第2章 偽装真実 10
裕介さんの運転するハイエースが住宅街へと向かうと、スマホを取り出して電話を掛け始める。
「もしもし、裕介です。もう着きますのでお願いします」短い会話で電話を終わらせると、今度は別の誰かに電話を掛けた。
「あ、俺だけど。もう着くけど大丈夫か?取り敢えず家で待ってるから」
そう言って次の電話も短い会話で切った。
突き当りのT字路を左折すると、大きな庭のある白い外壁の一軒家が見えた。
「京ちゃん、ここが俺の義理の両親の家だよ」
俺は、広い庭を見渡した。車なんて10台以上が停められるんじゃないかってくらい広い庭と、二階建ての白くて大きな家が目に止まった。
俺が住む家の倍は広い庭だ。そして、綺麗にペンキを塗られた家。手入れがしっかりされている庭の木々。それだけで、この家は金持ちだと俺は思えた。
ハイエースから降りると同時に玄関から裕介さんの義理の両親が顔を出して近付いて着た。
俺は、会釈と挨拶をすると、俺の両親より少し年上くらいの二人も同じ様に挨拶をしてくれ、家の中へと招待された。
リビングへに案内されると、余りにも広いリビングと、数々の絵画や置物、それに大きなグランドピアノに圧倒され言葉を失った。
突っ立ったまま放心状態の俺を見て「京一君、わざわざこんな所まで来てくれてありがとうね」と、裕介さんの義理の父・岡崎貞治に言われ「こちらこそ、お役に立てるか解りませんが…」と、俺にしては丁寧な返事をした。
奥のキッチンから裕介さんの義理の母・岡崎道子が飲み物を運んで来てくれた。
それを飲みながら、裕介さんが両親と今日の段取りの説明をし始めると、家のインターホンが鳴った。
「あ、俺が出ます。今日の助っ人に武井を呼んだんです」そう言って、裕介さんは玄関へ向かい、武井と言う男をリビングへ招き入れる。
「おじさん、おばさん、ご無沙汰してます」裕介さん以上に筋肉質で体格の良い作業着姿の武井が挨拶をすると、今度は俺の方を見て「君が裕介の義理の弟君か。今日と明日はよろしく」と言って、裕介さんの隣に座り段取りの説明に参加した。
段取りの説明が終わり、俺と武井さんの二人でテラスを作る為に基礎作りを担当する事になり、裕介さんは夕方前までに廊下やトイレに手摺りを取り付ける事になった。
俺は武井さんに言われるがまま動いた。
この武井さんて人は、普段は塗装業をやっている様だが、とにかく手際が良くスピードも速く丁寧な仕事をする人だと思った。
「どう?京一君、疲れてない?」武井さんが俺に優しく声を掛けてくれる。俺は、久し振りの肉体労働って言うのもあって、身体が言う事を聞かなくなって来ていた頃だった。首に掛けたタオルで汗を拭きながら「大丈夫です」と、強気な返事をする。
「武井さんは塗装業なのに、こう言う事も出来るんですか?」と尋ねると、一瞬だけ手を止めて笑顔で「ガキの頃から親父が大工全般を自営でやってたから、無理矢理手伝わされてたんだよ。今は引退して俺の兄貴がやってるし、俺も塗装しながら暇な時は一緒に現場に入ったりするからね」
この時、やっぱ社会に出るって事は凄く大変だし、その大変の中でも常に勉強して経験を積んで腕を磨く事で一人前になるんだなと思った。
俺も、早く大学を卒業し、介護の経験と腕を磨いて、職種は違うけど、武井さんの様に仕事が出来る男になりたいと思ったと同時に、仕事が出来る男になると、自分の中で誓いを立てた。
「よし、一旦昼飯にしよう」と、家の中から裕介さんが出て来て言う。
そして、道子がお昼ご飯を作って持って来てくれた。
三人で他愛もない話をしながら昼食を済ませると「俺はあと廊下だけだから三時間もあれば終わりそうだけど、そっちはどう?」と、武井さんに確認した。
「こっちは、さっき柱の位置を決めたから午後一でコンクリ流せるかな」と返す。
「京ちゃん、大丈夫?武井にしごかれてない?」ニタニタ笑いながら裕介さんが聞いて来たから、俺は「大丈夫です。武井さん、優しいから」と簡単に返した。
真琴に電話を掛けようと思い、立ち上がってその場から少し離れる。
時間は12時40分になるところだった。
真琴は友達とランチと言っていたが、取り合えず電話を掛けてみた。呼び出しすらされず、すぐに留守番電話へと繋がってしまう。
もう一度掛けてみたけど結果は同じだったから「電話したけど電波ないみたいだね。また電話するよ」とだけメールを送って裕介さんと武井さんの元へ戻り作業が再開された。今まで電波が無かったり、電源が入っていない事なんて無かったから、何とも言えない不安が襲って来て、なかなか仕事に集中が出来なかった。
その時、武井さんが声を掛けて来た。
「そう言えば、FOURって京一君が乗ってるんだってね」
「はい、裕介さんがくれたから」タオルで汗を拭きながら応えた。
「大事に乗るんだよ。あのバイクはね…」そう言い掛けた時、武井さんは言葉を飲み込んで、違う会話へと切り替えた。
その切り替え方が不自然すぎて気にはなったが、敢えてそのままスルーをする事に。
丁度その時、家の作業を終えた裕介さんが外に出て来て、武井さんにボソっと何かを言って車で出掛けて行った。
武井さんの表情は、何とも言えない様に見える。
「裕介さん、どっか行ったんですか?」と、武井さんに聞いてみると、武井さんは少し考えた後に言った。
「あいつ、弟に会いに行ったよ。ほら、FOURの持ち主だった」
これと言って、何もおかしくない内容なのに、あの表情は何だったんだ?とにかく、疑問しか浮かばない。
貞治は裕介さんの車が見えなくなると、「武井君、京一君、今こっちに来て貰っても大丈夫かな?」そう手招きしながら言って、俺達をリビングへ来る様に促した。
作業を一時中断してリビングへ行くと、そこには道子も居て慎重に言葉を選びながら話し始めた。
「武井君は、裕介君とは長い付き合いだから、きっと私達と同じ風に感じたかも知れないけど、今から話す事は裕介君には内密にして貰えますか?」
俺と武井さんは頷いた。
「京一君は、あの子からバイクを譲り受けたみたいだけど、あのバイクはうちの庭でずっとしまっていたバイクなんです。それをバイク屋さんの友達や武井君で綺麗に直して保管しててね…」
今にも泣きそうな道子の説明に対して、貞治が横から言葉を発した。
「母さん、私が代わりに伝えるから…」言葉に詰まった道子に代わり、貞治が天井を見上げながら静かに話し始める。
「どこからどう話したら良いのか私にも解らないけど…多分、武井君の知らない話もあるから、間接的にじゃなくて良いから、あの子を…裕介君を支えてくれませんか?これ以上、あの子が苦しむのを見たくないから…単刀直入に言うと、裕介君の弟さんはあのバイクに乗っている時に事故で亡くなってて…綺麗に直して保管してたんだけど、京一君のお姉さんとお付き合いが決まった時に、もう一度このバイクを走らせますと言って、バイク屋の友達の協力もあって高崎へ運んだんです。その理由が今日になって解りました。あの子の弟さんと京一君がどことなく似てるんです。顔とかじゃなく雰囲気や背格好が…」
「おじさん…俺もそれは京一君に会った時に何となく思いました。でも…」
俺は、いきなりの話すぎて着いて行けない。ただ話を聞く事しか出来なかった。
更に貞治は続けた。
「裕介君が高校卒業してすぐに娘と結婚して、この家で暮らしてたんだけど、その時に弟さんは高校生で、一人暮らしをしていてね。あのバイクは、仕送りとバイト代で貯めて買ったんです。卒業式の何日か前にそのバイクで事故に遭って…」
俺は、余りにも突然の話すぎて全く着いて行けなかったが、気になった点があったから聞いてみる事にした。
「もしかして、高校って言うのは栄星高校ですか?」
そう言うと、三人は驚いた様に俺の顔を見た。
「何でそれを?」と、道子が聞いて来た。
「そこの高校を俺の彼女が卒業したみたいで…ちなみに、弟さんって何歳ですか?」
「生きてれば21歳だね、俺と裕介の6個下だから」武井さんがそう言うと、俺は貞治と道子にお願いをした。
「弟さんの高校の時の卒業アルバムってありませんか?」
それを聞いて席を外した貞治が、リビングを離れてどこかへと行った。暫くするとアルバムを抱えて戻って来た。そして、それを見させて貰った。
クラス単位のページを見ると、疑心暗鬼だった俺の迷いは確信へと変わった。
あの手紙の通り、真琴は双子…
そして、写真に写っていた通り、二人はそっくりだった…
3-A 佐々木真琴
3-C 佐々木真尋
次のページをめくると、道子が「この子が裕介君の弟の南雲聡介君」と言って指をさし教えてくれたのが、
3-D 南雲聡介 つまり、裕介さんの亡くなった弟だった…
これでハッキリした。点と点が結ばれて一つの線になった!
「すみません、このアルバムを裕介さんに秘密で貸して頂けませんか?必ずお返ししますので…」
不思議そうな表情で貞治と道子は頷いた。
そして武井さんが言った。
「京一君、もし仮に裕介に何かあるなら俺も力になるからいつでも電話してくれ」
「私達も同じよ。解る事なら教えるから、何かあったら言うのよ?」道子が言った。
俺は、一つの仮説として三人に説明した。
手紙が始まりの切っ掛けであり、その手紙を中心にして俺とバイト先の店長夫妻で導き出した仮説を…
ここまで偶然が重なると、その仮説すら真実に思えてしまう。
「ところで、バイク事故って言いましたが、どんな事故だったんですか?」
当時の出来事を思い出す様に…言葉を選んで慎重かつ丁寧に武井さんが語り始めた…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます