第2章 偽装真実 5
「続きましては、10月13日、長野県長野市で発覚したニュースです」
ニュースキャスターの女性が新しいニュースを読み始めると、私はその内容に釘付けになって、化粧する手を止め視聴した。
「こちら、事件現場がある長野県長野市内のアパート前です」
現場の男性リポーターが、つい先日私が訪れた友里が住んでいたアパートの前で中継を始める映像が流れる。
「昨夜、こちらのアパートに住む会社員の北村友里さんが無断欠勤、音信不通が続いた為、勤務先の男性と女性の二人がアパートに訪れた際に、北村さんのお部屋からテレビの音が聞こえて来るのにインターホンや携帯電話に対しての応答が一切無い為、不信に思い警察に電話をして部屋に入った際に、こちらに住まわれている北村さんが遺体で発見されました。警察の調べによりますと、死亡推定時刻は10月11日夜19時前後と思われます…ここ数日間、特に不審な人の出入りや、近隣トラブルなどは無かったと言う事なので、警察は何かしらの事件に北村さんが巻き込まれたと判断してるそうです」
ここでスタジオの女性キャスターに切り替わった。
画面下のテロップには、長野市・会社員 北村友里さん(21)他殺か?と、記載されていた。
続けて女性キャスターが語り始める。
「北村さんは、首にタオルを巻かれて、寝室のドアノブに縛られて首を吊った状態で発見されました。部屋は特に荒らされた形跡もなく、自殺か何かしらの事件に巻き込まれたのかは、現在捜査中です」
女性キャスターが話し終えると、コメンテーターの男性が話始めた。
この男性は、何かを考えながら一言一言ゆっくり丁寧に事件について話し始めた。
その時、私のスマホが鳴った。
着信の相手はこの前一緒に飲んだ香織からだった為、一度テレビの音量を消して応答ボタンを押した。
「もしもし…ニュース見た?」
私はここでも演技をしなければならなかったから、見てないと香織に告げた。
「だったら、今すぐニュース付けてよ」
消え入りそうな泣き声で、私にテレビを付ける様に促して来た。
私は、さっきまで見ていたテレビの音量を元に戻す。
「嘘…何で友里が?」
私は演技を続けた。ここまでやったのだから、どこかでボロを出してしまう訳には行かなかった。
「あの日、友里と話した感じでは、自殺は無いと思うの…だって、彼氏とだって上手く行ってたし、仕事だってやりがいがあって充実してるって話してたもん…」
泣きながら香織が友里の事を語り始める。
私は、ただ香織の話を聞きながら相槌を打つだけだった。
「千絵は知ってるのかな?」
私が香織に聞くと、さっき連絡はしたけど電話には出なかったからメールを送ったと言った。
気が付くと、ニュースは切り替わり、別の事件を流していた。
テレビを切り、私は香織に言った。
「友里は…友里は弱い子じゃないから、自殺じゃないと思うし、だからと言って、何かのトラブルに巻き込まれる様な子じゃ無いよ。その内、きっと犯人だって見つかるよ。とにかく、準備したら松本に帰るから会えないかな?」
香織からの返事は「うん」とだけ返って来た。
準備をする為、そのまま電話を切った。
電話を切ってすぐにバイト先の店長に電話をする。
店長は、ちょうどニュースを見ていた為、友里の事件の事は知っていた。
まさか、私の友達だったとは思っていなくて驚いていた。
暫くバイトを休む旨を説明し、高崎に戻る前に電話をする約束をして電話を切ると、次は京に電話をした。
「こんな朝早くにどうしたの?」寝惚けながら京が電話に出る。
私は、友里の事を一から簡潔に説明をすると、寝惚けていた京の目が覚めた様で、心配をしてくれた。
「友達か…俺も友達を亡くした事が前にあったけど、辛いよな…ところで、体調はどう?良くなった?」
「体調は、ずっと寝てたから少しは良くなったよ。友達のお葬式もあるし、また暫く実家に帰るけど、良いかな?」
私は、友達が亡くなった風に演技を続けた。
殺めたのは私だけど、それを偽った。偽り続ける為に演技を続けた。
「解った。じゃあ、店長と相談して真琴のシフトは、俺がカバー出来る日は入るから気にしなくて良いから、落ち着いたら連絡してよ。取り敢えず準備して学校に行かなきゃだから、また俺からも連絡するね」
そう言って京との電話を終え、みんなには大学生と偽っているが、昼間の仕事仲間へ電話をして実家へ帰る準備を始める事にした。
正直、私は誰との会話中でも必死に笑いを堪えていた。
みんな、そうやって私に騙されて、私の本性を知らないままなんだよね…
きっと、最後に飲んでいた私達は、警察から何かを聞かれるのかも知れない。
みんなの前で、どうやって悲しい振りを演じようか…
そんな事ばかり考えながら、私はカバンに荷物を入れていた。
昨日の内に、あの日使用した衣類などは高崎市にある、高崎市が運営するごみ処理場で全て破棄した。
全て、私の計画通りに物事は進んでいる。
その為に、私は計画が何一つ狂わない様にと確実に実行をしている。
私が疑われる事など無いと…
準備が終わり家を出ようとした時、千絵から電話が掛かって来た。
どうやら香織と話をして、ニュースを見たらしい。
私は、泣いてる様に演技をした。
千絵は嘘偽りの無い泣き声で話して来るが、心の中で私は何度も笑いを堪えた。
「今から帰るからね。着く時間が解ったら連絡するね」そう言って電話を切り、堪えていた笑いを声に出し笑った。
「だって、仕方なかったんだもん、友里が私の秘密に気付いていたみたいだから…」
ボソっと呟き、部屋に飾ってある写真を手に取った。
その写真には、中学校の卒業式に撮った制服姿の私と真琴、友里・香織・千絵の五人が幼い笑顔で写っている。
友里の顔部分に指を当てて「コロシタノハワタシ…」そう呟いた。
あの日、身動き取れない友里の首にタオルを巻き付けて、そのままドアノブまで引き摺って運び、抵抗しようとする友里を無視して寝室のドアノブにタオルをきつく結んで首を吊るした。
このままじゃ息は残っているから、私は躊躇わずに友里の足元に縛ったタオルを引っ張り、完全に首が閉まるまで力を込めて引っ張り続けた。
そこからは時間は掛からなかった。
微動だもしなくなった友里の姿を見て、完全に死んだ事を確認すると、手足を縛っていたタオルを解き、自分の着ていた衣服を脱ぎカバンへしまって、クローゼットから友里の私服を取り出し着替えた。
幸い、友里とは背格好が似ている為、サイズには問題が無かった。
友里の部屋にあるニット帽を被り、マスクと伊達メガネをした。
準備を終えると、玄関に置いてある鍵を握り、私は友里の振りをして外へ出た。
そして、鍵を閉めて駅へと向かったのだ。
全て計画通り。
この日の私は、風邪を引いてバイトを休んでいた。彼氏には寝ていたと連絡をしてある。そして、急いで高崎の家に戻るとすぐに京へ電話して頼み事をした。
ちょうど、バイトが終わる時間帯を狙って。
「今まで気持ち悪くて寝てたけど、だいぶ良くなって来たよ。もし、今大丈夫だったら飲み物が無くなっちゃって買いに行くのも少し辛いから、お願いしても良いかな?」
そう電話で甘え口調でお願いすると、京はすぐにコンビニでスポーツドリンクやお茶を数本買って来て届けてくれた。
京には、風邪をうつしたくないからと言って、玄関先で飲み物の受け取りをしてすぐに帰って貰った。そして、疲れからか私はすぐに眠りに就いた。
人を殺めといて普通に眠れる私は、どこかが異常なのか、怪物なのかと思えた…
これで、私のアリバイは完璧。
最初から疑われる事は無いと思うけど、もしもに備える事も必要だった。
あの日の事を思い返しながら、私はバスに乗って高崎駅へ向かい、松本市にある実家へと戻った…
香織と千絵に、到着時間のメールを送りながら、私は二人が悲しむ姿を想像しながら、私は、どんな言動で、どんな風に泣き顔や泣き声を演じ、作ろうかと考えた…
新幹線は再び私を乗せて、松本へ着こうとしている。
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