第2章 偽装真実 4

居酒屋からは現地解散となり、タクシーで家に帰ると、すぐに自室のベッドへと身を沈めた。

友里は勘付いている?それとも、ただ酔った勢いだったの?解らない…だけど、もし疑いが残ったまま誰かに相談でもして追求でもされたらと思うと、居ても立ってもいられずに、計画を練らなければならなかった。

しかし、今日や明日ではアリバイが無く、疑われる可能性も生じてしまう。

『コレデサイゴニシヨウ』

そう、心に決めて思考を巡らせて計画を練る。

気が付けば、お酒の酔いも醒めて朝になっていた…


翌朝、予定よりも早く、お昼前に実家を出て高崎へ戻る事にした。

母親には見送られたが、父親はどこかへ行ってしまったらしく、また暫く顔を合わさなくなるなと思った。

実家から駅までタクシーを使い、新幹線の中で昨夜練った計画を再度確認して、必要な物をスマホのメモ機能に書き込む事にした。アリバイ作りの作戦も一緒に。

その日の夜は、京がバイトを終えてから食事に行く約束を朝の内からしていた。

まず、ここで私のアリバイを作る為に、一つ演技をする作戦を立てた。

その為に、京が終わる前にバイト先へ顔を出すところから私の演技は始まる。

その時間までに、必要な物を買いに行かなければならなかったが、普段は行かないお店を選び、私が買い物に来たと思われなければならない。

普段買い物するお店では、万が一が生じた場合に防犯カメラや店員に聞き込みがあるのはドラマとかで知っていた。そのドラマの捜査が現実で行っているか知らないけど、やっといて損は無いだろうと。

それなら、少し遠くても痕跡が残らないお店で買い物をする様な計画にした。


高崎駅から車に乗り換えて、私は前橋市へと向かった。

17号沿いにある大きな中古衣料品や本などを販売するお店に行く為に。

値段ではなく、とにかく証拠を残したくないから、中古を買えばそれなりに捜査の目から逃れられたり、いくらでも嘘の証言が出来るんじゃないかと思ったからだ。

普段の私が買わない色のジャケットとスカートを購入し、私の身長を誤魔化す為にヒールの高い靴を買った。

サイズは私が普段着るMではなく、骨格を誤魔化す為に一つ大きいサイズを買った。

そして、顔の骨格を隠す為に、薄手のストールも一緒に買い、普段は持たない様な肩掛けのバッグも買った。

次に、この場所から少し離れた場所にあるウイッグ専門店へと向かう。

今の私の髪型は、ストレートで胸上くらいまで伸びていて、少しだけ茶色に染めている。購入したのは、もう少し明る目の茶色で、緩やかにパーマがかかっているウイッグにした。長さは、胸下より少し長いタイプの物にした。

これで一通り必要な物は揃ったので、一度自宅へと戻る事にした。


夜になるまで少し仮眠をし、バイト先の閉店時間少し前に着く様に家を出た。

「いらっしゃいませ」私が店内へ入ると、京が挨拶の言葉を発した。

入店したのが私だと気付くと、「何だ、真琴か。こんな時間にお客さんかと思ったよ」そう言って、厨房の方へ行き店長を呼んで来てくれた。

「佐々木さん、お帰り。何だか顔色が悪い様だけど大丈夫?」店長は、私の顔色の悪さにすぐ気付いた。内心、ホッとした。私は体調なんて悪くない。だからこそ、体調が悪く見られる様なメイクをし、マスクを着用してお店へ来たのだった。

ここでわざとらしく咳をして、風邪っぽいと自然にアピールする事が大事。

私は演技をした。

そして、京や店長、バイト先のみんなを騙す事に成功した。

「何だか、少し熱っぽくて…ただ、新鮮な内にと思ってお土産だけ届けに来ました」

そう言って、私はお土産を店長へ渡した。

続けて京を見て「ごめんね、やっぱ今日は体調が悪いから、また今度でも良いかな?」そう言うと京は、「良いから早く帰って寝て治しなよ。無理しないで、駄目そうなら明日は病院に行くんだよ?」と心配して声を掛けてくれた。

「そう言えば、千春ちゃんは大丈夫ですか?」と店長に聞くと、暫く休ませて欲しいと言われたらしい。

「人の心配も良いけど、まずは自分の心配しなさい」と、店長に言われて私はお店を出て自宅へと戻る事にした。

これで、作戦通り私が体調不良だと伝わった。後は…


翌日、朝から近所にある病院に行き、嘘の体調不良の訴えをし、薬を貰って来た。

京と店長に、今さっき病院に行って、体調がまだ戻らないからバイトを休む旨の電話をして、私は昨日買った衣類やウイッグをバッグに入れてバスで駅へと向う。

夕方16時過ぎに長野市へ着き、駅構内のトイレで着替えを済ます事にした。骨格を誤魔化す為に、ウエスト部分にタオルを入れたり、身長を誤魔化す為にヒールの高い靴を履いたりと、私が私では無くなる様に偽装し始める。

段取り通り準備を済ませて、友里の働く病院まで徒歩で向かう事にした。

この前、友里から名前と、だいたいの場所は教えて貰っていたから、目的地の病院まで迷わずに着く事が出来た。

『あおぞら小児科クリニック』

目的地の看板が見えた。私は、目の前にあるカフェで友里が出て来るのを待つ事にした。

友里から聞いた話では、病院から徒歩で数分のアパートに暮らしているらしい。

40分程すると、病院から友里が出て来た。どうやら一人の様だ。

私は、気付かれ無い様に距離を空けて後を着ける。

数分後、二階建ての小綺麗なアパートに入る姿を確認した。

良かった、ここはオートロックでもないし、人気の多い通りではない。

友里は、後を着けている私に気付いていない。

まさか、私に後を着けられてるなんて思ってもいない筈だ。

一階の一番右の部屋に入る友里を確認。

私は深呼吸をして「私は大丈夫、絶対に成功する」と何度も自分に言い聞かせて計画を実行へと移した。

インターホンを鳴らす。

「はい」友里の気怠そうな声がインターホン越しに聞こえて来た。

胸から下げた偽りの名札を、右手でインターホンのカメラ部分に差し出し、声色を変えて「私は長野市役所の松原と申します。先日よりこちらの地域のアパートの住民様を中心に回らせて頂いているのですが、5分程お時間はよろしいでしょうか?」

この時の作戦は、市役所と言えば安心感を与えるのと、偽装した名刺をインターホン越しで見せれば警戒心は解けると言う事。

松原なんて、バイト先の店長の名前を借りただけだった。

「ちょっと待って下さい」そう言って疑いや警戒心など無く、友里は玄関を勢いよく開けた。玄関が開いたと同時に、私は無言で強引に部屋に侵入し、友里のみぞおちに固く握った右拳を叩き付けた。

そして、左手に握っていたタオルで口を塞ぎながら押し倒しす。そのまま無理矢理口をこじ開けてタオルを咥えさせて後ろで縛り、別に用意していたタオルで手足も縛ると、そのまま一度玄関へと戻り、しっかりとチェーンまでして鍵を閉めた。

私はゆっくりと倒れている友里に近付いた。

その時、恐怖に怯える友里と目が合った。

恐らく、一体何が起きたのか解らず、頭の中がパニックになっているだろう。

変装用に掛けていた伊達メガネを外して、私は倒れる友里の横に座ってニヤリと笑うと、その時、やっと私が誰なのか認識した様子だった。

友里の声にならない苦悶の叫びが部屋中に響いた。私は、苦悶の叫びを掻き消す様にとテレビを付けた。

下らないニュースが流れているのを気にも止めず、身動きの取れない怯えた表情の友里の耳元で、囁く様に真実を告げる。


「私は真尋…死んだ姉の…真琴の代わりに生きているの…」

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