第2章 偽装真実 12

翌日、目覚まし音によって目を覚ます。岡崎家で借りた部屋で着替えを済まし階段を下りてリビングへ向かうと、すでに裕介さんと武井さんが朝食を摂っている。

「おはようございます」と、声を出して挨拶をすると、同じ様に挨拶を返して来てくれた。俺は、そのまま道子に促されるまま新聞を読んでいる貞治の斜め向かいに腰を掛け、朝食とコーヒーを頂いた。

「今日だけど、俺もテラスの作業に入るから。取り敢えず目標は三時までに終わらせるって事で良いかな?じゃないと、帰りが遅くなっちゃうし、お互い明日は仕事に大学だからね」そう言って、裕介さんは武井さんと打ち合わせを始めた。

朝食を摂り終わって、真琴へメールを送った。今日、真琴はランチ前から閉店までバイトになっている。送り終わると、店長から返信があったから、メールを読んで簡単に返信を送った。

いちいちメールで話し合うより、ちゃんと会って話した方がスムーズだし、そっちの方が効率が良く話がまとまる。あくまでもメールは最新情報の交換くらいとしか使っていない。

もう一件、メールが届いていた。杏奈からだった。

内容は、金曜の飲み会についてだった。場所は、昔よく行ったお店で良いかの確認だったから、そこで良いって返信を送り、スマホをポケットにしまって外へ出た。


外へ出ると、冷たい風が頬を突き刺し、昨日よりも気温が低い事を悟った。

吐息は白く、かじかんだ手に軍手をはめて指示を出された通りに作業を始める。

武井さんは外壁を組み立てて、俺は屋根の資材を脚立の上に居る裕介さんへ運ぶ作業内容となっていた。

予定よりもスムーズに作業は進んでいるみたいで、昼食の時には残り3/4のところまで完成していたその時、裕介さんが材料が足りなくなったと言って、ホームセンターへ買い物へ向かった。

俺は、このタイミングが最後のチャンスと思い、武井さんと岡崎夫妻に声を掛けて、連絡先の交換と、もし裕介さんが不信な行動に移したら連絡する旨と、連絡が出来ない場合は事後報告になる旨を手短に説明した。

ホームセンターから15分程で裕介さんが戻って来たから、そのまま作業に入り1時間程するとテラスは完成を迎えた。

完成したテラスを岡崎夫妻が確認すると、俺達にお礼を言って五人で片付けを始めた。

「良いんですよ、俺達だけで片付けますから」と、裕介さんが岡崎夫妻に声を掛けると、

「みんなでやった方が早く終わるし、みんなは疲れてるんだから少しは手伝わせてよ」と道子が笑顔で言う。その横で貞治が頷きながら段ボールを縛っていた。

みんなで協力したからか、片付けは30分もあれば終わった。

そのまま家に入り俺と裕介さんは帰りの支度と着替えをする事にした。

部屋で夫妻から借りた卒業アルバムをカバンの奥へと隠している時、武井さんが急に入って来た。

「京一君、ちょっと良いかな?」

「はい」

何をどうに話そうか悩んでる様な表情で武井さんがやっと声を出して言った。

「アイツの…裕介の事なんだけど…もし、仮にアイツが『手紙』の送り主だったら、高崎に戻ったら何をするか解らないし、その時はすぐに駆け寄れないかもしれないけど、全部を京一君に任せっきりにしたくないから、俺もその時は駆け付けるから無理だけはしないで。正直、アイツは頭も切れるし腕も良いからさ」

「解りました。俺も何かあれば報告の電話します。もし、武井さんに何か連絡とかあったら教えて下さい」

そんな話をしていると、今度は裕介さんが俺の部屋に来た。

「どう?準備は終わった?あれ、武井も居たんだ」

俺と武井さんは、一瞬びっくりしたけど平常心をすぐに取り戻して裕介さんの問い掛けに返事をした。

「何か、京一君が可愛くて可愛くて今度は観光に遊びに来る様に誘ってたんだよ」

「武井さんに昨日、善光寺が良いよって教えて貰ったから、今度彼女と来たら案内してよって頼んだりね」

俺と武井さんが仲良くなった事が嬉しかったらしく、裕介さんが笑顔で

「そっかそっか、二人が仲良くなったなら京ちゃんを誘って正解だったね。武井も高崎に遊びに来いよ、俺の家じゃないけど歓迎するよ」

「あぁ。今度時間を作って行くから、その時は三人で飲みに行こうぜ」

二人のやり取りを聞きながら準備を終わらせてリビングへ向かった。

リビングでは、岡崎夫妻が揃ってソファーに座っている。

「じゃあ、俺等はこれで行きますから、もし不具合があったら連絡して下さい」そう裕介さんが言うと、貞治が笑いながら「不具合が無くても連絡するよ、息子なんだからさ。なぁ、母さん」と、道子に話を振った。

「そうよ、裕介君は岡崎家の息子なんだから、遠慮なくいつでも遊びに来なさいね。その時は、また京一君も絵美子さんも一緒にね」

「ありがとうございます。じゃあ、今度は妻も一緒にお邪魔します」そう言って俺達は挨拶を交わして外へ出て車に乗った。

「裕介、またな」そう言い残して先に武井さんの車が敷地内から出て行き、それに続き裕介さんの運転するハイエースも敷地を後にした。

車が見えなくなるまで外で岡崎夫妻が見送っているのがバックミラー越しに見えた。


帰りの車内では、この二日間の話や、他愛もない会話をしていた。

途中で会話が途切れたりはしたけど、裕介さんと二人で出掛けてたくさん話す事によって、何でこんな優しい人がって思えてしまった。

まだ、真相を暴いた訳じゃ無いから仮説にしか過ぎないが、それでも疑いはこの二日間で深まるばかりだった。

弟の死と、その弟と同じ高校に真琴がいて…

しかも、裕介さんも真琴も地元ではなく高崎に来ていて…

とにかく謎が深まるばかりだったが、その謎に立ち向かう協力者も出来たし、俺は長野に来て良かったと心底そう思えた。

「裕介さん、今度は姉ちゃん誘って長野に行こうよ。また岡崎夫妻とも武井さんとも話がしたいし、善光寺ってとこにも行きたいからさ」

「そうだね。明日から新しい現場が始まるから、落ち着いたら行こうか」と、嬉しそうな表情で裕介さんが応える。

裕介さんの運転するハイエースが高崎インターを下りた。

そのまま自宅への道を走らせると、裕介さんが俺の姉であり、裕介さんの嫁である絵美子に電話を掛けた。

「今、高崎インター下りたから、もうすぐ帰るから」一言だけ話して電話を切ると、「京ちゃん、改めて昨日と今日はありがとね」と言ってくれた。

「あんま役に立てなかったけど、俺も誘ってくれてありがとう。楽しかったよ」

裕介さんは照れ臭そうに表情だった。

自宅へ着くと、裕介さんにそのままリビングに来る様に言われたから、荷物だけ部屋に置いてリビングへと向かった。

リビングには、姉が裕介さんの隣に座っている。

「はい、お疲れ」姉がそう言って封筒を俺に手渡して来た。

中を確認すると、当初の予定では三万円だったのに五万円が入っていた。

「裕介がね、あんたが頑張ったからプラスして上げてって言うから五万円にしたからね。無駄使いしない様に!」

俺は、裕介さんにお礼を言った。

裕介さんは、照れ臭そうに缶ビールを飲み、俺と姉の会話を聞きながら、明日の現場資料を眺めている。

そのまま俺達はリビングで母親が作った料理を食べた。

父親は、久し振りに現場仕事をした俺に向かって、たまには手伝えと言いながら日本酒を浴びる様に飲み続けている。

中学・高校時代は、よく人が足りないとかで無理矢理現場に連れて行かれたなと、思い出しながら、俺も冷蔵庫からビールを持って来て飲んだ。



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