第2章 偽装真実 8

数日後、大学が終わってから真琴と久し振りにデートの約束をしていた。待ち合わせ場所へと向かっていると、店長から電話が掛かって来た。

「西野、昨日送られて来た写真を佐々木さん以外のホールの従業員に確認したところ、何人かは見覚えがあって、つい昨日も職場の仲間らしき人と来たらしいぞ。だいたい月に二回くらいは来てるみたいだ」

裕介さんに少しでも疑心がある俺は、車に荷物を積んでいる裕介さんを隠し撮りして、店長へ画像を送って、みんなに確認して貰う事をお願いしたのだ。

もし、俺が居ない時に来店してる様なら、やはり疑いは強くなるし可能性だって0では無くなるからだ。

「わざわざありがとうございます。やっぱ、俺が居ない時間帯か休みの日に来てるみたいですね。俺が居る時なんて、姉と二回来ただけでしたからね…」

「そうみたいだな。それに、昨日は佐々木さんも出勤していたが特別何も変わらなかったそうだ。お互い、知らない振りなのか何なのか解らないけど、とにかく明日から義兄の手伝いに行くんだろ?疑ってる事がバレない様に気をつけろよ」

そう、明日から裕介さんに頼まれて、義理の親の自宅をリフォームに行く日だった。

当初は、手伝いの三万円目当てだったが、何かしら『手紙』の情報と、真琴との接点を得る事が俺の目的に変わった。

「解りました。何かあったら電話は難しいかもしれないので、出来る時にメールします。店長も何かあったらメールお願いします」

そう言って店長との電話を切ると、真琴との待ち合わせ場所までもう少しの所まで来ていた。


待ち合わせのファミレスに着いたが、真琴の車はまだ無い様だ。

車から降りて駐車場の脇にある喫煙所で煙草を吸っていると、「お待たせ」と背後から声がした。

振り返ると、友達が亡くなって元気が無かった真琴ではなく、以前の様に笑顔で明るい表情の真琴が立っていた。

俺の大好きな笑顔の真琴…だけど、その笑顔の裏に隠されている俺の知らない過去や罪が脳裏から離れない。

大学生と言うのも嘘だし、昼間は何してるのかさえ知らないし、やっぱ俺は真琴の事を何も知らないんだなと、更に痛感した。

「寒いから中に入ろうよ」そう、真琴が言うから煙草を消して店内へ入った。

案内されたテーブルに腰かけると同時に、真琴は羽織っていた白いコートを脱いだ。

一通りメニューを見て、お互い注文した。

夕飯にはまだ少し早いけど、明日に備えて早く帰らなければならなかったから仕方がない。

「明日からお兄さんのお手伝い頑張ってね」

注文をし終えて、ドリンクバーで飲み物を取って来た時に真琴から言われた。

「うん、頑張って来るよ、三万円の為にさ。真琴はバイトだよね?」

このまま他愛もない会話が続いた。

正直、今までだったら楽しい筈の会話も、今の俺には楽しさ半分でしかなかった。

残りの半分は、疑心だけしかない。

それを悟られない様に、俺は無理して楽しい振りを、何も知らない振りを続ける。

俺だけじゃなく、店長も同様に真琴と話をする時は平常心を心掛けていると、話していたのを思い出した。

真琴が俺等に嘘を付いているのなら、俺等も嘘を貫き通して接するのが良いからだ。

真相を早く知りたいが、まだ準備期間中だから焦っちゃ駄目だ。

「そう言えば、この前ね千春ちゃんがうちに遊びに来たんだけど、お父さんの仕事を手伝う事になったから、シフトが減っちゃうかもって言ってたよ」

「東さんのお父さんって、何かの社長なのかな?」当たり障りのない返事を返した。

「聞いたけど、教えてくれなかったんだ…でも、千春ちゃんがバイトに出れなくなるとちょっと人手が心配だよね…それに寂しくなるな…」

ここ最近、真琴と東さんは仲良くて、二人で買い物に行ったり、遊んでるらしい。だけど、きっと東さんも真琴の本当の事は知らないだろう…

「山崎君も菊地さんも言ってたけど、千春ちゃんて凄く頭が良くて、本当は良い大学に行ける筈だったのに行かなかったんだって。」

「何でだろ?」

「聞いた話だと、学歴社会が好きじゃないし、興味が無かったみたいだけどね」

「そんなもんなのかな。俺なんて、とにかく苦手な勉強をしまくって、やっとギリギリ大学に受かったかのにな」

俺が大学に行きたいと言ったら、親も友達も先生も驚いたし、受かる訳がないだろって言う奴も居た。頭も良くないし、出席日数だってギリギリだし、何よりも素行不良で補導歴が何度もあったし…

しかし、応援してくれた奴も居たから頑張って勉強して今の大学に受かった。

これが俺が生まれて初めて努力をしたと、胸を張って言える事だった。


時計の針が21時を越した頃、真琴から「明日、朝早いんでしょ?今日はもう帰ろうか?」と、俺を気遣ってか言って来た。

「そうだね」と言って、会計を済まして駐車場へ出た。

駐車場の脇にある喫煙所で二人で煙草を吸っていると、真琴のスマホが鳴った。

バッグからスマホを取り出すと、着信画面の表示を見て、一瞬だけど嫌な顔をした様に思えた。

そのままバッグへスマホを戻したから、「出なくて良いの?」と尋ねると、

「大学の友達からだし、家に帰ったら掛け直すから大丈夫」

これ以上は何も言えない、聞けないから話を終わらせると、真琴がボソっと小さな声で「友達って何だろ…」と呟いた。

「友達って言うのは、ありのままの自分を受け入れてくれる奴じゃないかな?」そう言うと真琴が空を見上げて言う。

「ありのままの自分を、か…」

その表情は、どこか寂しそうで何かを思い出している様な表情だった。

「私ね、大切な友達を…ううん、やっぱ良いや。気にしないで。もう帰るね」

そう言い残して、真琴は慌てる様に車に乗って「バイバイ」と手を振って帰って行った。

俺は、真琴の車が見えなくなるまでただ見てる。

『友達』この前、亡くしたからか?それとも、他にも何かあったのか?大学の友達からではなく、嫌な相手からの電話だったのか?

そもそも、大学の友達なんて、大学に通っていないのだから一人も居ないだろ…

解らない。

解らない。

解らない。

でも、一つだけ解った気がする。

『真琴は、きっと何かに苦しんでいる』と言う事だけは…






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