗って移動したのだろう。

GPSの信号が止まったのは、ここから歩いてすぐの場所だった。

そのままインターネットでその付近を調べると、おそらく『鳥大将』と言う居酒屋にいるだろうと確信した。

そのすぐ向かいにはレンタルビデオ屋とファミレスがあり、居酒屋の隣にはビジネスホテルとコンビニもある。

悩んだ結果、私はファミレスへ向かう事にした。

窓際の席をお願いして、居酒屋を見張る様にしてイヤホンを耳に差し込んだ。

賑やかな声が聞こえる。盗聴器は正常に作動してる様だ。

その中に、アイツの声や、アイツを呼ぶ友達だろう声も聞こえて来て、私は何気ない会話でも、全神経を集中させて聞く事にした。

0時34分

「ねぇ、真琴?ちょっと香織も千絵も寝ちゃったから、少し外に出て酔い醒ましに夜風に当たって来ない?」

友達がアイツに声を掛けた。

頼むからカバンを持って行って…そう願った。

私の願った通り、アイツはカバンを持ったまま外へ出てくれた。

そして、気になる会話になった。

「真琴って、本当に真琴なの?二人の事を保育園の時から知っている私は、たまに疑問に思っちゃう事があって…真琴は本当は真琴じゃなくて真尋じゃないかな?って…あの頃みたいに面白半分で入れ替わったままなのかなって…」

「何を急に言うの?私は真琴だよ。正真正銘、佐々木真琴だよ?」

「ごめんごめん、そうだよね、真琴は真琴だよね。少し酔っ払っちゃったかな?ごめんね、こんな事を聞いちゃってさ…。そろそろ中に入ろうか?香織も千絵も起きてるかも知れないしさ…」

この会話を最後に、後は他愛もない話が続いて、それぞれ自宅へ帰って行ったのだ。

私は、居酒屋の隣にあるビジネスホテルに泊まる事に。


真琴じゃなくて真尋?そう言えば、アイツ、昼間にお墓に寄ってたけど、佐々木真尋って書いてあったな。入れ替わりって言ってたけど、もしかして双子だったとか?

私は布団の中で色々と考え始めた。

この友達は、疑っているって事なのかな?

それとも、何かを知っているけど知らない振りなのかな?

そもそも、入れ替わるって可能なの?

どうなの?

解らない…

でも、そっくりな双子なら、一時的に親しい人でも騙す事は可能かも。

そもそも、それは何の為に?

やっぱアイツは何かを隠している。誰にもバレていない様に演じている裏の顔があるって事で間違いはなさそう。

それが何なのか、これから徐々に暴いて行くから楽しみだな。

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