第2章 偽装真実 2

実家に到着し、玄関を開けて「ただいま」と、言って家に入って行くと、奥から母親の「お帰り」と言う声が聞こえて来る。声のする場所へ向かうと、母親がキッチンで何かを作っている。この匂いは私の大好きなカレーの匂いだった。

「今夜は、真琴の好きなカレー煮といたからね」笑顔で母親が言う。

私は母親が作るカレーが大好きだった。甘くもなく辛くもなく私には丁度良く食べやすい味で、どこのお店のカレーよりも美味しく大好きな優しい味。

「お父さんは仕事?」母親に訪ねると、父親は今日は仕事が休みらしく、近所へ買い物へ行ったまま、まだ帰っていないとの事だった。

私は、自分の部屋がある二階の自室へ荷物を置きに行く。そして、そのままベッドに腰を掛けた。

高崎に行った日から随分と年月が経ったにも関わらず、部屋が当時と何一つ変わってないなと思った。

部屋は何も変わってないのに、私はすっかり変わってしまった…

そう、心の中で思うと、思い出したくない出来事まで思い出してしまった。

忘れたいのに忘れられない、自分の中に無理矢理閉じ込めて開く事のない記憶が、部屋の中に居ると蘇って来た。

私には双子の姉がいた…

高校卒業間近の時、交通事故で亡くなってしまった姉が。

高崎の大学へ進学する予定だった私達だったけど、結局進学したのは私だけで、そんな私も半年もすれば大学を辞めていた。

理由は明確。姉の居ない大学生活がつまらなくて退屈だった。それに、私一人が幸せに暮らしてるのなんて嫌だったから。

あの事故は、全て私が悪いんだ。あの日、あんな事を提案しなければ、死んでいたのは姉ではなく私の方だった筈なのに…

物心付いた時から私達は親や周りの人を騙して困らせて遊んでいた。

一卵性双生児と言う、見た目や性格までもが殆ど同じで、親や友達ですら私達を見分ける事が出来なかった。

小学校の時なんて、悪戯半分で入れ替わって別の教室で授業を受けたりもした。

中学へ上がって、お洒落に興味が沸く様になった。私達が選ぶ服の趣味までも一緒だったから、良く使い回しをして着ていた。運命を変えたのは高校時代。

私達は話し合って私立 栄星高校を受験した。この高校には、色んなコースがあって、私は商業科で姉は英語科を選んだ。特別、理由は無かったけど、敢えて違う科を選んだだけだった。

高校に進学しても私達の事を見分ける事は誰も出来なかった。髪型から眉毛の形、服装や趣味や話し方までもが全て一緒だったから仕方がない事。

一卵性双生児の私達は、周りからは不思議な目で良く見られていた。

とにかく、常に一緒で、どちらかが風邪を引けば同じタイミングで風邪を引いたり、どちらかが先生に怒られたりすると、相手も急に不快な感情になったりと、お互いがお互いとリンクしていた。


ふと、スマホの着信音で我に返ると、電話の相手は京だった。

「もしもし、俺だけど今って大丈夫かな?」

私は大丈夫と伝えると「今さ、店長から電話が来たんだけど、東さんが体調不良で休んだらしいから今からバイト行って来るよ。多分、暫く東さんは休むらしくて、俺が代わりに出れる日はバイトに出る事になると思うよ」

「そうなんだ、解った。じゃあ頑張ってね。それより千春ちゃん、大丈夫なのかな?」

「俺も店長からの電話でしか知らないし、俺は連絡先知らないからどうなんだろ?取り合えず急いで来てって言われてるから、バイトに行って来るよ」そう言って電話を終えた。

京との電話を切ってすぐに千春ちゃんへメールを送ってみた。

暫くすると、千春ちゃんから返事が来た。どうやら風邪を引いて熱が出てしまったらしいので、私はお大事にとメールを送った。

スマホをバッグに入れて階段を下りた。

「少し出掛けて来るね」と、母親に声を掛けて外へ出る。

特に用事も買い物も無かったけど、久し振りの地元を歩こうと思っただけだった。

10分程歩くと、大きなショッピングモールに着いた。

ファッションエリアやフードコート、シネマエリアなど、色んなエリア分けされている。

エスカレーターを上り、二階のファッションエリアへと向かった。

最近の流行や、芸能人が愛用しているブランド店が何十店も並んでいる。私は、流行とか気にしないし、着たいと思う服を着ているから、まずは好きなブランドのお店を探して向かう。

私の好きなブランドL&Kに到着して、新作のコーナーを見ていると、後ろから「そちらは先日入荷したばかりの新作です。良かったら試着してみますか?」と、明るい声色の女性店員の営業トークが聞こえた。私は、新作のスカートを持って振り返ると中学時代の友達が店員だった。

「あれ?真琴じゃん、久し振り!」私の顔を見るなり営業トークではなく、店員から友達へと接し方が変わる。それに、今までなら姉妹どちらか解らないからか、どっち?みたいに聞かれる事が多かった。

しかし、姉が亡くなってからはその確認が突然無くなった。

その確認が一切無くなった事は寂しいけど仕方が無い。もう、間違える相手がこの世界にいないのだから。でも、正直言って私は………


「帰って来たんだ?」

「うん、さっきね。でも、明日には帰らなきゃだけど」

「明日か…私、明日も仕事だからな。真琴は今夜って大丈夫?お店22時までだから、その後で良かったら飲みに行かない?何人かに声を掛けてみるからさ」

久し振りの再会で積もる話もあるだろうし、私も実家の自室に居るよりは気分転換にもなる。それに、色々と思い出さなくて済むから誘いに乗る事にした。

「じゃあ、22時半頃に迎えに行くから家の近くになったら連絡するね」

今夜の予定が決まった。

「で、どう?そのスカートは?真琴なら似合うし、サイズもピッタシだよ」

急に友達から店員に切り替わる。

くすくすと笑って、私はスカートを購入し「また夜ね」と言って店を出た。


自宅へ帰ると、両親が揃ってテレビを見ていた。

「お、帰ったか。どうだ、高崎は?」父親が私を見て言って来た。

積もる話もお互いあるだろうし、母親が作ったカレーを食べながら話をした。

私が実家へ帰って来るのは、お盆と姉の命日だけだった。しかも、それらは日帰りで、今回は初めての泊り。

大学を半年で辞めて以来の生活を親は詳しくは知らない。

ただ、昼間は仕事をしていると話をしているだけで、どんな仕事かは聞かれた事が無かった。

父親は子供に関しては殆ど無関心だった。

それがあからさまに伝わって来ていたからか、当時の私達姉妹は父親に嫌われてるのかな?私達に興味が無いのかな?と話していた。

だからこそ、余計に姉妹の絆は強く結束されていた。

そんな父親とは逆に、母親は関心が強いと言うか、とにかく私達姉妹に対してたくさん話し掛けてくれたり、優しく接してくれている。

カレーを食べ終え、22時半頃に友達が迎えに来て飲みに行くとだけ親に伝えて、私はお風呂に入って自室へと戻る。

友達からの連絡を待ちながら部屋でテレビを見て過ごした。

テレビは、最近流行っている高校生活がテーマのドラマがやっている。

このドラマに出てくる主人公の教師が、バイト先の店長の性格や話し方に似ていると、バイトの菊地さんが言ったから興味が沸いて第三話から見ている。

確かに似てるし、それだけじゃなく話も面白くて毎週欠かさず見る様にもなった。

ただ、残念な事に、この教師の俳優と店長の見た目だけは真逆だった。

こんな見た目の店長なら、もっとお客さん入るのになって思う。

白熊の様な店長、カッコ良い俳優を比べちゃ駄目だけど、どうしても比べてしまう。

だけど、私は店長には感謝している。

何故なら、こんな私をバイトとして雇ってくれているから…



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