第2章 偽装真実 3
PM 22:34
ショッピングモールで再会した友達からの着信音が部屋に響く。
「真琴?もう着くけど、家の前まで行って大丈夫?」
「うん、じゃあ外に出て待ってるね」
簡単なやり取りだけを交わして電話を切ると、京にメールを送った。
内容は「これから久し振りに中学の友達と飲むよ」とだけ。
もうそろそろ京もバイトが終わるなと思いながら、下へ降りて玄関を出た。
10月の松本は、高崎よりも寒さが厳しい。
外へ出ると、吐息が白く染まり、視界を白い闇が一瞬だけ襲うこの感覚が、どことなく私の世界を鏡の様に写している様に思えた。
犯した過去の過ちに対しての罪悪感などは、今の私には微塵もない。
ただ、一つだけ残っているのは、あの日提案した事への少しの後悔だけだった。
でも、本当に後悔しているのか?と、聞かれたら、そうでもないと答えるだろう…
その時、一台の車が私の前で止まった。
窓が開いたと同時に私を呼ぶ友達の声がしたから、言われるがまま車に乗って、その場から走り去った。
友達の車からは、最近流行っている4人組のロックバンドの歌が流れていた。どうやら友達は熱狂的なファンらしく、つい最近も長野市で行ったライブへ行ったと楽しそうに話した。
そんな他愛もない会話をしていると、私の家から車で10分程の場所にある居酒屋へ到着した。
今夜、ここで飲むらしい。
車を止め店内に入ると、中学時代の友達二人がすでに飲んでいた。
「遅かったね、だから先に始めちゃったよ」そう第一声を発したのは、一番仲が良かった友里だった。
今日のメンバーは、友里と香織と私をここまで乗せて来てくれた千絵の四人。
「久し振りだね」そんな挨拶を交えて乾杯をして、お互いの近況報告会となった。
友里は短大を出て今は病院の受付と事務をやっているらしい。しかも、長野市で一人暮らしをしていて、千絵からの連絡で明日は仕事が休みだからと、わざわざ駆け付けてくれたみたいだった。
香織は実家で暮らしている。そして、実家の近所にあるコンビニでバイトしながら市内の大学に通っているらしい。
千絵は、高校を卒業と同時に今日、買い物に行ったショッピングモールにあるL&Kで働きだして、今では副店長。一番の出世は千絵だとみんなの意見は一致。
少し酔って来た香織が「こうやってみんなで会うのって久し振りだよね。真琴も友里も松本に居ないしさ。
何だか寂しいよ…その点、私と千絵はちょくちょく会ってるけどね」
それに続けて酔ったせいか頬を赤くした千絵が言った。
「いつもこのメンバーで遊んでたもんね、真琴の隣にはいつも妹の真尋が………あっ……!!」
そう言い掛けた時、千絵は思わず言ってしまった言葉を止める様に手で口を塞いだ。
一瞬だが、少し重い空気へと変わってしまった。
その空気を壊したのは友里だった。
「そんな昔話は置いといて、今ってみんな彼氏とか居たりするの?」
みんなが彼氏の有無の状況を話すと、私に目が向けられた。
「真琴は居るんだよね、この前電話で話した時に言ってたもんね」千絵が言うと、みんなが興味を示し、写真を見せてとか、どこで出会ったの?と言って来た。
私はスマホから京の写真を見せると、みんな興味津々になり、京との出会いとかを質問攻めして来た。
「一つ年下で、バイト先で出会ったんだよね」そう言ったら言ったで、今度はどっちから告白したの?と聞かれて、相手からと答えた。
0時30分を過ぎた頃には、みんなが顔を赤くして酔っ払ってか、他愛もない会話さえも支離滅裂になっていた。
ふと、私は三人の顔を見ながら考えた。
あの頃と変わらない友達、あの頃と変わらない会話。
でも、あの頃と一つだけ違うのは、この場所に姉が居ない事…
いつも五人で遊んだり、話をしていたけど、誰一人として私達姉妹がどちらかを言い当てた友達は居ない。
それだけ顔も声も性格もそっくりな姉妹だった。
みんなの中で私の前では姉の話は禁句になっていて、知らず知らずの内にその禁句によって気遣いさせてばかりだなと思った。
だけど、そんな気を遣わなくて良いよなんて言えないし、みんなが遠慮してくれてる気遣いと優しさが嬉しい反面、心苦しかったりもする。
もし、この場に姉が居たなら、もっと楽しい再会だったのにと考え始めた。
すると、友里が突然私に言った。
「ねぇ、真琴?ちょっと香織も千絵も寝ちゃったから、少し外に出て酔い醒ましに夜風に当たって来ない?」言われるがまま外に出た。
1時近いだけあって、外はすごく寒かったが、酔い醒ましには良い空気だった。
駐車場に設置してあるベンチに座って友里が煙草に火を付けた。
この四人で煙草を吸うのは私と友里だけだったし、店内は禁煙だからお互い煙草を我慢していた。
「友里は明日帰るの?」
「うん、朝早くに帰ってデートなんだよね。真琴は?」
「私は夕方かな?」
「また、暫く今日のメンバーで会えないから、寂しくなるけど頑張ろうね」
「うん」
「ねぇ、今二人だけだから単刀直入に聞くけど…ちょっと良いかな?」
急に真剣な眼差しで、友里が私の目を見詰めて言った。
「何?改まってさ…」
私は、笑顔交じりの返事をすると、友里はベンチから立ち上がって私に背を向けたまま言った。
「真琴って、本当に真琴なの?二人の事を保育園の時から知っている私は、たまに疑問に思っちゃう事があって…真琴は本当は真琴じゃなくて真尋じゃないかな?って…あの頃みたいに面白半分で入れ替わったままなのかなって…」
お互い無言が続いた。その無言は、3秒程だったと思うが、私達にはとても長く感じる無言の時間だっただろう。
「何を急に言うの?私は真琴だよ。正真正銘、佐々木真琴だよ?」
友里の背中を見詰めながら言う。
「ごめんごめん、そうだよね、真琴は真琴だよね。少し酔っ払っちゃったかな?ごめんね、こんな事を聞いちゃってさ…。そろそろ中に入ろうか?香織も千絵も起きてるかも知れないしさ…」そう言って、私達は店内へと戻った。
一瞬だけ見えた友里の表情は、気のせいかも知れないけど、何か腑に落ちない様にも見えた。
私は佐々木真琴…私は佐々木真琴…私は佐々木真琴…私は佐々木真琴………
私は………
誰?
友里の歩く後姿を目に焼き付けている時、頭の中で何かが弾け飛んだ感覚がした。
そして、あの時も今と同じ感覚だったな思い出した。
そう、あの時と同じ…
それは、高校卒業を間近に迫っていた時の…
コイツハキケンダ…アヤメテシマオウ…カ?
ソレトモ…モウスコシ…モウスコシダケヨウスヲミヨウカ…?
頭の中で、もう一人の私の声が聞こえて来た。
私は【誰】?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます