第2章 偽装真実 9
家に帰ると、真琴に電話を掛けた。しかし、真琴は電話中だったから、折り返しの電話を待つ事にした。
暫くすると、真琴から折り返しの電話が掛かって来た。
「もしもし、電話ごめんね。さっき掛かって来た大学の友達と話してたんだ」
普段と何も変わらない口調で真琴が話始めた。
さっき見せた嫌そうな顔は何だったのだろう…俺は、電話の内容を真琴に聞いてみたが、真琴からは「他愛もない会話だよ」としか返って来なかった。
これ以上、その話に対して突っ込んで聞く事は難しいから、そこで会話を終わらせた。20分程話をして
「じゃあ、そろそろ明日朝が早いから寝るね」と、俺が真琴に言うと、「そうだよね、明日は何時に出るの?」と、聞いて来た。
「6時に家を出るみたいだから、5時半頃には遅くても起きなきゃ」
「そんなに早いんだ。とにかく気を付けて頑張って来てね。じゃあ、また大丈夫な時にでも連絡してよ。私は、明日さっき電話で話した大学の友達とランチに行って来るからね」と、言って電話を切った。
電話を切ってすぐに頭の中で一つの疑問が生まれた。
今までも大学の友達と会うって話は聞いた事があったが、そもそも誰なんだろう…
大学には行ってないし、真琴が嘘を付いて大学に行っている振りをする理由は何なんだろうか。
バイトは基本的に夕方からだし、土日とか休みの日は昼から出勤の日もあるが、それ以外の生活は全く知らないし、聞いた事すらない。
明日、真琴は一体どこで誰と会うのだろう…そんな事を考えながら眠った。
翌朝、スマホの目覚まし機能の音で目が覚めた。
心地良い布団の温かさから出たくない気持ちが強かったが、仕方が無いから布団から無理矢理飛び出て準備を始める事にした。
今日から二日間、俺の中で疑いのある裕介さんと二人で出掛けるのだから、もしかしたら何か真琴との接点に気付くかも知れない。
顔を洗っていると、背後から裕介さんの声がした。
「京ちゃん、忘れ物は無い様にね。先に準備があるから車に行ってるから」そう言い残して、玄関の方へ向かい外へ出て行った。
部屋に戻り、忘れ物が無いかカバンの中の荷物を最終確認をする。
確認が終わると、時刻は6時5分前だった。
玄関に向かう途中、リビングから姉がバタバタと慌てて出て来て「折角、男二人なんだから仲良くなって来るんだよ。じゃ、頑張って!」と見送られ外へ出た。
薄暗い中、裕介さんは白いハイエースのエンジンを掛けながら準備をしている。
「お待たせ」そう言って裕介さんに近付くと「こっちの準備は今終わったからもう出るけど良いかい?」
俺は「良いよ」と言って助手席へと乗り、後部座席の上に荷物を置いた。
裕介さんの運転するハイエースには、今日明日で使うであろう道具が所狭しに積まれている。俺もたまには手伝いをして小遣いを稼いでいたけど、裕介さんと二人って言うのは初めてだし、大学に入ってからは殆ど手伝いなんてしていなかった。
「取り敢えずリフォームなんだけど、やる事は二つってとこかな。まずは、廊下やトイレに手摺りを取り付ける事と、もう一つは今まで二階で洗濯を干してたんだけど、年も年だから庭にテラスを作る事。ま、メインはこっちが重労働になるね」
話を聞きながら、渡された資料に目を通す。
確かに、テラスとなると重労働になるなと思ったが、全て段取りも材料も手配済みで、すでに現地には届いているらしい。
裕介さんの運転するハイエースは、高崎インターに入り、長野方面へと進んだ。
走行する車窓から景色を見ながら、昨日の出来事を考えていた。
一体、今日どこで真琴は友達と会うのだろう…それは、本当に友達なのか?いくら考えても答えなど出る筈が無かった。昼頃に一度電話してみよう…
そう、思ったと同時に裕介さんが話を始めて来た。
「今から行くのは、俺の亡くなった元奥さんの実家で、今でも良くしてくれている岡崎夫妻の家だよ。俺は、婿養子として岡崎家の長女と結婚したんだけど、色々あってね。でも、旧姓には戻さないで今でも岡崎を名乗っているのは、この夫婦への感謝や恩からなんだよね。暫くは岡崎家で四人で住んでたから、家の作りは解るし何とか力になれたらなって思ってさ」
この話を聞く限りじゃ、裕介さんと真琴との接点は何も解らない。
だけど、俺の勘が合っていれば、きっと何かある筈だと思っている。
それが、どんな関係で、どんな接点なのかはまだ解らない。この二日間で、確信は無いが、何かしら少しでも解るかも知れないと思っている。
「聞いたら悪いかも知れないけど、その奥さんって事故か何かで?」
そう質問すると、裕介さんは煙草に火を付けて煙を吐きながら「病気だったんだよね」そう言う裕介さんの表情は寂しそうに見えた。
「ごめん、こんな事を聞いちゃって。でも、姉ちゃんは全てを知ってるの?」
「まぁ、だいたいは結婚する前に話したけど、全部を話そうとしたけど、途中で俺に気遣ってか話したくなったら話してくれれば良いよって言われちゃってさ…だから、その日以来この手の話はお互い遠ざけてるって言うか…話してないし聞いても来ない状態だね。京ちゃんの姉ちゃんは優しいね。その優しさに惚れたと言うか…」
少し照れ臭そうに裕介さんは言ってるが、姉ちゃんが優しいとかじゃなく、ただ単に過去の話を聞きたくなかったとか、興味が無かっただけじゃないかと思った。
姉ちゃんは、めんどくさがりだし、そんな昔の話を聞いたとこで聞かなきゃ良かったってなる可能性も考えてたかもだし。姉ちゃんの性格上、そんな気がするが、敢えてそれは言う必要が無いから俺の中だけで勝手に解決させた。
気が付くと長野インターの目の前まで来ていた。
インターを下りて初めて見る街の景色をぼんやり見ていると、高崎にもあるし、全国にある牛丼屋が目に入り「ここで朝飯にでもしようか?」と、裕介さんが言って駐車場へ車を止めて店内へと入った。
そう言えば、二人で外食も初めてだなと考えていたら、裕介さんが話し始めて来た。
「京ちゃんと出掛けたりって無かったもんね。これを機にもっと仲良くなれたらなって思ってるから、よろしくね」
俺も裕介さんに「よろしく」と言って、店員が運んで来た牛丼を勢いよく食べた。
牛丼を食べながら、他愛もない話をした。
「裕介さんは、もう単車には乗らないの?貰ったFOURだってピカピカだったし、大切に乗ってたんだなって思ったけど…それに、FOURに乗ってるとこ見た事なかったし…」そう質問すると、裕介さんは悲しそうな表情で言った。
「俺、免許ないんだよね。あのバイクはね、弟のなんだよね。でも、もう乗らないからって俺が引き取って綺麗に残しておいたんだ。ずっと岡崎家に保管しといて貰ったんだけど、バイク屋の友達に頼んでメンテナンスしてから高崎に運んで貰って京ちゃんに上げたんだよ」
「そうなんだ、弟がいるんだ。じゃあ、長野にいるの?」
「うん。だから、ちょっと仕事が落ち着いたら会って来るよ。その間は岡崎家で京ちゃんは待っててよ。それか、近所にでも観光に行く?」
「はい。弟さんに、今、俺が乗ってるから代わりにお礼だけ言っておいてよ。それに、知らない土地だから、観光は良いや」
「了解。じゃ、そろそろ行こうか?ここから岡崎家まで10分くらいだから、早く仕事終わらせよう」
裕介さんが俺の分も会計を済まし、牛丼屋で朝飯を食べてる間に冷え切ってしまったハイエースにエンジンを掛けて出発した。
暫く一緒に住んでいるけど、弟が居たなんて初耳だったし、そもそも、結婚式さえ上げていないから、会う事も無かったのだ。
でも、それだったら、一度くらいは高崎に来てもおかしくはないなと、ふと思ったけど、その事に関しては気にしない様にした。
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