第2章 偽装真実 11

武井さんが話をしてくれ、裕介さんの身近で起きた過去の出来事を知った。

当時、18歳で高校卒業の数日前に裕介さんの弟・南雲聡介がバイク事故で亡くなった。その理由までは詳しくは解らないが、原因はブレーキホースが何者かに切られていたと言う話だ。

切られている事に気付かず、聡介は自宅から何処かへ向かっている途中、カーブを曲がり切れずにガードレールへ突っ込んだらしい。

スピードも出ていて、救急隊が到着した時には既に亡くなっていたと言う事だった。

誰かが意図的にブレーキホースを切った事は警察の調べでハッキリしているのに、その実行犯は未だに不明。

弟の葬儀を済ませた後、何も言わずに高崎へ行きますと言い残し、岡崎家を出て高崎へ引っ越して来た。そのまま親父の会社に就職して姉と出会う。その頃、外で会ったら少し話したりはしたが、当時はただの従業員の一人にすぎなかった。

高3の夏、姉に呼ばれて外に出ると裕介さんが笑顔で待っていた。

裕介さんの横には真紅のFOURがあった。そのFOURを俺にくれると言ったので驚いたが、更に追い打ちを掛ける様に姉とは結婚前提で付き合っていて、来年には籍を入れるから、もう少ししたら一緒にうちで住むと言ったのだった。

これが武井さんから聞いた弟の話と、その直後に高崎へ来て暫くしてからFOURを裕介さんに貰った時の話だ。


一旦、頭の中を整理していると、スマホが鳴った。

真琴からだった。

「ごめんね、充電が切れてて今帰って来て充電したよ。でね、さっき千春ちゃんから

メールが着て、これから相談したい事があるって言うから、近所だしうちに呼んだよ、前に来たいって言ってたしね」いつもと変わらない様子の真琴だった。

「そうなんだ、どうしたのかと思って心配したよ。東さんが来るなら、また適当に落ち着いたら電話するよ。今、作業の段取りの説明を聞いてるからさ」

そう言って電話を切った。

東さんと会うって、確かに二人はたまに遊んだり食事にも行っていて、真琴を慕う良い後輩の一人だった。

「京一君、彼女からの電話だったの?」武井さんに聞かれて頷くと、卒業アルバムの真琴の写真を見ていた。

暫く、裕介さんの話をしながら過ごしていると、武井さんの携帯に裕介さんから電話があった。内容は、作業の進捗状況と、今から戻るけど必要な材料の有無の確認だった。俺は卒業アルバムを借りて自分のカバンにしまった。

そして、その場での会話は終わらせて俺と武井さんは外へ出て作業を再開させる。

20分後、裕介さんの運転するハイエースが庭に入って来た。

「ごめんね。作業はどう?」裕介さんが武井さんに聞くと、武井さんは、煙草に火を付けながら「もう、陽も落ちて来たし今日はここまでが限界かな?」と返す。

時間は16時45分だった。

薄暗い中での作業は危険だし、思った以上に作業は進んでいるから、そのまま片付けをして終わりとなった。

俺は、今日一日の作業で疲れてしまい、すぐにでも寝たい気持ちだったが、裕介さんと武井さんは久し振りに会ったからと言って、近所にある大手居酒屋チェーン店へと向かった。俺も誘われたが、流石に疲れたから断って、気まずいけど岡崎家で夕飯をご馳走になったのだ。


夕飯には、お寿司の出前を頼んでくれた。三人で食べて、すぐに風呂の用意をしてくれて入る事にした。お湯に浸かっていると、余りの疲労感で油断をしたら寝てしまいそうになったから、すぐに風呂から出て岡崎夫妻が用意してくれた部屋でゆっくり過ごす事にした。

部屋へ入って、スマホの確認をする。

珍しく杏奈から着信が入っていたから折り返し電話をした。

「電話なんて珍しいじゃん。どうしたの?」そう言うと、「そうだね、珍しいよね。特に急ぎじゃないんだけど、夏美と話してて、みんなで飲みに行こうって話になったんだけど、来週の金曜って京ちゃんは大丈夫?」

俺は、バイトのシフトを確認しすると、ちょうど休みだったから「大丈夫」と伝えた。夏美って子は、杏奈と仲が良くて一緒に遊んだりしている子だった。俺が杏奈と付き合っていた時に、何回か一緒に飯に行った事もある。

「三人で?」そう聞くと、杏奈は意外にも細井を誘ったらOKだったと教えてくれた。

「じゃあ、その四人だな。取り敢えず今は裕介さんの手伝いで長野だから詳しく決まったら教えてよ」そう言って電話を切ろうとしたら、予期せぬ言葉を耳にした。

「後ね、今日のお昼過ぎに夏美と買い物してて京ちゃんの彼女さんを見たんだけど…何か、その…何て説明したら良いか解らないんだけど…」

杏奈の声は小さく、何か悩んでいる様な感じの声だった。

「良いから言ってみ?」俺は、空白の昼間の謎に迫った気がして話す様に杏奈を促したが、俺に気を遣ってる感じで、なかなか話そうとしない。

1分程の空白が過ぎた頃、やっと杏奈が重たい口を開いた。

「12時20分頃だったと思うんだけど、夏美と駅前でランチしてて、窓際だったからふと外を見たらちょっと怖そうな人達と一緒に歩いてて…」

その時間だと、俺が真琴に電話する少し前だった。真琴は充電が切れてたと言ったが、もし杏奈の言ってる事が本当なら、電源を切っていたって事じゃないか?

そう、思えてしまう。それに、大学の友達とランチと嘘を付いて男と街中を歩いてた?意味が解らない…

「どんな感じだった?」簡単に聞くと、「怖そうな男が三人いて、その後ろに彼女さんと彼女と同じくらいの年の女の人が歩いてて、何か話してたと思うんだよね」

「で、どこへ行ったのかは解らない?」

「うん、でもこの前見た時と雰囲気が違ってた様に思えたけど、多分あの人は絶対に京ちゃんの彼女だと思うんだよね。私、あの人の顔を今でもハッキリ覚えてるもん」

「そっか、解った。ありがと…杏奈にだけは言っておくけど、その彼女とは色々あって距離を空けようかなって思ってるんだけど、詳しくはまだ言えないけど…これだけは言っておく。杏奈は絶対に関わっちゃ駄目だから…」

そう告げると、杏奈は何が何だか解らない様な状態になったと思うが、念入りに何度も伝えた。

「もし、どこかで会ったりしても、話し掛けたりするな。話し掛けられたら忙しいとか適当に言い訳してすぐにその場から離れて連絡をして欲しい。

それと、今日みたいに偶然どこかでで見掛けたりして何か新しい情報があったら、すぐに連絡して教えて欲しい」

そうお願いして電話を切った。電話を切ってすぐに店長へ岡崎夫妻・武井さん・杏奈からの話を簡潔にまとめてメールで報告を送った。

この時間は、まだ営業時間内だから電話なんてしても出ないからだ。


気が付けばうとうと寝てしまったみたいだったが、真琴からの着信で目が覚めた。

「京、寝てた?」昼間と同様に普段と何も変わらない声色だった。

「余りにも肉体労働がキツくて、うとうとしちゃってた…」

「ごめんね、今さっき千春ちゃんが帰ったんだけど、バイト辞めようか悩んでるみたいで…」

「そうなんだ。折角覚えて来たのに勿体ないけど仕方ないよな…」

「一応、引き止めたけど、後は本人が決める事だから口出しは出来ないしね」

東千春に付いて思い出してみた。仕事はテキパキと憶えも良く、明るく要領も良いからすぐにバイト先にも馴染んだし、特に真琴に対しては慕っている様に見える。

ただ、少し病弱だからか休みがちだけど、それ以外は悪い所なんて見当たらない子だ。もし、辞めるとなれば、また一から新人を育てなければならない…

それが問題点。

「また、明後日バイト終わったら家に呼んであるから、何とか引き止める方向で一度は話してみるね。ごめんね、疲れてるのに電話しちゃって」そう真琴が言ってから少し今日やった作業の話をして電話を切った。

真琴も東千春がお気に入りだから、とにかく真剣に彼女の事をバイトに残して置きたいんだろうな。こうして見れば、面倒見の良い優しい彼女なんだけど、裏の顔が少しずつ見えて来ると恐怖でしかなかった…

ぼやけた輪郭がハッキリと浮かんで来始めてる現状、疑いが確信へと変わり、真琴と付き合ってる以上、一度きっちりと真相を暴かなければならないと思う。

裕介さんと真琴の関係もだけど、まずは真琴ではなく裕介さんに問い詰める方が先決だと思った。

その材料を、何とか入所しなければ話は進まない。明日になれば長野を出る。しかし、ここで心強い協力者も出来た。

俺と店長夫妻の三人だった一つのチームも、更に三人追加されたから、念入りに作戦を立てて裕介さんから真相を聞き出すしかない。

そんな事を考えながら気が付けば深い眠りへと落ちていた…


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