第2章 偽装真実 7

「もしもし、俺だけど。電話ごめん、風呂に入ってたよ。今って大丈夫?」

真琴から着信が残っていたから、何かあったのか心配になり、脱衣所で急いで折り返しの電話を掛けた。ここ最近は、風呂に入ってる時に真琴に何かあっても出てすぐに電話が出来る様にスマホを脱衣所に持って行く様にしていた。

「うん。さっき家に帰ってきたとこだよ。さっきは高崎駅から電話したんだ」

「そうなんだ。お帰り。それで…真琴は大丈夫?この前は随分と取り乱してた様に思えたからさ…」

「何とか…今は少しは落ち着いたかな…でも、お葬式が終わった今でも友里が亡くなった事が信じられなくて…」

つい先日、友達が亡くなったのだから仕方がない。だけど、正直言って俺はどんな風に声を掛けたら良いのか解らなかった。こう言う事は、デリケートな問題だから、下手したら逆効果になるし、ただの同情にしかならないからだ。

「明日からバイトにも復帰するからね。今日は何だか疲れたから、このままお風呂に入って寝るね」

真琴がそう言うから「お休み」と言って電話を切った。

脱衣所から出ると、次に風呂に入ろうとしている義兄の裕介さんが目の前に居た。

「ごめん、出たら電話が来てて話してたから遅くなっちゃって」

「大丈夫。もう出たのかなって思って来たら話し声が聞こえて来たから、少しここで待ってたよ。ごめん、盗み聞きみたいになっちゃって」

裕介さんは少し気まずそうに言った。

「こんな事を聞いちゃ悪いと思うけど、お葬式とか聞こえたけど、京ちゃんの知り合いが亡くなったの?」

「俺の知り合いじゃなくて、彼女の友達が亡くなったから心配なんだよね」

「そうなんだ…俺も女心とか解らないけど、そう言う時は京ちゃんが支えて上げるのが一番だから、都合が良い日にでもデートに誘ってごらん」

女心か…俺も全く解らなくて、どうしたら良いのか悩んでたけど、偶然裕介さんに電話を聞かれてアドバイス貰えて良かったと思った。

「うん、ありがとう」

そう言って俺は部屋へ戻り、真琴に都合が良い日がいつか確認のメールを送った。


暫くテレビを見て過ごしていると、バイト先の店長から電話が来た。

今から近所のコンビニに行くから会えないか?と言う内容だった。

俺は準備してコンビニまで5分の道程を歩いて向かう。

外は冷え切っていて、とにかく寒かった。さっきまで雨が降っていたらしく、アスファルトが濡れている。

向かっている途中、真琴から『明後日のバイト終わってからなら大丈夫だよ。お休み』とメールが来た。寒さに耐えながらポケットから手を出して返信をする。

勿論、これから店長と会う事は秘密だから、この事に関しては何も送らなかった。

コンビニへ着くと、ちょうど店長がコンビニから缶コーヒーを買って車に戻るところだったから、そのまま声を掛けて助手席へ座った。

そのままエンジンを掛けて「少し移動しよう」と店長が言い、俺は頷いた。

車は環状線に出ると、そのまま北へ進み旧道を右折して前橋方面へと進んだ。

そのまま進むと、今度は17号に出る道を左折し、17号へ出て高崎方面へ戻った。

何故、こんな意味のない道を走ってるんだと思うと、今度はそのままバイト先であり、店長の自宅へと車を止めて自宅へ入って行った。

玄関を開けて入ると、奥さんが「いらっしゃい」と、声を掛けてくれた。

言われるがままにソファーへ座ると、

「もし、尾行でもされたらと思って、グルグルと適当に走ったんだけど、尾行は居そうになかったから安心して家に来たんだけど、今日お前には何か変わった事は無かったか?」

「俺は何も無いですけど、何かあったんですか?」

そう言うと、店長は封筒を差し出して来た。

「言葉で説明するのもあれだから、まずはこれを見て欲しい」

「解りました」俺は一呼吸して封筒を手に取り中身を取り出した。

封筒の中身は、一通の手紙と一枚の写真が入っていた。

手紙には

『双子ガ犯シタ罪』と、書かれており、

写真は、学校の教室らしき場所で制服姿の真琴が二人、笑顔で並んで写っている。

「真琴が…二人?」

ボソっと言うと、奥さんが「佐々木さん、双子なのかしら?この写真では、どちらが佐々木さんか解らないくらいそっくりね」

「一卵性双生児ってやつだろう。俺の中学の同級生にも同じ様な双子が居て、どっちがどっちかなんて全く解らなかったから、それと同じだろう」

店長が言う一卵性双生児って言う言葉は知っていたが、まさかここまで同じ顔で同じ身長・体形なんて、想像よりも似過ぎていて驚いた。

「この手紙の送り主は、佐々木真琴って存在を知り尽くしている人間だ」

そう断言する様に店長が言うと、俺も奥さんも納得して頷く。

「だからと言って、店長宛にこの写真を送って来る理由はなんですか?」

店長に問い掛けると、目を閉じたまま考え込んだ。

「あなた、私この手紙の送り主がある程度だけど特定出来たわ」

奥さんが写真を見ながら誰が送って来たのか解ったみたいだった。

「誰なんだ?」店長が奥さんに問うと、

「よく考えて。制服を着ていて学校の教室みたいな場所での写真。それも、二人共笑顔でカメラ目線で写ってるって事から、撮影者は二人の友達やクラスメイト。そして、その撮影者は高崎に佐々木さんが居る事を知っていて、ここで働いている事も知っている人物よ」

「でも、それって誰だろ…仮に真琴の過去を知ってて、しかもバイト先までも知ってて…そんな奴が本当に身近に居ます?地元の友達だって、何年も会ってなきゃ今何をしてるのかさえ知らないのに、そんな奴が地元じゃない高崎に居ます?」

奥さんが推理した仮説を三人で話し込むと、何かを考え出した様に店長が丸めていた背筋を伸ばして口を開いた。

「やっと謎が解けた!一通目からの手紙を並べてみよう」そう言って、店長はテーブルの上に届いた順に手紙を並べた。

一通目から、


『Sへ オ前ヲ許サナイ…』


『佐々木真琴ヲ雇ウ者へ… 貴方ハアイツノ過去ノ罪ヲ知ッテイルノカ?

コレダケハ約束スル 店舗ト店員ニハ危害ハ与エナイ…』


『DEAR 佐々木真琴ノ彼氏君へ… 君ハ、アイツノ過去ヲ知ッテイル?

必要ナラ教エテ上ゲルガ、聞ク心ノ準備ハ出来テイルカ?』


『佐々木ハ私ヲ見テモ解ラナカッタ様ダ…私ハスグニ解ッタト言ウノニ許セナイ…

コノ怨ミハ海ヨリモ深イ…全テハ長野県デノ事件ガ私ヲ狂ワセタ…許セナイ…』


『双子ガ犯シタ罪』


「この手紙の送り主は、佐々木さんとはすでに接触しているが、その相手が誰なのか佐々木さんが気付いていない人物。そして、彼氏へって言うのは、西野が彼氏だと知る人物。最後に、過去も罪も何もかも全てを知っていて、写真を持っている事からして同級生か、もしくはそれに近い人物だ」

何かのサスペンストラマの探偵や刑事みたいな仕草や喋り方で店長が説明すると、横から奥さんが「あなた冴えてるわね」と褒め、そのやり取りが本当に仲の良い夫婦だなと思えた。

「そうなると、ただのお客さんなら俺と真琴が付き合ってる事を知らないから、どこかで見られたか、後を尾行とかされたかって事ですよね?」

額に人さし指を当てながら、「そうなるな」と、まだ探偵や刑事みたいな仕草と喋り方をやめない店長を無視する。

その時、ふと裕介さんの顔が一瞬だけ脳裏に浮かんですぐに消えた。

「もしかしたら…いや、そんな筈はない。何一つとして接点が無い…でも…もしかしたら…いや、でも可能性は0じゃない…けど…」ボソボソと独り言の様に呟いていると、奥さんが「0じゃないなら可能性はあるわ。心当たりが西野君にはあるの?」

そんな筈はない、だけど俺と真琴が付き合ってるのも知ってるし、裕介さんも長野県出身だし、そもそも、ここがバイト募集してるから応募したら?と、薦めて来たのは裕介さんだったし…歪だけど、点と点が少し結ばれて線になろうとしている感覚を頭の片隅で感じる。

「もしかしたらって言う可能性が浮かびました。でも、断定は出来ないので少し時間を下さい。今度、その人と接触する機会があるので」そう言うと二人は「解った」と言って、それ以上何も聞いて来なかった。

そのまま話し合いを終えて、店長の車で家の近くまで送って貰った。










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