第2章 偽装真実 6

松本駅へ着くと同時に、改札へ向かう前にトイレへ駆け寄る。

泣いた振りを演出する為に。

洗面台に向かい、化粧落としで目元を少し目を開けながら洗った。

充血する演出には、多少の痛みも覚悟の上だった。

鏡を見て、充血した事を確認すると、その場で少しだけ落ちてしまった目元のメイクを整えて待ち合わせである駅前のカフェ前へと向かった。

待ち合わせ場所には、千絵しか居なかった。千絵に「香織は?」と、尋ねると、「もう少しで着くみたいだけど…それにしても、何で友里が…」涙を堪えている千絵を見ながら、私はハンカチを出して涙を拭う素振りをした。

「あんな優しい友里がどうして…」暫くお互いに無言になると、香織がやって来た。

香織は、ずっと泣いていた様で、目が腫れ上がり充血している様に見える。

私達三人は、顔を合わせるなり抱き合って泣いた…

勿論、二人とは違って私だけは嘘の涙と演技で。

気付かれない様に…

千絵の車に乗り、私の実家へ向かった。友里の家まで一番近いからだ。

車中では誰一人として何も話さない。

千絵と香織を外で待ってて貰い、私は一度部屋に荷物を置いて来た。

どうやら母親は友里の家に行っているらしい。

お互いの子供が幼馴染であり、母親同士も長い付き合いで仲良かったから。

「お待たせ」そう言って玄関に鍵を掛けると、私達も友里の家まで歩いて向かった。

友里の家まで徒歩で10分。

車中と違って、歩きながら私達は友里との思い出を話しながら歩いた。

「この前の飲み会の時は、あんなに元気だったのに、たった数日でこんな事になるなんて…」私が言うと、香織が「もっといっぱい話しておけば良かったよね」と言って来た。それに対して千絵は相槌を打つだけだった。


友里の実家へ着くと、予想していた通りいかにも警官って感じの二人組が友里の母親と玄関で話をしていて、会話を切り上げて私達の元へ近付いて来てくれた。

「すみません、私達はこう言う者ですが、少しお時間よろしいですか?」

よくドラマで見る素振りで黒い手帳を見せて来た。

香織が「すみません、後でも良いですか?先に友里のご両親に挨拶をしたいので…」そう言うと警官は「構いません」と言って、その場から少し離れた場所へと移動した。

一人は50過ぎで、もう一人は30半ばくらいだろう。

友里の両親に挨拶をし、テレビのニュースではなく両親から亡くなった事を聞かされると、私達はその場で泣き叫んだ…

千絵はその場でしゃがみ込んでしまった。その姿を見て、私も千絵の様にしゃがみ込んで噓泣きを演じた。

「真琴…」背後から母親の声がしたので立ち上がって振り向く。

ちょっとくらい大袈裟に演出しても良いかもと思い、私は母親に抱き着いて更に嘘泣きを過剰に演出する。

でも、この涙の1/3程は、仲が良かった友里への感情もある事に今やっと気付いた。

背中を撫でられ、母親の目を見て言った。

「お母さん、何で友里が…?」

母親は何も言わずに左右に首を振り「今、警察の方が捜査してるけど…まだ断定が出来ていないみたいで…自殺の疑いも、他殺の疑いもどちらもあるみたいで…」


あの日の事を思い出した。

動かなくなった友里の両腕を無理矢理動かして、口と首に巻き付けたタオルの数か所に指紋を残した。

自分で口と首に掛けましたと言う証拠を残す為に。

そして、両手・両足を縛ったタオルを外して、痣になっていないか確認したが、少しだけ痣になってる箇所があった。痣の近くにテーブルを乱雑に置き、飲みかけのコップを友里の足元に落とした。苦しくてテーブルを蹴飛ばした風に見せた。

口元のタオルに関しては、外さずにそのままにしていた。

特に外す必要が無かったからだ。

勿論、細心の注意を払って、私はビニール手袋を二重にして全ての作業を行った。

そのビニール手袋さえ、きちんと処分をした。

私の指紋など一つもないと確証はあったし、全ての工程にも自信がある。


「あの、先程お母さまから伺いましたが、事件前に松本で飲まれていたと伺いましたが、その時の友里さんのお話を聞かせて頂けますか?」若い警察が言い寄って来た。

私達は「その日の友里は、特に悩んでいる素振りもなく、何も言わなかったよね」と、千絵が私と香織に同意を求めた。

「仕事もやりがいがあって良いし、次の日は彼氏とデートと言ってました。だから、仕事もプライベートも充実していたと思います」私が言うと、警官がメモを書きながら質問をして来た。

「彼氏と言うのは、皆様も知ってる方ですか?」

三人が揃って「知らないです」と、答える。

「職場の方から伺った話では、友里さんは一カ月程前に別れたと同僚の女性から教えて頂いてまして…それでは、飲んでいる時に、何か気付いた点等も御座いませんか?」

気付いた点…三人が考え込む。しかし、久し振りに友里に会ったし、電話では他愛もない話しかしていなかったから、何も思い付かなかった。

すると、年配の警察官が初めて口を開いて言って来た。

「では、皆さんは、自殺する子ではないと断言出来ますか?それと、何かのトラブルにも巻き込まれない子だと断言出来ますか?」

「断言出来ます!友里は…そんな弱い子じゃないし、何かに巻き込まれるって…そんな子じゃありません!」言葉を強めた口調で香織が言った。

「では、最後にこの写真に写る人物に心当たりはありませんか?友里さんのアパート付近に映っていた防犯カメラの写真ですが…」

その写真は、

1.私が変装をしている写真

2.帽子を被った挙動不審そうな男性

3.中年の女性

「事件の推定時刻の頃に、近辺の防犯カメラに映っていて、それと同様に死亡推定時刻頃にも同じ場所に映っていたので…この人物に心当たりは御座いませんか?」

「解りません。私達、友里と会ったのは久し振りだし、誰一人として家に行った事も無いし…」私が言うと、二人も続けて言った。

千絵は「それに、その日は仕事だったし…」と言い、香織もその時間はバイトだったと伝えた。

私は、群馬の高崎に住んでいて、その日は風邪を引いて寝込んでいた事を伝えた。証人は?と聞かれ、彼氏がお見舞いに来たと伝えると

「そうですか、解りました。みなさんにはアリバイがある様なので。私達はこれで失礼させて頂きます。何か思い出した事などありましたら、こちらにご連絡下さい」

そう言って、名刺を配り、二人は私達に向かって深く一礼し『何も成果が無かったな』って言う様な顔をしながら、私達の前から居なくなった。

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